ベルアルの特訓その4
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空に浮かぶ女帝。手には3つの星を持ち、まるで神のように星々を弄ぶ。北帝宮殿へ帰還した。彼女の変わりように彼女を知る者は皆驚いた。180cmを超える背丈に天上の女神のような体つき。ルナティアのような暗紫ではなく、明るい青紫色になっていた。瞳も髪と同じ色になっており、その腰まで伸びた髪はまるで空の天の川のように光に反射するようになっていた。<鋼鉄>で作り上げたその女帝に相応しい軽装鎧は、彼女の格を更に数段引き上げた。
宮殿に戻りると、真っ先にクリスがやってくる。彼女はベルアルの姿を見るや否や、その場に片膝をついて彼女の帰還を祝福した。ベルアルはこれからまだやることがあるといい、クリスには一週間後に私の帰還式を兼ねて宴会を開く事を皆に伝えろと言った。クリスが承諾し、どこかへ走り去っていくと、ベルアルはクロウ領へと向かった。
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「久しいな、機甲神」
「その呼び方、ルナか」
「私を幼名で呼べるのはお前くらいだよ、今は...マキナだったか」
「ああ、どうしたんだ?」
「いやなに、ベルアルの小娘がそろそろ帰ってくると思ってな、いちいち祈祷を待つのも面倒だし、ついでにお前とも話がしたいと思ってここで待っているんだ」
「ああ、彼女なら...」
「マキナ、ルナティアも」
「お帰りベルアル」
「コラ、師匠と呼ばんか」
ルナティアはベルアルにデコピンをする。恒星級の実力を持つベルアルでも、流石にルナティアのデコピンは痛かった。
「師匠?」
「ああ、あの夜言っただろう、まずは足元まで登って来いと、お前は文字通り登ってきた。だからお前を弟子にする」
「本当か!」
「冥月の名に懸けて真実だと言おう」
そこまで言われると流石のベルアルも信じざる終えない。
「そういう事だ、明日から毎晩修業が始まるぞ、分かったら今日は早く寝ろ」
「ああ、そうする」
ベルアルは少し早歩きで浴場へ向かい、しっかりと体中の汚れと不純物を洗い流し、いつもの寝巻に着替えて眠った。
翌日、再び宮殿に戻ったベルアルは、ここ最近の出来事などの報告をベオスから受けていた。とはいうものの、何もなく、いつも通り北帝領は平和だった。だが、北帝領の外はなかなかに動乱の真っただ中だったりする。
西部教会領は既に今代の<略奪>の魔王と彼の率いる突傑族と戦争状態にあり、最初は優勢だったものの、数多くの聖職者を喰われた今、教会領からはずっと魔王に有効打を与えられず、ジリジリと、だがゆっくりとその領土を侵略されていた。独立貴族領やミナト領からも援軍は送っているものの、数多くは送れず、東部王国は関係ないからと南部教会領に食料や武器のレンドリースだけ、南国もクロウ無き今は有事に備えての軍備の強化の最中であり、すぐには兵を差し出せないため、食料や武器武装をレンドリースするだけだった。ミナト領も同様に、辺境の強化と南国との提携強化に勤しんでおり、西部教会領に兵を派遣する余裕はないとのこと。嫌われてるな、教会領。
ベルアルは溜まった仕事をこなしつつ、ベオスとベルクについて北帝領内の巡回兵士の数を増やすことと、以前の魔王騒動のように、再びモンスターの活発化に注目し、いつでも対応できる用意をする事を伝えた。
夜、クロウ領の外れへ飛んでいき、ルナティアとの約束の場所にたどり着く。既にルナティアがいたみたいで、彼女は両手から次々と星を生み出しながら、空へ浮かべていた。
「お?来たな」
「ああ」
ベルアルもルナティアに倣っていくつか自分の恒星を分裂させ、空に浮かべる。
「まあ修行と言っても特別な事をするわけではない、北帝としてお前には私の生み出した最高の恒星群を全て吸収してもらう」
空を指さすルナティア。彼女の指さす先には大熊座を形作る七つの曜星、<北斗七星>だ。
「まずは一つ目」
一つ目の星をベルアルに渡す。代わりの星もルナティアは既に空に用意していあり、ベルアルは迷わず北斗七星の第一星を吸収する。空に浮いている時はあまり気にならなかったが、実際にその一つ吸収してみるとルナティアの実力がわかる。彼女の恒星と比べると、ベルアルの恒星達はまるで米粒のような大きさだった。
「拒否反応とかはないと思うけど、暫く肉体的強さとかに慣れないと思うから、これからは一週間に一つずつな」
「?それってどういう」
そこまで言い、1歩踏み出したベルアルは地面に巨大なクレーターを残した。
「ほら」
急いで魔法で元に戻す。今なら重エインヘリアルも数百m殴り飛ばせる自信がある。確かにこれは暫く肉体に慣れる必要があるなとベルアルは思い、ルナティアに礼を言って宮殿に戻った。
そこからは大変だった。毎日ペンを握れば真っ二つに折れ、食事の時にナイフで肉を切ろうとすればテーブルが割れ、朝起きた時にベットから起き上がろうと力を入れればベッドが壊れるなどなど、これは彼女が北斗七星の最後の1つを吸収してから3週間が経った時にようやくコントロールできるようになった。
「最後の修行だ、私とやりあおう」
完全に力をコントロールできるようになり、新たな星々を融合、分裂しながら時には空に打ち上げたりしていたベルアル。突如ルナティアにそう言われて、まともに相手になるか分からなかったが、自分の力を全力でぶつけてみたい気持ちもあった。
「やろう」
ベルアルは少し躊躇した後、ルナティアと決闘をすることになった。
惑星第7865号
ルナティアが生み出した所謂地球の近似惑星。水と空気があるこの惑星は、ベルアル達の元居る星より880万光年離れている点以外は居住にピッタリの星だった。
「よし、じゃあこのコインが地面に落ちたら開始だ」
「分かった」
ルナティアはぴっちりとした紫色のライダースーツに着替えており、彼女はベルアルが頷いたのを確認すると、コインを親指で弾いて宙に放り上げた。リン、とコインが地面に落ちる。
「行くぞ!」
ルナティアはあえて一言入れてからベルアルに突撃した。北斗七星と無数の恒星群を持つベルアルだが、それでも一瞬きの間にルナティアに距離を詰められ、常時発動しているクラスX防御魔法すら貫通し、彼女は容赦なくベルアルの顔面に拳を叩きつけた。




