キャラづくりは波乱万丈
生まれてこの方、大人しく人生を一歩一歩歩いていき、気が付いたら毎日自宅と職場を往復する生活を送っていた。唯一の楽しみと言えば今やだれもが持っているヘッドギアで新作のVRMMOをやる事だ。
今日は友人に勧められて事前ダウンロードを済ませた王道なストーリーと無数のスキルや魔法が売りのゲーム<オーバーザホライゾン>がサービス開始する日だ。
一週間の疲労を労うように、手早く風呂に入り寝る支度をしてベッドの上でゆっくりとヘッドギアを起動した。メニュー画面を視線でスクロールし、オーバーザホライゾンを見つけると、起動を選択した。
少し暗くなった後、ゆっくりと意識がゲームの中へと入りこんでいく。
「ようこそ!オーバーザホライゾンへ!貴方の名前を教えてね!」
よくある初期キャラ制作画面と小さなナビゲーターのような妖精が、分かりやすく進めてくれる。
---
名前:クロウ
メイン職業:魔法使い:召喚士
サブ職業:付与術士
<ステータス>
筋力:8
体力:6
敏捷:5
精神:9
堅剛:4
知力:10
<スキル>
五属性魔法:入門級
五属性付与:入門級
召喚魔法:入門級
召喚獣:<コボルト><スライム><スケルトン>
---
攻略も何もないし、俺本人もスーパーゲーマーと呼ぶには程遠いので、安心して召喚獣に丸投げできるような職業にした。
五属性魔法:入門級はいわゆる火、水、土、風、雷の入門級。マッチの火くらいのプチファイアに小石を生み出すプチロックなどだ。
五属性付与:入門級は武器やアイテムに属性を付与できる魔法で、入門級は仄かに付与したアイテムが暖かくなったりひんやりしたりする程度だ。
召喚士は割とマイナーな職業で、ゲーム内で数百ある魔法使いの分岐の中の一つだ。
入門級の召喚獣は普通の成人男性でも倒せるくらい弱いそうだ。
でもまあ職業説明では大器晩成型と言っていたので、のんびり育てていく事にした。
さて、次はゲームの目玉でもある<加護>の選択だ。色々な神や邪神が存在するこのゲームで自分に似合う<加護>を選ぶことが一番大事だと言う。
「武神、女神、地母神、雷神、風神、海神...」
数多くあるが、どれも俺の職業と合致しない...
「しかたないか」
俺は邪神の一覧を開けた。
「ちょっと待って!本当にそっちを選ぶの?」
ナビゲーターの妖精が焦って俺を遮ってきた。
それもそのはず、邪神の<加護>は強力なものが非常に多いが、尋常じゃないほどのデバフや呪いを受ける事がある。例えば、睡神の加護は異常状態である睡眠をあらゆる攻撃に付与する事ができるが、呪いとしてキャラクターは一定時間行動した後長期間の解除不可能な睡眠状態に陥る。
「本当にそっちから選ぶの!?本当に!?」
ナビゲーターに再び確認されたが「はい」のボタンを押した。
すると、突如画面が赤黒くなり、どこからか現れた無数の黒い手がナビゲーター妖精を黒い穴へと引きずり込んだ。
「えっこわ!?なにこれ!?」
流石に「はい」のボタンを押しただけでこうなるとは思っておらず、滅茶苦茶焦っている。
急いで邪神の加護の一覧から選ぼうとスクロールしていると、どこからか艶めかしい声が聞こえてきた。
「クロウさん?」
「はひ!?」
後ろから何者かに触られ、ひょうきんな声を出してしまった。
振り返ってみてみると、豊満なサキュバスが俺を見つめていた。
「あなたは邪神様にご興味がおありなのですね?」
「えっ、あっ、はい」
(妖精の逆ってサキュバスなのか...?)
「あら、召喚士、ご慧眼恐れ入りますわ」
「???」
「死霊術士はご存じで?」
「ああ、聞いたことがあります」
「なってみませんか?」
「えぇ...?」
「無数のスケルトンやデュラハンを率いてダンジョンやストーリーをクリアしたくないですか?」
「したいです!」
負けた。想像しただけで滅茶苦茶面白そうだ。悪役に固執はないが、それもゲームプレイとしては面白そうだと思った。
「ふふ、では」
目の前のナビゲーターサキュバスはそういうと、俺が開いていたステータス画面をポチポチ操作した。
「ここをこうして、これはこうなって...あら...うふふ」
「えっ、あれ、それって、あっこれ大丈夫?」
「大丈夫ですよクロウ様」
---
名前:クロウ
メイン職業:死霊術士
サブ職業:六道術士
<ステータス>
筋力:30
体力:40
敏捷:25
精神:40
堅剛:30
知力:45
<スキル>
生活魔法
死霊魔法
死霊術
六道術
召喚魔法
偽造魔法
<加護>
死神の加護
六王の加護
獄帝の加護
冥帝の加護
魔王の加護
魔神の加護
悪神の加護
<呪い>
死神の呪い:見た目が死霊系モンスターになる
獄帝の呪い:神聖な者、物、場所に拒絶される。
悪神の呪い:業が999になる。業が減らない。
---
「え、やば」
悍ましいほどの闇落ちした自分のステータス画面を見て、流石に語彙も言葉も失ってしまった。
「本来加護は一人一つ、勇者と言われる特殊クラスでも2つや3つですが、7つもあるなんてすごいですね」
「こんなに貰えるもんなのか?」
「ええ、神が自ら望んで与えたのですから」
「ああ、なるほどね」
「えーと、サキュバス?さん?」
「あら、そういえば自己紹介が遅れました、私の事はメルティとお呼びください」
「あ、意外に可愛い名前ですね」
「お褒めに頂き光栄です」
「とりあえずいろいろ質問していいか?」
その後数時間かけてメルティを質問攻めにした。
魔法から入門級などの位を表す表記が消えているのは完全にマスターしたからだと言う。
死霊魔法と死霊術の違いはMPを消費するかしないか、それと色々できる事が違っていると言う。
六道術はいわゆる拘束系スキルで、その中でも特に悪辣でえげつない術なのだとか。
偽造魔法は自分のステータスや見た目を偽る魔法で、完全にマスターしたとなると、特殊な神の加護がない限り魔法を破ったりはできないそうだ。
召喚魔法も完全にマスターしており、MP上限が許す限りなんでもなんでも召喚できるようだ。
こんなに多くの邪神や魔神の加護があるが、授かったと言うのと、どうやら呪いと呪いを上手い事打ち消しあって、今の俺には片手で数えられるほどの呪いしかない。
さらには邪神たちに貰った装備やアイテムをあらかた装備し、自分のアバターを改めて見てみると、背丈は2mを超え、黒いオーラがにじみ出た、赤黒く脈打つローブと、いくつもの近未来的幾何学な指輪と、赤と黒の宝石が眼窩に嵌め込まれた頭蓋骨付きの黒杖を持っている。
「うわぁ~、街中歩けないだろこれ」
「とても素敵ですわクロウ様♡」
気づいたらメルティが太ももをもじもじさせながら誘惑するように近づいてきた。
(そうか、業が高ければ、いわば業が深いほどサキュバスなどの魔族に魅力的に映るのか)
「メルティ、メルティ、そろそろゲームを始めたいんだが」
優しくメルティを押しのけようとしたが、なぜか手はメルティの腰を抱きしめ、優しく彼女の尻尾を撫でまわしていた。
「はい、では、ようこそオーバーザホライゾンへ♡」