入学式
一般科の制服は茶色と濃緑色を基調とした重厚な見た目をしており、対照的に貴族科の制服は白と金を基調としている。これは当時の理事長がより貴族から金を巻き上げるためだと言われているが、今では貴族の権力と権威を振りかざす一部になっている事は否めない。一般科特待生は茶色のベースに新緑と言う見る人を引き付けるような服装になっている。だが、なぜか他の特待生とは違い、クロウの服装は暗黒ともいえる黒色をベースに、背中には青藍色の今はもう忘れられた北帝領の大公の紋章、そして左胸にはクロウ領の紋章が入っていた。
「へー特待生の服ってみんなこんな感じなのかな?違うよな?おいなんだこの見覚えのある服は??」
セシリア許すまじ。今度会ったら引っ叩く。
「着るしかねぇか」
黒い制服に身を包む。人より少し背の高いクロウは、その黒い制服を着ると、とてもよく似合っていた。威圧的な意味で。
「こっわ」
鏡の中の自分を見て思う。ツーブロックの黒髪に、真っ黒の瞳孔、黒いブーツに黒色のパンツ、濃紺色のシャツに黒のジャケット。さらには背中と左胸に青色の紋章。威圧感たっぷりじゃん。特待生っていうかもう暗殺者かなんかだろこれ。不登校になりそう。まだ通いだしてねぇけど。
一般科の寮の最上階、ここ、30階は特待生の為の階層になっており、特待入学してきた学生や、在学中に目覚ましい功績と成績を残したもののみが立ち入りを許されている。彼のカードも特注の盗難阻止魔法もかけられており、一般立ち入りも不可能のようだ。それもそのはず、国の根幹たる衛星兵器の技術研究も過去には特待生から発表されているため、階だけでなく、特待生の部屋カードまでもが独立性を持っている。
時刻は8時。クロウはだだっ広い自分の部屋から起きて、シャワーを浴びる。適当に朝食を作るか、食堂へ食べに行くかするべきだが、遠いので適当に自分で作って食べる。そして服装に着替え、昨晩大量にダウンロードした教材を確認しつつ、入学式の会場へ行くバス停へ向かった。周りの学生や特待生は皆、茶色や濃緑、もしくは新緑の綺麗な制服なのに、自分だけは真っ黒の制服。他の生徒もクロウを見ると、ひそひそ何かを話しながら遠ざかっていくだけだった。ケータイの校内地図アプリによれば、バス停はこの先だが、どうやら人だかりができているようだ。皆バスを待っているわけではなく、どうやら誰かを囲っているらしい。何事かと思い、クロウも近づいてみると、中央にはシャルがいた。
「シャル?なんでここに」
「あっ!いた!おーい!クロウー!」
シャルを囲っていた人もクロウを見るとその異様さにぎょっとし、2人のためにそっと道を開けた。
「クロウ!久しぶりだな」
「ああ、この前はごめん、大丈夫か?後遺症とかないか?」
「ああ、大丈夫だ、この通りぴんぴんしている」
腕をぶんぶん振り回して元気だというシャル。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「ああ、クロウも受かったと聞いてな、せっかくだから一緒にエインヘリアルで登校しようかと」
「え?校内で出していいの?」
「ああ、いいとも、生徒同士の勝手な決闘とかは許されていないが、移動とかに使う分には許されている。ほら」
シャルは頭上を指さす。そこには白色の制服を着た貴族科達の生徒が新式のエインヘリアルで空を飛んで登校している。貴族科の多くは自前で買った、もしくは作ったエインヘリアルがあるようで、一般科の生徒達はエインヘリアルの実戦授業を終えるまでは支給されないらしい。セシリア学園の他学園とは一線を画す点の一つとして、エインヘリアルを装備できる学生、つまり魔導学一般科と魔導学貴族科に入る事が出来た生徒は皆、エインヘリアル初操縦の授業で希望する生徒のみ新式汎用型エインヘリアルも無料で貰う事ができる。貴族科のような専用機には及ばないものの、汎用型エインヘリアルでも有事には一般科兵になれるほどには強い。クロウは既にオーバーテクノロジー気味な新式エインヘリアルをいくつも作り出しているので、いわゆる常識を学ぶために、貰う気満々である。ちなみにクロウが新たに作り出した技術等は全てベルアルに公開しており、少しずつ他の研究員が解明出来たら、いずれクロセルべ王国中にも広まるだろう。
「次は初代理事長、セシリア様のお言葉です」
「皆さん初めまして、この国の女帝であり、学園を作り上げた初代理事長です。この学園を...」
はい、お決まりの長ーい校長先生のお話しですね。凄く良い事を言っているんだが、一部の若人にはなかなか聞き入れるのが難しく、何人かは眠ってしまった。
「次は魔導学一般科特待生兼第57代目生徒会長、シャルロットさんのお話しです」
「やぁ諸君、私の名前は....」
シャルが在校生代表として壇上で話をしている。彼女は特待生の中でも戦闘力と武力で<功績>を残したようで、彼女の専用機も一般科生徒を特待生含め全員打ち倒したことで学園が彼女のために特注したらしい。はえーすっごい強い。百人斬りならぬ万人斬り?多分一般科だけでももっといると思うけど。
「最後に、私はいつでも諸君らの挑戦を待っている。私に勝って、会長の座に就きたいと言う意志あらば、いつでも挑んでくるがよい。では」
長い髪を靡かせ、去り際に端にいるクロウにウィンクした気がする。ていうかされた気がする。その後も入学式は恙無く終わり、クロウは最初の授業の教室へと向かった。




