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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
第二章 オリュンポス大陸
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クロウ、ここに眠る

日曜日朝、手短に食事を済ませ、今日は朝からログインしてベルアルと一緒に北帝領を見て回ることにした。いわゆる視察と言うやつだ。護衛はベルクと百凍将5人。そして上空にはネフィリムが3体飛んで待機している。


「ベルアル、まずはどこに行くんだ?」

「そうだな、まずは食事を取ろう」


私服に着替えたベルアル。初めて会った時と変わらない美しい銀の髪に儚げな横顔。夜の湖畔で月と共に蝶を愛でるのは、きっとベルアルのような女性だろう。ま、こいつは冷血無感情な鉄面皮なんだが。今日の彼女は黒色の引き締まったジーンズパンツにスポーティな靴を履いており、上も白色のシャツと黒いジャケットと言う、なんとも厳つい服装だ。髪はアップなポニーテールにしており、これからバイクに乗っていくと言われても違和感のない姿だった。


「クロウ、こっちだ。私の行きつけの店がある」


小さな宿屋の備え付けの定食屋、恰幅のいいおばちゃんと無口なおじちゃんが温かくクロウとベルアルを出迎えてくれる。


「あらベルちゃん!いらっしゃい!今日もいつものでいい?」

「ああ、今日は2つ頼む」

「あいよ」


おばちゃんは厨房にいるおじちゃんに何か言うと、カウンターでジュースを入れてくれた。しぼりたてのオレンジジュースを2つ。それぞれベルアルとクロウの前にそっと差し出してくれた。しばらくして、親子丼が2つ出される。ベルアルは備え付けの箸とスプーンを取ると、「いただきます」と言って何も言わずに食べだした。


クロウも黙々と食べ進める。新鮮な鶏肉と卵が素朴な味付けと絶妙にマッチしており、大衆食堂でこの味が出せるなら正直文句なしだ。美味い。クロウは黙々と箸でご飯を口にかきこむ。数分後、クロウとベルアルは同じくらいの時間に箸を置いた。ベルアルもクロウが完食したのを確認すると、慣れたようにお金を払い、クロウの手を引いて食堂を出た。


「どうだクロウ?美味しいだろあの店は」

「ああ、知らなかったよ、あんなにおいしい店があるのは」

「じゃあそろそろ仕事をしようか」

「おう」


ベルアルはまずは商店街を散策した。クロウの腕を取り、恐らくはカップルのフリをするのだろう。クロウも嫌じゃないのでベルアルに合わせる。それなりに上質な服を着てきて良かった。それからベルアルとはカップルとして北帝領の各地を回った。商店街、ショッピングモール、大きな畑、鉱石採掘地、高級料亭、鍛冶工房、被服屋など、ベルアルはまるでクロウに北帝領を改めて紹介するように、色んな場所に連れて行った。


(どうしたんだろうベルアル)


正直あまりベルアルの意図が分からなかった。北帝領は北部王国の時代、ベルアルがまだ小さな女王だった時代から知っているし、実際クロウとベルアルが手を取って作り上げたといっても過言ではない。


夜の帰り道、北帝領の夜は寒く、今日は細かな粉雪が降っていた。クロウはベルアルのために雪虎のコートを渡し、ベルクを含めた他の人にも分厚いコートを渡した。凍える北帝領で生きる残れる生物は少なく、静かな街灯に照らされ、いつの間にかベルアルとクロウの2人きりになっていた。


「今日はどうだった?」


コート羽織り、手をクロウの服のポケットに入れたベルアル、彼女は躊躇いもなく同じように入れていたクロウの手を取ると、しっかりと握りしめた。クロウは一瞬驚いたが、彼女の手を握り返す。


「楽しかったよ、思ったよりも知らないことばかりで、今日はベルアルに色々教えてもらった」

「ふふ、そうか」


クロウは、心がドキッとした。相手はただのNPC、ただのゲームデータのはずなのに、初めて見た彼女の笑顔は、彼の心の奥を射止めたような衝撃だった。


「あのな、クロウ、私は普段、その...こういう事はあまり言わないのだが...その、感謝、しているのだぞ?」


はにかみながらも、クロウに向かってベルアルがそう言う。クロウはあまりの驚きに、ベルアルに向かって<スキャン>を発動したが、別人の偽装とかではなく、本当にベルアル本人だった。


「だからなクロウ...」

「クロウ」


街灯の下からマキナが姿を現す。彼女は腕時計をクロウに見えるように指さすと、クロウはメニューを開いて現実時間を確認した。時刻は11時過ぎ、明日は朝7時から仕事なので、そろそろ寝なければ不味い。


「クロウ、もう、時間が...」

「ああ、ベルアル、少しお休みを取るよ。大丈夫、戻ってこないわけじゃない、俺に会いたかったいつでもクロウ領に来ればいいし、何かあればマキナが力になってくれるよ」

「クロウ...」

「じゃ、またな」


クロウはマキナと共にクロウ領の自室に戻る。地下96階に向かうと、赤黒いネフィリムがクロウが座っていた椅子に座っていた。


「これが、俺の身代わり」

「ああ、そうなるな」


マキナはクロウが眠った後、北帝大公という強力な抑止力が居なくなったとなってはいけない。ベルアルの名声、エインヘリアルを始めとした殺戮兵器、そして北帝大公の恐ろしさが北帝領の抑止力だった。だから、安心できる人にだけ、クロウはこの世界から離れる事を話した。


「そうか、俺が眠るのは、地下100階だったよな?」

「ああ、急遽掘らせた」


クロウはマキナと共に転移する。地下100階には、鉄のような棺がポツンと置いてあった。周りには7つの石像が置いてある。マキナその石像を指さすと、クロウに召喚術で石像に魂を吹き込めといった。


「召喚:<堕ちた茨騎士>」


デビルミノタウロスと戦った茨騎士。魔に堕ちてなお、誇り高き騎士道を貫く栄光の騎士。素面だった石像は、茨に絡まれてなお、揺るぎない騎士敬礼の姿勢を保つ騎士の石像になった。


「召喚:<堕武王リョウマ>」


剣客の王、国を守るために剣士を率いて、最期に王に謀反の疑いをかけられて、殺されるまで、その宝刀と共に敵を切り続けた不動の武王。彼の魂が入った石像は、口に草を咥え、小さな荷物袋と二本の刀を差し、傘帽子を被った、飄々とした少年のような石像になった。


「召喚:<氷獄王デューク>」


厳しい古代の北帝領で、流民を助け、凍える大地に初めて生きる希望を生み出した王様。彼の魂が入った石像は、寒い冬の中、小さな子供に温かいコートを配る笑顔の老年の姿を形作っていた。


「召喚:<鉄雲屠>」


国均しの最強の重装騎馬兵の魂を召喚する。無数の国を滅ぼし、悪魔と恐れられた巨大な北人の魂が入った石像は、大きな男が笑顔の中、羊が草を食む草原で無数の子供と遊ぶ姿を形作った。


残り2つの石像に誰の魂を入れていいか分からず、困っているとマキナが余った2つの石像を破壊した。


「十分だろう。きっとこの5人が貴方を守ってくれる」


マキナは惜しそうに腕時計を見ると、クロウに時間だ、とだけ言い、棺の方を見た。クロウも少し寂しいような顔をして、棺に入り、そのまま目を瞑ってログアウトした。


目を瞑って穏やかな呼吸をしているクロウを確認したマキナは、ゆっくりと棺に蓋をして、部屋を後にした


こうして、<オーバーザホライゾン>に多大な影響を与えた、<魔公爵>、<北帝大公>、<殺戮者>、<更新者>、無数の栄誉と栄光を手にした一大プレイヤーであるクロウは、長い眠りについた。

私の駄文にここまで付き合ってくれた読者の皆様、誠に感謝申し上げます。暫くは誤字脱字修正と幕間を書いたりするので、どうか気楽にお待ちください。クロウと皆さんの物語は、まだまだ終わりません。よろしければここまでの感想の方、よろしくお願いします。それと、今後読みたい内容がありましたら、遠慮なく作者に投げつけてください。全力で叶えます。

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