ベルアルの特訓その3
さらに1か月後、ベルアルはついに練体を完成させた。3つの宇宙は彼女の体内で繋がり、暴力的なまでに冥気を吸っている。そうしてベルアルは最初の育星を始めることにした。ルナティアがベルアルに埋め込んだ3つの<惑星>、それぞれを解析し、統合することから始める。
腹部には<鋼鉄>
心臓には<灼熱>
頭部には<冷凍>
宇宙を統合した今、この3つの惑星は、ベルアルの体内で彼女にいくつかの変化をもたらしていた。
<鋼鉄>は比類なき堅固さと金属への親和性を高め、あらゆる鋼鉄を自在に生み出し操ることができる。
<灼熱>は比類なき熱量とエネルギーを生み出し、あらゆる物体物質を自在に加熱することができる。
<冷凍>は比類なき低温と静止を齎し、あらゆる物質物体の温度を下げ、動きを停止させることができる。
ベルアルはまずはこの3つの体内に漂う惑星を育てることにした。
<灼熱>を育てるのは彼女の目の前にあるこの<冥炎>
<鋼鉄>を育てるのはクロウが彼女に渡した無数のエインヘリアルを取り込めば良いだろう
<冷凍>を育てるにはクロウ領最北端の氷山を取り込めば大丈夫。
ベルアルはまずは体内の灼熱の惑星を育てることにした。器を開け、目の前の冥炎を吸収する。炎がみるみるとベルアル吸収され、気が付くと目の前の炎は全てベルアルに吸収された。自身の内部に意識を向けると、灼熱の星が冥炎を吸収している。吸収が進むごとに、ベルアルは自分の体がぶるぶると震えていることに気が付いた。寒い。竈の火が消えたせいではなく、冥炎のその特性のせいでもあるのだろう。ベルアルは自らの抱きしめ、更にブランケットで体を包み、吸収が終わるのを待つしかなかった。竈に魔法で火を付け直し、炎に飛び込みたくなる衝動を堪える。数時間後、体内にある灼熱の星は冥炎の吸収を終えた。
以前より数十倍も大きくなった灼熱の星は赤橙色から少し青紫に変化しており、よくよく見ると、他の惑星が<灼熱>の周囲をぐるぐると回っていた。なるほど、これが<恒星>になった証か。
<恒星>は惑星をその周囲に纏い、<惑星>は衛星を纏う。<灼熱>が恒星になった今、ベルアルは新しいスキルが使えるようになった。一つは<灼熱>が冥気と冥炎を生み出せるようになっていること。そのおかげで、<鋼鉄>の能力とかけ合わせればクロウも<冥凍鉄>や<冥寒鉄>などのクロウしか生み出せなかった特殊鉱石を自在に作り出せるようになったこと。そして<冷凍>の能力もかけ合わせることで、条件はあるが、<時間停止>を可能にした。
そして次にベルアルは汎用エインヘリアルと取り出し、そのパーツを一つずつ分解すると、お構いなしに噛みついた。<鋼鉄>と練体の成果により、その常人離れした咬力でモグモグとエインヘリアルを喰らう。灼熱で嚥下したエインヘリアルを溶かしつつ、鋼鉄に吸わせていく。意外にも拒否反応もなく、ただただ与えられた分だけどんどんと吸収し、大きくなる。流石にクロウから貰った特注型エインヘリアルは食べなかったが、無数に持っていたエインヘリアルとネフィリムも全て文字通り食べて吸収してしまった。すると、<鋼鉄>も恒星サイズに成長し、今は冷凍の惑星だけがぐるぐると2つの恒星の周りを廻っていた。ベルアルは氷山へ転移した。北帝領最北、巨大な氷人族が住まうヨランの山脈の頂上。太陽から一番遠いこの山の頂上は冷凍の星を育てるのに一番いい環境だった。灼熱の力で凍え死ぬぎりぎりを維持しつつ、消えそうな意識を必死に保つ。そうして周囲からさらに冷気を吸収する。骨まで凍り付きそうなほどの冷気を容赦なく取り込み、<冷凍>の星へ注ぎ込む。
「しまっ...い...しきが....」
一瞬の気のゆるみがベルアルの意識を容赦無く刈り取る。抗いがたい冷気に意識を奪われたベルアルは、吸収したまま目をつぶってしまった。
2週間後、<冷凍>の星が恒星となり、ベルアルは意識を取り戻した。以前とは違い、灼熱を使わなくても寒さを感じなくなった。恐らくこれが恒星になった力なのだろう。恐らく同様に高熱や熱によってもダメージを負わなくなっていると確信した。
三つの恒星の特性を把握し無事に自分に定着させた後、自在に分裂融合、その星の行使できるようになったベルアルは、久しぶりに宮殿へ帰ることにした。以前のように歩く必要もなく、自然と宙に浮けるようになっているので、移動する星のようにベルアルは空に浮いたままそれぞれの恒星の一部を分裂させ左手に3つ出現させて回転させながら宮殿への飛行時間を潰す。




