ヤンキー達の黄泉渡し
「新式エインヘリアル起動:<黄泉渡し>」
クロウの足元から、ゆっくりと水が溢れ出てくる。模擬戦闘場もクロウに合わせて、薄暗い深夜の川辺になった。模擬戦闘場の良い所はこうして自由に戦場を切り替えられる点だ。
「~♪~♬~♪」
どこからか小さなボートに乗ったよぼよぼの老人が現れる。彼はヤンキー達を見ると、ひー、ふ、みーと1人ずつ数えだした。そして薄気味の悪い引き攣ったしわがれた笑い声をあげると、そっとその小さなボートをヤンキー達の前に止めた。
「六文銭は準備したか?まともな死に方してぇなら大人しく乗りな」
観客席にいる人たちも、シャルも、目の前の異様な光景に何も言えずにいた。だが、ヤンキーの取り巻きのような奴は怒り心頭でずかずかと舟渡しの老人に近寄り、思いっきり川へ殴り飛ばした。
「小僧!どこだ!出てこい!正々堂々勝負しやがれ!」
「ここだよ」
ひっくり返った船もいつの間にか消え、霧はより一層濃くなり、川はより一層ヤンキー達の足元に充満した。びちゃびちゃと水音を立てながら、ヤンキー達は散開してクロウの居場所を探す。だが聞こえてくるのはやはり仲間の立てる水音と、不気味な鼻歌だけだった。そうして全員が油断するほど時間が経った時、ヤンキーの内の一人が「ひっ!」と言う音と共に、川に落ちた音がした。全員ドボンと深い音がした場所へ向かったが、そこには深い川しかなく、手を肩まで入れても底に触れられないほど深かった。
「嘘だろ、引きずり込まれたのか」
「どうする、ボス」
「ちくしょう」
全員が驚いていると、再び近くの仲間が短い悲鳴と共に川に落ちた。陸地だったはずなのに、どうして背後で川に落ちた音がしたのかも分からず、全員後ろを振り返る。仲間がいたはずの場所を見ると、巨大な水たまりができており、恐らく地面が抜けたんだと思われる。
「全員!散らばるな!固まれ!」
ヤンキー達が移動して固まる最中にも次々と川に引きずり込まれたり、陸地が抜けてそのまま落ちて戻らなくなったり、深い霧の中、次々と消えていく仲間の悲鳴と、川に沈む深い音と、不気味な鼻歌が木霊するこの戦闘場は、不気味と恐怖で満ちていた。
「ひ!ひぇ!ひゃああああ!」
恐怖に耐え切れず、逃げ出すヤンキー、そんな彼は霧の中、黄色い眼の巨大な鎌を持った髑髏のような死神に首を刎ねられてその場に倒れこむ。近くでそれを見たヤンキーは地面に飲み込まれる頭と胴体が分離した仲間に構う事も出来ず、なんとか死神に殴りかかるが、攻撃は死神を霧散させるだけで、彼も意識を失う前、自分の視界が360度回転した事に疑問を持つだけだった。空に浮かび鎌を持つ髑髏は、カタカタを口を動かしながら体を振るわせるような低い笑い声をあげる。ボスと呼ばれていたヤンキーも髑髏の死神を発見し、残っている他のヤンキー達に一斉攻撃を仕掛けるように言った。無数の魔法や弾丸、剣戟が飛んでいくかが、空に浮かぶ髑髏は霧散するだけで、全く効いてる様子は無かった。それどころか、より多くの人間に見られた事により、より多くの髑髏の死神が霧の中から現れた。川に引きずり込まれる恐怖の次は、目の前の髑髏に殺される恐怖に怯える羽目になった。多くの髑髏はヤンキー達の背後から現れ、一部の髑髏は彼らを腰からその鎌で両断し、なぜかまだ意識のあるヤンキーの悲鳴を無視して、彼らの頭を掴んで川の中に投げ入れる。他の髑髏はその巨大な鎌でヤンキー達の両足を切り落とし、鎌の先を彼らの腹部に差し込み、そのまま鎌で身体を引っ掛けつつ、川までずるずると引きずっていく。そして最後は彼らの悲鳴と共に鎌を振り、引っ掛けていたヤンキーを川に放り込んだ。
そうして次々と仲間が死神に殺され、川に放り投げられていく中、ボスのヤンキーも遂に耐え切れず、その場に膝をついて小さい声で謝罪を始めた。
「悪かった!俺たちの負けだ!だから仲間を!これ以上殺さないでくれ!」
髑髏は一瞬その言葉に動きを止め、全員ボスヤンキーの方を見たが、嘲りの笑いを上げるだけで、再び生き残っているヤンキー達に鎌を振るっていく。
「クソ!クソッ!クソォオオオオ!」
ボスヤンキーは近くの髑髏に殴りかかろうとしたが、何かに躓き見っともなく顔から地面に激突する。何に躓いたか分からず、足元を見てみると、眼球が零れ落ちた、血まみれのヤンキー仲間が川へ、地面の下へボスヤンキーを引きずろうとしていた。
「うわぁあああ!やめろぉ!離せ!この!」
「酷いじゃないか、仲間を足蹴にするなんて」
片足を掴まれ、地面に突っ伏しているボスヤンキーの前にクロウは現れる。白灰色と髑髏を模した装甲に白と黄色の混じった両手甲を付けたクロウが、全身鎧の音と水音を立てながら共に彼の前で立っている。
「てめぇ!てめぇえええ!てめぇえええええええ!」
「不服か?」
クロウは手を振ると、髑髏もボスヤンキーを掴んでいた亡霊達も川へ霧へと消えていく。
「おらぁあ!」
ボスヤンキーは目の前の男に殴りかかるが、聞こえてきたのは仲間の呻く声だった。
「ボス....なんで」
「な!そんな!」
「酷いな、仲間にまで手を出すのか?」
「うるせぇ!」
ボスヤンキーは次々に出現するクロウに殴りかかるが、全て彼の仲間を殴っており、次々と自分の手で倒れていく仲間に耐え切れなくなったボスは、ついに殴る事すら止めた。
「懲りたか?」
「ああ、もう止めた」
「何をだ?」
「もう、やめる」
ボスヤンキーは霧の中にいるクロウに縋るようにそう言う。
「もうこんな事は止める!会長にも挑まない!もう暴れない!だから!だから!」
「そうか、じゃあ、これからは反省してちゃんと勉強できるか?」
「する!全部言うこと聞く!だから!」
「ダウト」
謝罪しながら手榴弾のようなもののピンを抜いて投げようとしている背後から、クロウが現れ、その右手で彼の心臓を貫き、そのまま手に持っている手榴弾を彼の身体の中に埋め込んだ。そしてそのまま彼を川の中へと蹴り入れると、川の水を打ち上げるほどの爆発と共に、ヤンキーvsクロウの戦いは終わりを告げた。




