授業とシャルと殴り込みのヤンキー共
魔導学一般科、最初の授業は<現代魔法と魔導>と言う授業だった。まあ要は今はみんなどうやって魔法を使ってるのって話。先生の2時間分の話を要約すると、現在は魔導起動装置、通称デバイスを通じて、古代の詠唱文言を最適化、短縮した言語、魔導コードを編纂し、デバイスと言う魔法陣のようなものを通じて発動する。いわゆる詠唱、魔法陣双方を使った比較的理想的な魔法行使だと言える。ちなみにこのマギアコードをしようして発動する魔法を作り出したりて発動したり、あらかじめデバイスに登録してボタン1つで発動できるようにする事をマナプログラミングと言うらしい。今になってようやっと、あの日フェリスが言っていた事が分かった。
次の授業は<魔導起動装置の理論について>と言う授業。最初の内は現代の魔法について学ぶ授業が多いらしく、最終的には自らのデバイスを作る事になっている。当初はクロウが魔杖の作り方を生徒教えていたのに、今では逆に教わる立場になっているとはなぁ。しみじみ懐かしみながらクロウは先生の言う事をしっかりとノートに書きこんでいた。他の生徒は皆、ケータイや既に購入したデバイスの記録機能を使い、空中にキーボートを出現させてタイピングしていたり、授業を録画していたり、むしろ紙とペンを使うクロウは本当に1人進化に取り残されたチンパンジーのような気持ちになった。悲しい。
昼食時間。
適当に食事を終え、余った時間でクロウは図書館に着ていた。場所は2階、デバイスに関する本棚だ。適当に本を開きつつ、脳内で全知の書庫からデバイス関連の書籍を全て引っ張り出し、理解していく。なるほど、デバイスは以前にクロウが作った魔杖をベースに、マギアコードも、魔法陣のように詠唱をバラバラにしただけか。それならクロウでもすぐに習得できた。後で適当な魔杖でもデバイスに改造しよう。
昼食後、<マナプログラミングⅠ>と言う、いわゆる魔法を習得する授業が始まった。ⅠはクラスⅠ相当の魔法をマナプログラミングで再現しようとする授業であり、まあ特に当たり障りもなく、クロウは平均的な威力の平均的な火の玉を学校貸し出しのデバイスで発動することに成功した。
初日は入学式も相まって、その日の授業は終了。解散となった。このまま帰るか、学園の武器工廠に忍び込んで何個かデバイスを作るか迷っていると、ケータイのアプリに通知が届いた。
「クロウ、シャルだ。今空いているか?時間があれば校内の第3模擬戦闘場に来てほしい」
「了解」
それだけ言ってクロウは校内アプリから第3模擬戦闘場の場所をナビゲートしてもらい、ゆっくりと向かうことにした。
***
「一閃」
鋭い一撃が、容赦なく機体の防御壁を切り裂く。吹き飛ばされて動けなくなった操縦者を他の操縦者が安全な場所まで引っ張っていく。第3模擬戦闘場では、現在、調子に乗った新入生を片っ端から再起不能にしている所だ。学園最強と言われている<桜花>の使い手、シャルはその桃色の機体で容赦なく新入生の出鼻を砕いている。剣術に驕る者には剣で切り伏せ、力自慢には腕力で屈服させ、魔法使いには魔法で分からせる。医務室からも何人か出張しており、一応だが念のために重傷者が出ないように見張っている。
「はぁ、今年はこんなもんか」
そこら中に倒れて動けなくなっている新入生を見下し、左手に持った脇差をしまう。残念ながら挑んできた新入生1880人は、誰一人として彼女に右手の太刀を抜かせる事は無かった。
***
「おいおい、なんじゃこりゃあ」
模擬戦闘場の中央には見慣れた機体が1人、シャルの<桜花>だ。そして周りにいるのはボロボロになって動けなくなった恐らくは新入生達。周囲の観客席にも戦闘不能になった生徒達が寝転がっており、かろうじて起き上がれるものは座って戦闘場を見学していた。白い大きなバッグに赤十字のマークが入った、白衣を着た人達もおり、恐らくは医務室から出張してきたのだろう。
「あっ!クロウ!おーい!こっちだ!」
桜花は手を振りつつ、クロウの方へ走ってこようとするが、足元で倒れている新入生に躓いて転びそうになる。
「おっとっと」
体勢を立て直したシャルは、右手の太刀を抜いて、倒れている新入生達にトドメをさしていく。「ぐえっ!」とか「ぐはっ!」などの断末魔と共に次々エインヘリアルが強制解除され、動ける他の新入生達に次々と医務員の前に運ばれていった。そうして周りが綺麗になった頃、シャルは改めて立っているクロウに話しかける。
「クロウ~!模擬戦しよ~?」
機体越しでも分かるほど嬉しそうな声でぴょんぴょん跳ねる桜花、もといシャル。クロウは分かったと言って来た道を引き返し、更衣室に向かおうとしたら、いつのまにか後ろから大量の生徒がやってきた。制服の校章からすると、彼らは2年と3年生だが、みんな制服を着崩しており、心なしかガラも悪い。
「また来たのか、君達」
「おうよ会長様、新入生ボコって疲れてる今ならてめぇを倒しててっぺん取れるんじゃねぇかと思ってな、当然逃げねぇよなかいちょーさんよ?」
すげぇ!テレビでしか見たことないレベルのヤンキー言葉!昔なら今しも、今でもいるんだ!絶滅危惧種じゃん!
「うーん、確かに断りはしない、でも折角だし、君達の前にいるその少年を倒した者だけ相手をしよう」
「おいシャル?」
勝手に門番的役を任されてしまった。帰りたい。
「なんだてめぇ、その恰好は、お前...特待生か、はっ!上等だよ!行くぞお前ら!今すぐ更衣室に行くぞ!」
「「「おっす!」」」
ヤンキー達は全員更衣室に向かった。
「えぇ...」
まだ着替えてないクロウであった。仕方ないのでアイテムボックスから換装する。シャルは既に戦闘場の後ろの大きな岩に腰かけており、足をぶらぶらされながらクロウの後ろで「がんばれ~」と言っていた。
数分後、ヤンキー達は全員真っ黒の戦闘服に着替えており、左腕につけた彼らの専用デバイスから全員専用機に着替える。
(はえー、こんな良い機体持ってんのに、勿体ねぇな)
「おらぁ、こっちは準備できたぞ坊主!さっさとお前のしょうもない汎用機を出しな!ボコボコにしてやるぜ!」
「はぁ?」
誰がいつ汎用機を出すと言った?




