ロゼの学園とケータイ購入
「それでクロウ、クロセルべの宰相に」
「断る」
「判断が速い!」
身支度を終え、王国南部の、初めてアマネやセシリアに会った喫茶店でセシリアと朝食を食べている。味と店長は変わらないものの、アマネ達<戦乙女達>がオーナーとなっており、非常に安い賃料の代わりにこうしてセシリアや戦乙女達には割引をしてくれるようになった。
「そういえばアマネ達は?」
「ああ、彼女たちはね」
コーヒーのお代わりを貰いつつ、セシリアから話を聞く。どうやら彼女達は南国サウフォード時代に新たな領土開拓のために多大な尽力を尽くしてくれたみたいで、特に旧東部王国の反乱軍鎮圧と、旧北帝領のモンスター討伐に多大に貢献し、今ではセシリア直下の近衛兵団としてセシリアの護衛と警護を担っているらしい。だが兵器開発やその他の業務もきちんとこなしているようで、聖母お抱えだからと言って驕らずきちんと職務を全うしているようだ。偉い。
「それで、俺の住処についてなんだが」
「それね、考えたんだけど、クロウって今の世界について何も知らないじゃん?」
「うん、まあそうなんだけど」
「ならさ、常識を知るためにも、行かない?学校」
「ヤダ」
「えー!なんでよ!」
「なんでって言われてもなぁ」
いくらクロウの見た目が若かろうと、中身はとっくに成人済み。今更テストの辛さや朝の早起きを味わいたくない。
「じゃあどうやって常識の勉強するの!」
「そりゃあ、マキナやセシリアに」
「私忙しいので教えられませーん!」
「呑気に俺とお茶する時間はあるのにか?」
「それとこれとは別でーす!」
「ぐぬぬ」
ぷいっと腕を組んで顔を横に向けるセシリア。
「学園には特待生用の個別部屋があるから、クロウが学園にいけば住処もゲットできるし常識も学べるから一石二鳥なんだけど」
「ぐぬぬぬ」
それは確かにそう。現実問題、常識を知らないままでは、確かにゲーム内でも不便が多すぎる。
「わーったよ、行くよ学園」
「やった!じゃあ聖セシリア学園ね、今は場所を移して王国中心の<ロゼ>って都市にあるから、よろしく!一週間後に入学試験日だからね!遅れないでね!」
「あっ!おい待て!」
「じゃ!」
セシリアは去り際、左手に付けていた腕時計をテーブルに備え付けてあるマシンにスキャンすると、お支払いが完了しました。と通知音が響いた。なにそれ知らない。あれじゃん。某林檎マークの腕時計じゃん。もしかしてケータイも普及してる?喫茶店から出ていく時に、ちらりと他のテーブルを覗き見たが、みんなケータイやスマホを持っているようで、現実ではクロウもあるのに、逆にゲーム内では持っていないと言う、なんだかあべこべなクロウであった。
翌日、先にクロウ領からの空中バスに乗り、中央都市のロゼへ向かうクロウ。早めについて宿を取り、先に都市を探索することにした。南国が全国を統一してから、教育分野も大きく発展し、ロゼにある新築された聖セシリア学園は、その最たる例であった。元はクロウとセシリアが共に作り上げた学園だが、エインヘリアルとネフィリムの技術公開と言う世界を揺るがる大事件をきっかけに、その新しい技術を用いて真っ先に移転改築されたのがこの聖セシリア学園だ。生徒だけでも数万人を抱えるこの学園では、もはやロゼの街全体が学園や生徒のために様変わりしており、このロゼの街も通称、ロゼ学園都市などと呼ばれている。以上がクロウが一般利用可能な食堂から見聞きした内容である。とりあえず腹を満たしたクロウは、ケータイを買いに行くことにした。食堂中の制服を着た生徒達が皆ケータイを弄ったり、ケータイを機械にかざして支払ったりしているのを見ると、本当に現実そっくりでびっくりする。だからこそ、急いでケータイを買わねばと思ったクロウだった。
近くの一般的なホテルで1週間の宿泊をすることは決まっているので、とりあえず近くのケータイショップに向かう。通信用の衛星なども数多く開発、打ち上げられた今のこの世界では、いわゆる御三家通信会社にのような企業もあると言う。なお皆クロウ傘下の企業な模様。暫く歩いていると、数多くの生徒で賑わうケータイショップを見つけた。どうやら御三家の内の一つのようで、オレンジ色の猫がトレードマックの大手通信会社のようだ。
クロウは生徒達の若さと溢れ出る青春さに少し怖気づいたが、ケータイが無くては何もできない。意を決して店に飛び込んだ。数分後、クロウは見たこともない機能だらけのケータイに頭を悩ませることになった。魔素マネーはまだわかる。いわゆる電子マネーだろう。だがエンクレディア広域情報交換ってなんだよ!あとグラデルタ対応って、なんだそのグラ何とかっていうのは!何ができるんだよそれ!クロウがモデル機の下の説明文とにらめっこをしていると、一人の女性に話しかけられた。
「どうしたのだ少年。初めてケータイを買うのか?」
振り返ると制服を着た一人の女性がクロウの後ろに立っていた。身長は170cmほどだが、整った顔立ちに黒髪黒目と言うクロウと同じタイプの女性が立っていた。周りからは小さな黄色い悲鳴と、「やだ生徒会長様よ!初めて本物を見たわ!」などど聞こえてくる。
「あ、ああ、その、初めてケータイを買うもんだから、何を買えばいいか分からず」
「なるほど、少年、貴殿は入学志望者か?」
「あ、ああ」
彼女よりかなり歳も背丈も大きいはずだが、彼女のその自然な振る舞いは、将来彼女が人の上に立つ存在なのだと思わせた。てか少年少年って、そんな幼いか俺?恐らく例の鎖で見た目も少し若くなっているのだろう。多分20代前半くらいに。
「ならば、こっちだ少年」
彼女に自然と腕を引かれ、ショップをぐるりと回る。彼女が指さしたそれは、クロウの使い慣れた黒く四角いスマホだった。
「男とは黒や青を好むものだろう。これは数多くの登録機能が付いているから、学園に入った後も食堂や部屋のカードを登録しておけば、ケータイ一つで何でもできるぞ」
「そうなのか、それはありがたい。これにするよ」
近くの店員はクロウを見ると、すぐに未開封の同じ機種の新品を取り出してくれた。同時に通信用の小型カードもどんなプランがあるか確認しようと思ったが、隣の生徒会長は、
「毎月魔素通信無制限規制無しのプランがいいだろう。最初の数か月は大量の教材をダウンロードする羽目になる。一番安いプランではいつまで経っても教材が開けず、とても不便だ。店員、私の顔に免じて、割引をしてやってくれないか?」
「もももももちろんです!」
最終的に毎月無制限通信規制無しのプランを最安値で契約することに成功した。とりえあず1年の契約だが、いつでも他のプランに変えてもいいし、続けるなら同じ値段でもっと長く契約させてくれるそうだ。
「ありがとう、助かったよ...えっと」
「ああ、自己紹介がまだだったな。私の名前はシャルロット・リヒテン・ロゼだ。気軽にシャルと呼んでくれ」
「ありがとう、シャル。俺はクロウだ。クロウって呼んでくれ」
店を出た二人は、歩きながら自己紹介をしていた。
沢山の誤字脱字報告ありがとうございます。本当に感謝してます。すいません毎度毎度。本当に感謝です。




