入学試験
そんなこんなで入学試験当日。ホテルから外に出ると、既に数多くの学生や車が聖セシリア学園へ向かっていた。どうやら半分は在校生が誘導してくれているみたいで、恐らくだが、セシリア学園の校章と、風紀治安委員会のリストを身に着けている生徒も安全を警戒してくれているようだ。クロウもいつものラフな格好ではなく、セミフォーマルな服に着替え、人混みに流されていく。あれよあれよと進んでいるうちに、ようやく受付にたどり着いた。
「次の方、どうぞ」
「あっはい」
「こちらに名前と志望科の記入をお願いします」
言われるまま名前と志望する学科を記入する。クロウ、一般科と。一般科なら、常識を教えてくれるだろう。
「はい、ありがとうございます。えーと、クロウ....クロウ!?」
「はい!?なんでしょう!?」
いきなり大声で名前を呼ばれて驚く。
「いえ、失礼しました。では番号札890番でお待ちください。すぐに呼ばれると思います」
「はぁ、どうも」
在校生に案内されるまま、巨大な体育館のような場所で適当に座って待機する。体育館右上は番号400番台を空中投影しており、先は長そうだなと体育館中央で何をしているのか眺めていた。どうやら既にここは第一試験の会場のようだ。名前を呼ばれると、まずは所定の場所に座り、魔素量、つまりMP量を測られる。次に魔力変換割合。なんでもいいから魔法を一つ作り出し、どれだけMPを使ったを測り、最後に魔法威力測定、1つ前の試験で作り出した魔法をそのまま的にぶつければいいという、至ってシンプルな3つの検査だ。どうやら魔力探知及び開発の教授や助教授が自ら装置を使って検査してくれるようで、特に目覚ましい結果を残した生徒はそのままゼミに招かれることもあるんだとか。なおこの試験で不合格だと言われても落ち込むことはなく、技術科にそのまま進学することも可能で、土木建築や魔導兵器開発など、分野は違えど、そのまま家に送り返す事は無いようだ。無論、帰りたい人は別だけど。
「890番、890番の番号札をお持ちの方は、前に進んでください」
「えあ?」
まだ400番代は終わってないはず、なぜいきなり800番代のクロウが呼ばれたのか分からないが、右上の投影機は890番を投影しているし、呼ばれたからには行かなければいけない。急いで前に向かい、案内の人に手持ちの札を見せる。そうしてまずはMP量検査へ。所定の椅子に座り、右腕を出す、係の人は、何やらブレスレットのような機械を右腕に括り付けた。
「チクッとしますよ」
凄く小さな針で血を取られたようだ。直ぐにブレスレットを外され、係の人は書類に何か記入している。
「魔素量は500、毎秒平均回復量は5、悪くないですね、次の試験へどうぞ」
クロウは予め自分のMP上限とリジェネ量を弄っておいた。危ない危ない、これで数万とか出たら大騒ぎだ。
「クロウさん、こっちですよ」
「ん?」
なぜ俺の名前を?声の見てみると、大きな丸縁眼鏡をかけた、ショートボブの小さな女学生が手を振っていた。
「えーと...?」
「あっ、初めまして、生徒会雑務担当のタタって言います。クロウさんのお話は会長さんから沢山聞いてます!なんでも学園最強の会長さんを1撃で倒す猛者がいるとかなんとか」
「初めましてタタさん、いや恥ずかしい」
まさか会長本人に吹聴されているとは思わなかった。
「えへへ、それじゃあ、試験の続きをしましょうか」
「了解です、ほいっと」
何でもいいと言われたので、適当に火の玉を作り出す。すると、タタは机の上に置いてあった装置で火の玉をスキャンする。
「変換率50%、凄いですね」
「そうなのか?」
「ええ、みんな魔導杖の補助込みで40%くらいが普通ですから」
「はえー」
滅茶苦茶効率悪いじゃん。そんなんいくらMPあっても足りんやろ。
「じゃ、最後はあの的に、どーんとぶつけちゃってください」
「よし来た」
ボールを投げるように放り投げるクロウ。クロウの火の玉は、的にぶつかると、小さく爆発し、的の上で600と言う数値を現した。
「ほー、いいですね、クロウさん、これは結果を期待してもいいと思いますよ」
「よし、ありがとう」
「はい、じゃあ番号札お返ししますね、午後には結果がケータイに送られると思うので、それまで食堂や図書館でのんびりしててください」
「ありがとう」
学園案内に従って、のんびりと校舎を探索する。本当に滅茶苦茶広いこの学園は、校舎移動にバスを使うほどだった。クロウは近くの食堂で軽く食事を取り、いろいろな場所を見て回る。医務室、訓練場、教室、体育館、さらには屋上まで。流石に理事長室には飛び込めなかったが、少し気になっていた。それと、昔作った武器工廠が気になるが、どうやら戦時以外は立ち入り禁止のようだ。することもないので言われるまま図書館へ。10階まである図書館の1階は既に数多くの在校生や結果待ちの人がおり、腰を掛ける場所が無い。仕方ないので2階へ。
「ここもかよ」
3階、4階、5階。どこもかしこも人でいっぱいだ。仕方ないので10階へ。10階は何やら身なりの良い貴公子やお嬢様だらけで、物凄く気まずい。しまった、場所を間違えたか。階段を下ろうとしたが、何やらカップルのような1組が上がってくる。逃げ場がない!、クロウは10階中央にある螺旋階段を逃げるように駆け上がった。
***
「えっ、今の殿方」
「ああ、あの階段を上がったな」
「どうする、引き留めるか?」
「いや、俺は行けないな」
「私もよ...」
***
ドアを開けると、そこは庭園だった。螺旋階段の上はシンプルな柵に囲まれた屋上だと思っていたが、草木咲き誇る大きな箱庭のような幻想的な屋上は、中央にアンティークなテーブルとイス、そして古風なメイドとその主の憩いの場所だった。
白金色の髪を腰まで垂らし、白いタイツと純白の制服に包まれた庭園の主は、ティーカップに口をつけ、満足げに品のある声でメイドに称賛を送っていた。そのメイドも少し屈んで、主の称賛を聞いて嬉しそうに、誇らしげに笑った。
(うわぁ、めっちゃ絵になる~)
遠く離れた場所から内心で尊みを感じていたクロウ。だが、メイドと目が合った瞬間、メイドの動きが一瞬止まった。
(やばっ!)
ティーポットを置いたメイドはすぐさまそのロングスカートをたくし上げ、鬼のような形相で飛び上がり、両手でナイフを投げつつその主の前に立ちふさがった。




