クロウの専用機
「クロウ!ぜひ!ぜひとも私達聖セシリア学園へ!」
「入る入る!入るから!近い近い!」
「試験の事なら心配するな!私が必ず君を入れる!そして毎日私と試合をしてくれ!」
「おい生徒会長!それ不正だろお前!」
「ふふん!私は生徒会代表の入学推薦権があるんだ」
「すげぇ特権」
試合後、一応訓練場の医務室でシャルを見てもらっている。医者曰く、壁にぶつかった衝撃が強すぎて背中に打撲を負うっているらしい。その当の本人はそんなのを気にせず、背中を医者に丸出しにしながらクロウの両腕を掴んでぶんぶんと振りながら、眼を輝かせながら勧誘している。いや入るよセシリア学園。付近にセシリア学園しかないし。おう近い近い!
「確か入学試験は6日後だったな。流石にこれは繰り上げられないが、君が入学できるように口添えをしておこう」
「いやだからそれ」
「いいのだ、どちらにしろ君のような人材を野に放っておくよりはマシだ」
「ぐぬぬ」
手当を終えたセシリアはがっちりとクロウの腕を抱いて外へ連れ出す。
「よし!腹が減った!食事にしよう!」
「え?今から?」
「うむ!私の家で!と言いたいところだが、最近ピリピリしているので場所を変えよう」
それからシャルに連れられて、少しお高いレストランに着いた。ここは固形食を出す場所ではない事に安堵しつつ、少しお高い値段に驚いた。
「私は流行りの固形食が嫌いでな、食った気にならん」
そう言いながらテーブルに備え付けられたマシンをシャルはスキャンして、ポンポンポンと画面をタップして注文していく。
「ほら、クロウも注文すると良い、遠慮するな、ここはロゼ家の系列の店だ」
クロウは3品ほど注文してシャルに彼女のケータイを返す。暫くして、おいしそうなパスタやグリルチキンが運ばれてきた。店員は皆俺を睨んでいたが、シャルが咳払いをするとそそくさと退散した。それからは食事をしつつ、シャルに学園について聞いたり、シャルにはクロウの持つ旧式のエインヘリアルについてあれそれ聞かれたり、はたから見ればカップルのようだったが、話している内容は何とも言えなかった。
食事を終えた後、シャルはクロウと散歩しながら道を歩いていたが、道の近くにリムジンが1台止まっており、その横ではいかにも執事の風貌の老人が綺麗な所作でシャルを待っていた。
「ああ、時間か。ではクロウ、また明日。約束通り、6時に今日のあの修練場集合だぞ」
「分かったよ、また明日な」
シャルはリムジンに向かって歩きつつ、一度だけクロウの方へ振り返り、手を振った後、リムジンに乗り込んだ。クロウはリムジンが遠ざかったのを見ると人のいない場所でこっそり転移ポータルを開いた。行先は、北星領。
(欲しい!あの新式のエインヘリアル、ぜひ作りたい)
クロウが昔作った装甲型の魔導戦闘補助機にも見えるそれは、クロウの制作欲を多大に刺激した。とりあえずベルアルのいる場所へテレポートしたクロウは、執務中の彼女の肩を抱いて、血走った目で自分の研究室の場所を聞いた。ベルアルは「あーまたどこかで刺激を受けたんだな」と言う諦めの顔でその場所をクロウに教えると、クロウは早速、北星領の隣の惑星、通称、試験用惑星第一号に向かった。空気防護とかそういうの全部無視して、コロニーから出たクロウはそのまま試験用惑星行きの星間列車も無視してそのまま跳躍する。光よりも早く動けるクロウは、一瞬で着陸し、そのまま実験室へ向かった。
「全知の書庫へ、訪問開始」
クロウは目を閉じてこの世の全ての知恵と技術が詰まった書庫へ向かう。そこから近代のエインヘリアルの発展の新式エインヘリアルについての知恵や技術を全て閲覧し、習得した。こんな便利な力だが、<常識>だけはおいていなかった。
「この部屋を加速させる。無限思考の廃人になりたくなかったら絶対に入ってくるな」
他の職員にそう言い、クロウは巨大な実験室を独占した。新人以外はクロウの言う廃人を本当に見たことがあるので、クロウの言うことを聞かない新人を殴り飛ばしつつ、そそくさと本部コロニーへ帰還した。
「時空間加速2500倍、分身」
部屋の中の時間を加速させ、自身を何人にも分裂させて開発を開始する。時間の速さが2500倍になったこの中では、クロウとその分身が狂ったように新しい新式エインヘリアルを開発していた。翌日、朝、クロウが時空間加速を止め、再び毛むくじゃらになって部屋を飛び出してきた時、昔からベルアルとクロウを知る者は、また教科書を書き換えなければいかない大変さを思い出した。モデル機をいくつか部屋に残し、クロウは自身に清潔の魔法をかけ、アバター変更でぼさぼさの髪と髭を元に戻す。そして早速ベルアルのいるコロニーへ向かった。
「ベルアル!見てくれ!新式が出来たぞ!」
ベルアルに渡したのはクロウが彼女のために作り上げた新式エインヘリアル<星々の支配者>。外神の技術と育星法も取り入れた彼女の専用機は、まるで赤子の手を捻るように、星々を砕き、無限宇宙の支配者になれるだろう。ベルアルは大事そうに受け取ると、クロウから貰ったネックレスにしまった。
クロウが自分に作ったのは<冥獄に揺蕩う者>。忘れられた冥府と地獄に揺蕩い、人々に恐怖と畏怖を齎す最凶最悪のエインヘリアルだ。ベルアルはクロウに「絶対に人前で使うなよ?」と釘を差し、彼が旧式を模倣した、例えば新式の魔術師殺しや吸血鬼ならば使っても大丈夫。じゃないけど揺蕩う者よりマシ。と言うお許しが出た。やったぜ。
クロウは満足げに部屋を出て、自分の作った新式のエインヘリアル達を眺めつつ、ロゼでのホテルに戻ってシャワーを浴びたりして身支度を整えた。




