国王謁見やらかした?
翌日朝、べオスとベルク達がいつものように防衛戦の続きを準備していると、クルーリの街の斥侯が嬉しいのか恐ろしいのか分からない顔で、今日の防衛戦についてクロウ込みの三人で話している司令部に入ってきた。
「ほ!報告します!クルーリより3キロ離れた敵のや、野営地が!何者かの襲撃にあい、ぜ、全滅しました!」
その報告を受けたべルクは驚愕しべオスはクロウの方を見る。クロウも驚愕したフリをしており、偽神の祝福でその偽驚愕は完璧なはずだが、べオスは小さく微笑むと、斥侯を下がらせた。
「さて、クロウ殿、敵もいなくなったし、これからどうする予定です?」
「ああ、俺は王国北部の大きな未開拓の地に行って、そこを開拓する気だ」
「北部?あのような永久凍土に何か資源が?」
「まだわからないが、何もなくても領地が広がるのはいい事だろう?」
「クロウ殿の言う通りだ」
ベルクが賛同する。べオスも同様にクロウの言葉に賛同した。
「我々北部王国は一番領土が小さい、クロウ殿の言う通り領地が広がるのはいい事だ。だが...」
「召喚:<堕武王:リョウマ>」
クロウがそういうと、クロウの後ろから精悍なスケルトンが現れた。腰に<斬命刀>を履き、その隙の無い佇まいは見る人を緊張させ、身体には古代の剣客のような身軽な装備を着ていた。
「クロウ殿?こちらのスケルトンは?」
「昔、東部王国に剣客や刀客と言う職業があったのは知っているか?」
「書物で見た事があります。金を貰い、ボディガードや殺しの仕事を受ける今の冒険者に近い存在だと」
ベルクはそう答えた。
「リョウマはその一人でな、俺の友達の一人だ。今は引退したが、彼はそんな剣客や刀客の中でも一番強い」
「クロウ殿、そなたは?」
「ただの冒険者だ」
リョウマにべオスとベルクの元でクルーリの防衛戦に参加するように指示を出した。
その後、べオスに近くの街や関門に連絡してもらい、クロウは再び北部王国のそのさらに北部へ向かう旅に出た。北部王国は南部とは違い、長閑な農地も、大きな川も平らな平地もなく、巨大な山脈とまだらな低木しかなかった。霊馬と共に再び北へ北へと向かう。
「ひゃっはー!盗賊だ!」
驚愕した。商人でもなんでもないクロウから何を略奪しようと言うのか、むしろこんな恐ろしい馬に乗っている奴からよく奪えるなと思った。当然、クロウは容赦なく<魔法:エアバレット>を圧縮発射する。領地内の盗賊もポイントに加算されるようで、ラッキーだと思った。
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北部王国・王都モーテン
北王・ベルアルは早急にべオスからの報告を読み、急いでクロウと言う冒険者を宮殿に招き入れた。
招かれたクロウもびっくりしている。なぜなら王都に入った瞬間、金色の王都防衛軍の兵士に半ば拉致されるように宮殿に招き入れられた。
「クロウ殿、貴殿の事はべオスから聞いている。北部王国のトップとして、誠に感謝する」
クロウは今まで緊張でずっと頭を下げていたが、その言葉を聞いて、恐る恐る顔を上げると、ベルアルは絶世の美女だった事に気が付いた。白い雪のような肌に、すらりとした体形、夜空に浮かぶ月のような銀色の髪は、見る人の尊敬の念を生み出すようだった。
(なるほど、これが王の権能か)
クロウも似たような事ができる上、王より上の帝の権能まで使用できるのが、下手な事をしてイベントをごちゃごちゃにしたくないので、大人しくベルアルの言う通りにした。
「それで、クロウ殿はいつまでその恰好でいるのだ?」
「!?」
クロウは驚いてベルアルを<鑑定>する。どうやらベルアルの祝福に<月神>と<審判者>があるようで、月神は対象を裏を読むことができる権能、審判者は嘘欺瞞に対する強力な特効効果がある。どちらか一つならなんとかなるが、流石に二つ同時に権能を行使されると偽神でも隠し通すのは難しかった。
「ベルアル殿、それは...」
「貴様!我ら国王に向かって名前を」
「良い!下がれ」
「はっ」
「女王殿下..」
「名前で良いクロウ殿、冒険者には堅苦しいのは望んでいない」
「ありがとう。えっと、ベルアル殿、本当に偽装を解いてもいいのか?」
「ああ、地獄は行った事はないが、冥府の使者には会った事がある。多少の事では驚かなっ...」
有無を言わずクロウは偽神の権能を解いた。その瞬間、クロウの身体から黒い霧がゆっくりと滲み出す。クロウも偽りの肉体を捨て、久しぶりに本体を晒すので、少しワクワクしていた。そうして少しずつ霧が晴れていく。そこに立っていたのは、冥府の使者より数百倍も恐ろしい存在だった。
背丈は2mを超え、顔には深淵のような黒眼と血のような赤い瞳孔があり、活火山のような脈打つ赤黒い肉体には古代文字と幾何学模様で刻まれた白いタトゥーが入っており、長い死神のような白い髪の毛は生き物の終点を否応にも想起させた。そして押さえつけていた気迫と魔力も開放する。数多くの帝の権能も余すことなく開放する。そうしてクロウは腕や肩を動かすと、大きな声で高笑いした。その声は宮殿中を震わすような威厳があり、周囲の国王親衛隊と数多くの文官補佐官武将は既に失神していた。気を失わなかった者は、多くがクロウのもたらす帝の威圧に負け、膝を折り頭を地面にこすりつけていた。唯一、ベルアルは必死に冷え汗を拭いながら呼吸を整えようとしていた。偽装を開放したことにより、人格が帝の方へつられたのか、クロウの口調も変わっていた。
「ベルアル、俺はお前の王国を奪う気はない、俺がお前の後ろ盾になろう」
「ふうっ、た、確かにクロウ殿の...」
「召喚:<北狼王:オーフェン>、<氷獄王:デューク>」
クロウの後ろから二人の王が現れた。一人は北狼王・オーフェン。分裂していた北部王国を統一したベルアルの先祖にて、北王の始祖。オーフェン本人は老年だが、その佇まいとそばに控える大きな狼は、始祖の威厳を遺憾なく発散していた。もう一人は氷獄王・デューク。デュークについての伝記はほぼなく、ただ天地開闢の存在の一人だと言われている。だが、北部王国に生きる人の間に悪い子供を窘める言い伝えがあった。
「悪い事をするとデューク様に取って食われちまう」
伝説の始祖王と伝承の存在を目の前に、ベルアルはクロウの言う事を聞くしかなかった。
クロウが今回ベルアルと結んだ条約は以下の通り
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ベルアルは最北部の未開拓の地及び永久凍土の開拓権を全てクロウに与える。
ベルアルは北部王国のあらゆる戦いにおいてクロウに参加要請を出す事ができる。
ベルアルはいかなるクロウの所有物、人物を奪う事ができない。
クロウは最北部の未開拓の地及び永久凍土の開拓資源をベルアルに譲渡する事ができる。
クロウは北部王国存亡にかかわる戦いには必ず参加しなければならない。
クロウは北部王国民としての義務と権利は履行及び保証されなければいけない
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