料理と君と
ベルアルは先に自分の惑星に戻ったので、3人とクロウは小さな晩餐会を開く事になった。
「じゃあクロウお願い!私今日はシチューがいい」
「私はしっかりとした肉料理を」
「私はガソリンを...冗談だ。魚料理がいい」
3人は当然のようにクロウに注文する。固形栄養食が広まる今、クロウのような料理スキルや料理ができる人物は本当に少なくなっていた。プレイヤーの中では、クロウの料理スキルは当然MAX。大成している。クロセルべ王国の中では王宮筆頭料理人になれるだろう。
「しょうがねぇな」
クロウは久しぶりにアイテムボックスの中の食材を探しながら厨房へ向かった。
「さて、やりますか」
お気に入りの寒鉄で売った包丁とアイテムボックスから取り出し、まずはオードブルとサラダを作る。
オードブルは折角だからクラッカーとハムとジャムで作った小さな盛り合わせを出し、近くのネフィリムに運ばせる。サラダは南国の牧草地で放牧されていた牛の乳から作った濃厚チーズとハイデマリード城で栽培していたシャキシャキの野菜を使ったサラダを作る。先にこの2つを先に出し、飲み物はいつもの熟成ぶどうジュースと、飲みたい人ように桃のシャンパンをそれぞれ一本ずつボトルを運ばせた。
メイン、まずはセシリアリクエストのシチューから。じゃがいも、にんじん、たまねぎと鶏肉などなど。ミドリがいつも共有アイテムボックスに入れてくれているオキュラス城で栽培されたものを使う。精霊に祝福された超高級食材だ。美味しくないわけがない。灰汁を抜いて鍋で弱火で煮込み、時空間魔法で4時間ほど加速させた後、黒い器に綺麗に盛り付ける。ついでに昔作ってアイテムボックスに入れたままのバゲットも持っていこう。ブレッドナイフで切ってみると、まるで焼き立てのような香ばしさと柔らかさだった。流石プレイヤーチート、アイテムボックス様です。
次は肉料理。ルナティアの好きそうな肉料理と言えばやはりステーキだろうか。ならば純粋に素材を味を生かそう。そう、ドラゴンステーキ。昔にクロが撃ち落とした天空龍の肉が非常に美味しかったので、定期的にクロにはアイテムボックスに入れるように言ってある。とりあえず500gのフィレ肉をシンプルに塩コショウで味付けし、そのまま豪快に焼く。仕上げに南国特産のワインでフランベし、近場のネフィリムに配膳を任せた。
最後はマキナリクエストの魚料理。本当にガソリンを出してやろうかと思ったけど、ちゃんと作ることにした。海の王者という二つ名がついていたサメのネームドモンスターを昔倒したときに、残っていたヒレを使ってフカヒレを作る。醬油ベースの味付けで、余計な手間暇を加えずに一皿完成させる。これも配膳に戻ってきたネフィリムに任せ、後は簡単にデザートでも作ろう。ゼリーでいいや。ブドウとかみかんとかの。
簡単に作ったゼリーを3つ器に盛り、クロウ自らダイニングへと運ぶ。扉を開けると、3人は楽しそうにメインを食べつつ、クロウの用意した熟成ぶどうのジュースを飲んで楽しそうに話していた。
「ん?」
「あっ!くりょう~」
「え?セシリアおま酒飲んだ?」
「ああ、シャンパンを3杯ほど」
「しっかり飲んでんなおい」
「くりょ~くりょ~のごはん美味しい~えへへ~」
呂律が回らなくなり、子供のように椅子の腕左右に揺れながら赤い顔でクロウの名前を呼んでいる、らしい。
「デザートだ」
「ありがとう、私は本当に君がガソリンを出すと思っていたよ」
「いや出さねぇよ」
「私はハイオクでも構わなかったのだが」
「そのワイングラスに注いでやろうか」
「冗談だ」
「酔ってんのかお前も?」
「かもしれないな」
神格になれば状態異常は全て無効化される。もちろん<泥酔>も含めてだ。ルナティアも堪能するように少しずつだが、止まることなくステーキを食べているし、みんな満足したのだろう。クロウも会話に混ざってセシリアを宥めつつ、楽しい雰囲気のまま晩餐会はお開きになった。
結局の所住む場所は見つからずにセシリアが爆睡してしまったので、諦めて閉館したクロウ宮殿に入る。目覚める時に気づいたけど、棺は自室に作ったはずだが、いつのまにか場所を移し替えられていたらしい。クロウには反応しない侵入者阻止の防壁を抜け、そのまま自室に入る。やっぱり慣れ親しんだ自室が一番だ。自身に<清潔>の魔法をかけ、そのままベッドに座って窓から外の夜空を眺める。
現実世界に似てて違う、非現実なこの現実は、クロウの大好きな物の一つに違いなかった。
「眠れないのか?」
「ああ、腹減ったのか?」
振り返らずとも、背後の転移ポータルから出てくるのがベルアルだとすぐに気づく。クロウはベルアルを見ずにアイテムボックスでおつまみと晩酌用の酒を探していると、いきなり飛びついてきたベルアルに押し倒された。
「えっ、なにベルアルお前まさか!?」
食われる!?痛くはないが、物凄い力でクロウに抱き着くベルアルは、よく見るとクロウの胸元に顔を埋めて泣いていた。小さな啜り泣きだったが、静かな夜では、しっかりとクロウの耳に届いた。
「もう、ぐすん、帰ってこないと思った....」
「ごめん...」
「20年も..うぅ...待たせるなんて」
「ごめんて....」
「....謝って....」
「ごめんなさい」
「ついでに抱きしめて」
「うん」
「このまま寝る」
「うん...え!?」
危うく同意しそうになったクロウであったが、更に物凄い力で締め付けるベルアルだったので、両腕だけ引き抜いて、彼女が落ちないように抱きつつ、自分含めて2人に布団を被せてそのまま眠ったクロウだった。




