南部大統一とエインヘリアルの普遍化
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「撤退だ!撤退しろ!」
アルイタはなりふり構わず建物の影に隠れながら逃げていた。空からは無数の爆撃が降ってくる。最初は火炎魔法だと思っていたが、魔法防壁を貫通するならば魔法ではない何かだ。恐らくはアイテムの類だろうが、どこからどうやって出てきているのか分からない。ただまるで尽きぬ滝のように留まる事を知らない空からの爆撃は、あっと言う間に10万人のうち7万人を肉の欠片に変えた。
「くそ!クラスⅦ火炎魔法<爆裂火炎砲>!」
触れると巨大な爆発を起こす火球を打ち出す。だがその火球は空に飛ぶ鉄の塊にある程度まで近づくと、あっと言う間に霧散した。
「<鑑定>!」
「????」
「クソッ!なんで何も見えねぇんだよ!」
汎用型軍式戦闘用のエインヘリアルの推定レベルは350~。今のアルイタでは実質レベル差が100以上有り、鑑定できないのは当たり前だったが、プレイヤーではない彼には分からなかった。
「標的捕捉、識別名アルイタ、<略奪>の魔王と確認、殲滅を開始します」
「うおっ!やべぇやべぇ!」
瞬間転移や長距離テレポートは戦闘開始時に空飛ぶ機械に封じられた。魔法で作り出したゾンビ・ホースで逃げようにも、向こうの方が機動力は上、勝てる気がしない。とにかく馬を走らせて遠くへ遠くへ逃げる。部下にもばらばらに逃げるように言ったが、3体のうち1体は正確にアルイタを追跡する。
「収束照射、開始します」
背中を開け、太陽の光を吸収し、体内で何倍にも反射、収束させた後、エインヘリアルの目から打ち出す。地面すら焦がすその太陽光は、ゾンビ・ホースを一瞬で真っ二つに焦がした。馬が無くなった今、アルイタは地面に転げ落ち、必死に逃げようとしていた。エインヘリアルが彼の両足を焼き、トドメをさそうとした瞬間、天の聖光に焼かれた
「逃げなさい、我が子よ、魔王クロウの手下から」
空から降ってくる黄金の粉が千切れた彼の千切れた足に触れた瞬間、みるみる足は生え、真っ二つに焦げていたゾンビ・ホースも聖馬ペルシャポネとして蘇っていた。そうしてアルイタは壊れたエインヘリアルを後ろに、彼の新しい馬と共に突傑族の領地へと逃げ帰った。
「残兵を片付けろ、撤退だ」
べルアルはベルクにそういうと、残った2体のエインヘリアルは一人残らず裏切りの貴族と突傑族を収束太陽光で焼き殺していった。こうして略奪の魔王アルイタとの騒動は、教会領と貴族領を失った事を代償に、無事に解決した。焼け残った領土は全て南国に統合された。ミナトも元より火の車でついに首が回らなくなり、同じく南国領へ帰属の意思を見せる。セシリアも同意し、南国は中央永続中立領を除く西部王国の全てを手に入れた。同時に東部王国へ圧力をかけており、このまま上手くいけば東部王国も帰属するだろう。
数か月後、ベルアルの予測通り東部王国も南部王国に帰属した。それにより、南部王国は他の2国を平和に併合し、ついに北星領と肩を並べられるほど巨大な王国になった。南国は急な統合により数多くの併合問題や種族文化の違いに戸惑うと思われるが、セシリアからすればすぐにどうにかできるだろう。ベルアルはセシリア達南国と改めて平和条約を刷新すると言った。その間セシリアも暇をするわけにはいかず、エインヘリアルの研究、国内の不安分子の早期発見と鎮圧などなど、巨大な南国が長い平和を手に入れるのに、数十年かかった。もちろんベルアル達も十年間何もしていないわけではない。星々を操る力を手に入れたベルアル達は、宇宙開発に乗り出し、マキナやルナティアの力を借りて、宇宙船や惑星兵器を作り上げていた。
更に十年後、ベルアルは異星移住計画を実行、計画通り成功し、クロウ領を残したまま、あらゆる都市、設備、生物、山脈、その他一切の資源をもって違う惑星へと移住した。ただいつでも帰還できるように、それぞれ南国宮殿とクロウ領に大規模ポータルを用意してあり、登録された人間のみ自由に行き来できるようにしている。
旧北星領が空いた事により、セシリアは数多くの人材をもって北方を開拓しようとしているが、極寒の環境に凶悪な原生生物が無作為に成長を始め、同時にベルアルが抑え込んでいた蛮族も活動を再開し、北陸開拓は難航を極めた。それでも何とかクロウ領までは開拓に成功し、最重要防衛拠点としてクロウ領にはセシリアの近衛兵を多数配置し、絶対防衛の意を周りに示していた。正直クロウ領にはマキナやルナティア達がいるし、無限稼働するネフィリムやエインヘリアル達、またソラもいるため全く守護する必要はないのだが、そろそろ30を超えるセシリアは未だにクロウが目覚めたら真っ先に会いに行きたいのだろう。
北陸開拓が安定してから2か月後、セシリアはマキナやルナティアと知り合い、エインヘリアル量産のために毎日クロウ領に寄っていた。未だに地下に入る事は許されていないが、それよりも今は国民皆がエインヘリアルを持てるのを目標に、軽量化、簡略化をするため毎日技術職人を連れて2人に話を聞いている。そうしてセシリアの弛まない努力の結果、ついにはエインヘリアルの普遍化に成功した。だが、それを実現する頃には、セシリアは既に35になろうとしていた。




