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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
幕間
103/227

ベルアルの特訓その1

翌日、侍女と執事達はベルアルの変化に驚いていたが、皆がベルアルの1年間の努力を知っており、誰もが彼女へ祝辞を述べていた。こうして北帝領は冥月の祝福と加護を授かり、夜の帳を味方につけた。そのおかげで、国民全員が<暗視>スキルを手に入れたり、夜間の戦闘能力が冴えたり、北帝領で夜間に出現するモンスターが強化されたり、新しい<冥>と<月>を冠するモンスターや素材が取れるようになった。おかげで、北帝領の隠密部隊が更に強化され、辺境争いや蛮族は、完全隠密を体得した北帝領の夜間部隊に恐れをなし、今以上に手を出さなくなったと言う。


そんなベルアルはと言うと、今までの加護が無くなった代わりに、それらを全て合わせても遠く及ばないほど強力な<冥月>の加護を手に入れた。だが、副作用により、日中の尋常じゃない気怠さと体調不良を克服する必要があった。最初は分厚いカーテンで覆い隠せば何とかなるものの、日を追うごとに体調不良が増していき、いつでは日中に高熱を出し、夜間に過去の4倍の速度で仕事をこなせるようになっていた。だがこのままではいつまで経っても体調不良が治らない上、これ以上放っておくと本当に命を落としかねない。ベルアルはマキナが持ってきた本に記載されていたように、()()を浴びに行くことにした。


北部第5採掘場

この採掘場から取れる<凍鉄>や<寒鉄>に冥気を付与し、<冥凍鉄>や<冥寒鉄>にするためにクロウが作り上げた自己循環及び再生する<冥気炉>が採掘場地下深くにあった。ベルアルは最も信頼する乳母兼侍女であるクリスのみを連れて、この採掘場地下48階の冥気炉駆動区画にやってきた。本来、冥気など死後の物質や物体に長時間並みの人間が触れると、文字通り死期が近くなるのだが、クリスはその半魅惑族(サキュバス)の血統から、常人よりも強い耐性を得ている。同時に、もう80近い齢のはずだが、見た目は20代前半の成人女性と変わりなかった。


日中、非常に体調が優れない中、ベルアルはクリスにおんぶされ、採掘場地下47階まで昇降機で降りる。47階から48階への道は、常時北帝兵が守っており、彼らはベルアルとクリスの顔を見るな否や敬礼し、素早く大きな鉄門を開けた。ここから10分ほど緩やかな下り坂を降りていくことになる。


最初の5分ほどの道のりは、2人に何も感じさせなかったが、48階への道半ばから、紫色の重い()が2人に襲い掛かるような、そんな感覚が2人の間で始まった。冥月の加護を持たないクリスの足取りは少しずつ遅くなる。半サキュバスとはいえ、冥府から生み出された本物の冥気に当てられては、流石にクリスも余裕と言うわけにはいかない。額の汗を拭いながら、クリスはベルアルを背負いなおし、一歩一歩しっかりと歩き出した。そこから更に数分、道の終わりから、煌々とした冷たい紫色の光が差し込んできた。冥気炉だ。クリスは既に肩で息をしており、力なく地面に膝をついてしまった。根源の冥気。鉱石の品質を塗り替え、生物の遺伝子すら変異させる冥府の気。流石のクリスも意識を失う寸前だった。


「ありがとうクリス、ここまでで良い」


クリスの背中からベルアルが立ち上がる。そうして彼女はクリスを<新緑の防壁>という防壁魔法で包むと、クロウから持ったアイテムボックス代わりの首飾りから椅子と飲み物を取り出し、彼女の傍に置いた。


「まだ根源である冥気炉に近づくのは私もキツイ、まずはここから始めていく」


ベルアルはそういうと、マキナが持ってきた本の内容を思い出し、三日月の形を木彫りの椅子に腰を掛け、足から頭にかけて、北斗七星の形になるように座った。そしてそのまま目を瞑り、以前にルナティアに星を埋め込まれた頭、心臓、腹部に意識を集中し、冥気の吸収を始めた。東方の仙術と西方の占星術を織り交ぜてルナティアが生み出した<育星法>は、並みの人間ならば前提条件である育星法を完全体得した人間に手伝ってもらい、空に浮かぶ新星を体に埋めると言うこの段階で即座に五体爆散がオチだが、一定以上の肉体的強さと66回のルナティアへの祈祷儀式により、ベルアルはこの育星法の条件を満たし、修練を行えるようになっていた。


人の肉体で星を育てる。無茶苦茶な話だが、それをやってのけたのがルナティアだ。


育星法にはいくつかの段階があり、まずは星を育てる素体、つまり肉体の強化、<練体(れんたい)>から始まる。肉体の強化が終わったら次は星にエネルギーや要素を注ぎ込む段階<育星(いくせい)>、そして最後に体内で星を定着させる<化星(かせい)>。この3段階を得て、第2段階で完成した星を体外へ排出しなければ、人の身でありながら星々を砕く力、つまり神々に比肩する力を手に入れることができる。そして体内に星を定着させることができれば、ルナティアがやったように、素手で星を操れるようになる。そうして体内で定着した星々を分裂させたり、統合し融合させたりすることで、母体である人間はどんどんと強くなり、いずれルナティアのように体内にいくつもの銀河級の群星を育むことができれば、神々すら凌駕できると言われている。


本来は東方の仙気をもって肉体強化をするのが並みの育星法だが、冥気を取り込むことによりもたらされる五体爆散よりも過酷な練体を生き抜くことができれば、尋常ではないほど強力な星を産みだすことができるだろう。


体内で定着させた星にも格の違いがあり、永久不滅を齎し、母体へ自ら無限のエネルギーを生み出す<恒星>、恒星には遠く及ばないものの、数多くの属性と特徴を母体に与え、神に比肩する力すら与える<惑星>、そして常人を凌駕する一騎当千の力と才能を与えるのが<衛星>。


ベルアルは、まずは衛星を育てる事から始め、最終的には恒星すら生み出すのを自分の目標だと決めていた。だが、多くの修練者は衛星すら定着させられず、運よく恒星を生み出せたとしても、9割の修練者はその膨大なエネルギーに自らを焼かれ死ぬのが末路だった。そうならないためにも、ベルアルはほぼ余生全てをここに費やすつもりですらあった。


練体を開始する前、回復し宮殿に戻るクリスにいくつかの言伝を任せる。まずは、今後の国家運営は平和路線を維持し、小さな事ならば各省の大臣に任せ、国家運営にかかわるような大きな事ならばベルアルが依然最終決定権を持つ事。同時に、国家運営監査役にべオスを任命し、全ての位における役員の監査と弾劾はべオスとベルアルの2人によって行われる。その事を宮殿内全員に伝えるように言った。クリスもだいぶ回復した顔色で、了解とだ言うと、ゆっくりと来た道を引き返していった。


ベルアルはクリスが戻ってからおよそ20分後、意を決めたように冥気の吸収を開始した。

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