新式と旧式
「シャルは、その生徒会長なのか?」
「ん?ああ、そうだとも」
彼女に言われるまま、学園内で使われる通信アプリや教材ダウンロード用のアプリを入れていく。彼女は丁度授業を終え、今からエインヘリアルの自主練をするために近くの訓練場に向かうそうだ。
「お、ダウンロードが終わった、本当に早いなこれ」
「ああそうだとも、そうだ、ついでに連絡先を交換しよう、君が入学してから何かあっては良くないからな」
「ああ、助かる、シャルに連絡を入れなければならないほどの大事を起こさないように努めるよ」
「構わないさ、暇があれば連絡してくれ」
「いいのか?忙しいだろう」
「何、私には優秀な右腕と左腕がいるのだ、実のところ割と暇でな」
「そういうもんなのか」
「そういうもんなのだ」
2人で可笑しそうに笑うと、クロウは自然と彼女と通信アプリのフレンド登録をした。そこから道なりに進むと、大きな金属が打ち合う音や魔法が飛んでいく音、そして巨大なドームのような建物が見てきた。
「着いた。ここがロゼ第二訓練場だ」
「おー!すごい大きさだ!」
中がどうなっているかは入ってみないと分からないが、防音結界を張っていても聞こえてくるこの剣戟音は、戦いの苛烈さを物語っている。
「クロウ、君はエインヘリアルを持っているか?」
「あー、あるっちゃあるんだけど、旧式でな」
「旧式、なるほど、あの重たいのか」
「そうそう」
シャルは手を顎に当て、少し考えた後、クロウにこう言った。
「クロウ、君を旧式の使い手として頼みたいことがある。私と一戦交えてくれないか?」
彼女は真剣な顔でクロウを見上げた。
どうやら話によると、近々シャルの家で後継者を決めるエインヘリアルの試合が行われるようで、最有力候補の一人がシャルの家の次男、従軍経験のある旧式エインヘリアルの使い手だそうだ。新式ならば既に数千時間の戦闘経験があるため、何も怖くないが、戦争用の旧式エインヘリアルは戦ったことがない。なので対策のしようもない。だから丁度同じく旧式の使い手であるクロウに頼んだと言う事だ。
「なるほど、その次男のエインヘリアルは見た事あるのか?」
「ああ、こんな見た目だ」
彼女は彼女のケータイから写真を探し出し、そのままケータイから空中へフリップする。すると写真は立体化し、その全容を明らかにした。
「あー、これ汎用型か」
「知っているのか?」
「うん、多分同じやつ使えるわ」
「なんだと!ならばぜひ同じのを!」
「良いよ!」
特に断る理由もないので、そのままベルアルと訓練場の受付に向かう。シャルは手短く2人の名前と使用時間を記入し、更衣室へ向かった。クロウも更衣室へ。何人か着替えているようで、更衣室にはロッカーだけでなく、シャワー室なども完備されていた。便利~。クロウは更衣室の影でこっそりアイテムボックスを開き、動きやすい汗をかいてもいい服装に着替える。そして更衣室を出て壁の指示板の通り、第三訓練室に向かった。
どうやら先にシャルが着替えて待っていたようで、クロウは敢えてエインヘリアルを出さずにシャルに近づいた。
「シャル!それってもしかして専用機か?」
「ああ、よく気付いたな。これは私の専用機、桜花だ」
全身がピンク色の桜で覆われたようなその薄手の装甲。しかし見た目に反して装甲はしっかりとしており、なおかつエインヘリアルのエネルギーを使って常時使用者を守るための透明な防御壁も発動している。彼女は両手に日本刀を持っており、赤色の太刀と桃色の脇差は、その色からは考えられないほどの鋭さを醸し出していた。古代の女刀客のような彼女のエインヘリアルの見た目とその歴戦の戦士のような佇まいは、彼女が生徒会長の座に座っていられることの説明にもなっている。
「今度詳しく話を聞かせてくれ」
「ああ、もちろん構わない」
クロウは軽く礼を言い、少し離れた場所で汎用型エインヘリアルと取り出す。彼女よりも数倍巨大なその旧式のエインヘリアルは、低クラスのモンスターや魔物ならば素手で叩き潰せそうなほどの威圧感を醸し出していた。
「えーと、写真の通りなら」
クロウはエインヘリアルに乗り、起動してシンクロした後、エインヘリアルに備え付けられていた大盾と片手剣を取り出す。しっかりと両手に装備し、久しぶりの操作に慣れるように少しだけ準備運動をした。
思考操作型の汎用エインヘリアルは、長く乗っていないと機体とのリンク度が下がり、思うように動かせなくなる。数十万、数百万時間の操縦時間があるとは言え、慣れるまで少し時間のかかったクロウであった。
「よし、やろうシャル」
「あ、ああ、では遠慮なくいくぞクロウ!」
***
旧式の戦闘動画は、何度も見たことがある。彼らは重鈍で、反応も鈍く、内部操作も複雑で、モンスター一つ倒すのにも大変苦労した。だからこそ、そんな無骨な旧式を取って代わるように、簡単で、薄手で、俊敏で、威力のある新式のエインヘリアルが旧式に取って代わった。なのに、目の前のこの深緑の巨人は、どうしてこんなに、いともたやすく私の攻撃を防いでいるのだろう。私の数倍もあるこの巨大な旧式は、まるでその重さを忘れたように、軽々と飛び上がり、その左手の大盾で私の攻撃を難なくいなし、右手の巨大な剣は素早く、圧倒的な絶望と共に私を容赦なく吹き飛ばした。訓練室の壁に激突し、飛びそう意識を必死に繋ぎ止め、エインヘリアルの防御壁を確認する。
「なっ!」
一撃で半分を持っていかれた。防御を重きに置いたエインヘリアルでは無いものの、専用機である桜花は並みのエインヘリアルより数倍の防壁量を持っているはず。それなのに、たった一撃で半分持っていかれた。つまり、私の攻撃は相手に届かず、相手の攻撃は全てほぼ致命傷。目の前の深緑の巨人は、まるで悪魔のようなその見た目で私を見下ろしていた。これは恐らく旧式とか新式とかそういう問題ではない。純粋な、操縦者の力量差だ。
「負、けました」
***
シャルの敗北宣言を聞いて、クロウは静かにエインヘリアルを解除する。久しぶりの操縦で、かなり鈍っていたを確認したクロウは、再び訓練せねばと内心で密かに決意を固めていた。そして武装解除をしたシャルに向かって歩き出す。実際、彼女の攻撃はその桜花の名前に相応しいほど洗練されており、鋭く、強烈だった。彼女の二刀流も厄介で、最初は大盾で防ぐことすら叶わず、ただ延々とぴょんぴょん回避することしたできなかったが、操作慣れすればどうと言う事はなく、左手の大盾で彼女の苛烈な攻撃を防げるようになっていた。彼女も連撃が通用しないと気付くや否や、速度で圧倒しようと出力を上げていたが、汎用型の足は別に遅くない。彼女がいくら走り回ろうとも、難なく防げるし、むしろ走り回りだしたせいで彼女に隙ができ始めていた。そこで彼女の隙をついて一撃。重量差なのか、それとも手加減出来ていなかったのか、打ち出された弾丸のように壁に向かって飛んで行った彼女は、そのまま動かなくなり、そのまま敗北宣言をした。




