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ベース⚾ガール!!!!  作者: ドラらん
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7th BASE

 一回裏、羽共は二塁打で出塁した一番の一柳を、三番の吉原のスクイズで生還させる。


「ああ……、ごめん」


 羽共の攻撃に翻弄されるまま先制点を献上し、真裕たちは唖然とする。ショックを受けているのは彼らだけではない。一塁側スタンドの応援団にも沈んだ雰囲気が漂う。


「おいおい、初回から三番にスリーバントスクイズって。しかもまだランナーが三塁にいるのかよ……」


 そう言って驚き嘆くのは、男子野球部のエース、椎葉丈である。自身も大会で勝ち残っている身ではあるが、今日は真裕のために応援に駆け付けた。


「やな……」


 丈が真裕に向けて声援を送ろうとする。ところが全く同じタイミングで隣からも声が聞こえ、両者は咄嗟に口を噤む。


「ご、ごめんなさい」


 先に相手方から謝ってくる。丈が振り向いて確認したところ、そこには申し訳無さそうな顔の暁がいた。偶然にも隣同士の席に座っていたようだ。


「いえいえ、こちらこそすみません」


 と言っても二人に面識は無いので、会話が弾むことはない。互いによそよそしくお辞儀をし、丈は改めて声を上げようとする。


「やな……」

「どんま……」


 しかしまたも声が被ってしまった。二人は再び顔を見合わせる。


「すみません、何度も何度も……」

「そんな謝らないでください。お互い様ですよ。先にどうぞ」


 丈が暁に先を譲る。だが既に次の打者が打席に入ってプレーが再開しようとしており、声を掛けるには微妙な空気になってしまう。


「あ……。タイミング逸しちゃいましたね。僕のせいでほんとにごめんなさい」

「いや、誰のせいでもないですよ。気を取り直して応援しましょう」

「……そうですね」


 丈と暁はグラウンドに目を向ける。彼らの視線の先では、真裕が四番の千石(せんごく)と対峙している。


《四番ライト、千石さん》


 羽共のスターティングメンバーの中には左打者が二人しかおらず、千石はその一人である。高身長から振り下ろしたバットを最後に思い切り()ち上げる独特のアッパースイングが特徴的で、フライを打つ割合が非常に高い。今大会ではそうした打球が外野の頭を越す場面が散見されてきた。喩えアウトになったとしてもこの状況では犠牲フライになる可能性があり、守る立場からすると厄介極まりない。


 亀ヶ崎は極端な前進守備こそ敷かないものの、セカンドとショートは平凡なゴロであれば三塁ランナーを本塁でアウトにできる位置までは前へと出てくる。一点ならすぐ取り返せると思えるが、二点となるとそうはいかない。ある程度チャンスを積み上げなければならないので、それだけ苦しい思いをすることになる。自分たちの攻撃を落ち着いて行うためにも、更なる失点は防ぎたい。


 初球、真裕は外角へのボールになるツーシームを投じる。千石はバットを動かしかけながらも手を出さずに見極める。


 二球目はインコースのカーブ。千石は腰を引いて見送ったが、今度はストライクと判定される。


 これでワンボールワンストライクの並行カウントとなった。至極当然の理論だが、ボールよりストライクのカウントが多ければ投手は気持ちに余裕を持って投球を行える。その分岐点となる三球目、真裕は内角へのストレートを投じる。


 打ちに出た千石だが、バットの上面で擦ってしまった。一塁側のファールゾーンに打球が高く舞い上がる。


「ファースト!」


 嵐が追い掛けるも打球はスタンドに消えていく。ただバッテリーがストライクを一つ稼ぎ、千石を追い込む。


(今の打ち方を見る限り、内のボールは苦手そうだな。なら思い切って続けてみるか)


 菜々花は再度インコースを要求する。千石のスイング軌道を考え、先ほどまでよりも少し高めにミットを構えた。サインに頷いた真裕は、頬を膨らませて息を吐き出しながらセットポジションに入る。


(バットに当たればフライになるかもしれないし、ここはしっかり腕を振って空振りさせたい)


 四球目、真裕は千石の胸元を目掛けてストレートを投げ込んだ。千石も応戦して懸命に腕を畳みながらスイングする。しかし投球は彼女のバットの上を通過し、菜々花のミットに収まる。


「バッターアウト!」


 真裕が狙い通り空振りを奪い、千石を三振に仕留める。ランナーを進めることなくツーアウト目を取った。


「おし、三振! ナイス柳瀬!」

「ナイスピッチングです!」


 一塁側スタンドも活気を取り戻す。丈と暁も大きな拍手を真裕に送る。


《五番キャッチャー、東地さん》


 羽共はヒットを打たなければ追加点が取れない状況に変わる。ただ打席に入るのは五番の乃亜。彼女は打者としても非常に勝負強く、今大会でも多くの打点を稼いでいる。


(こういうピンチでツーアウト目が取れると、バッテリーには心の隙が生まれやすい。初球を甘い真っ直ぐで入ってきたら狙い目だぞ)


 自身もキャッチャーである乃亜は、その経験を活かして相手バッテリーの配球を読み解こうとしてくる。菜々花との探り合いにも注目だ。


 初球、真裕の投球は放物線を描いて菜々花の元へと進む。外角に曲がるカーブを投じたのだ。


「ストライク」


 乃亜はほとんど動き無く見送った。ストレートが来るのではないかという予測は外れる。


(流石に簡単に真っ直ぐを投げてくることはないか。焦らず丁寧にリードするなら、次はボール球を挟んできそうだな)


 二球目、バッテリーはストレートでインコースを突く。これまた裏を掻かれた乃亜はバットを出せず、ストライクを取られる。


(……おお。結構強気のリードをしてくるね。今の私の反応を見たら、同じ球を続けたくなりそうだけど……)


 乃亜は少しバットの握りを余す。菜々花はこれを確認した上で次の配球を決める。


(追い込まれてバットを短く持ってきたか。さっきの千石の打ち取られ方を警戒してるのかも。こっちとしては一柳みたいにツーストライクからインコースを捌かれるのは避けたいし、次は外で躱してみよう)


 三球目、菜々花はボール球になるカーブを要求する。真裕はそれに従って一球目よりも少し外のコースを狙って投球を行う。

 見送ればボールになりそうだが、乃亜は手を出してきた。こうなると空振り、もしくは凡打になる可能性が高まり、バッテリーとしてはしてやったりである。


「……え?」


 ところが乃亜のバットからは快音が響く。バッテリーが揃って驚く中、速いゴロとなった打球は一二塁間の真ん中を破っていく。


「よしよし! 乃亜っちナイス!」


 三塁ランナーの原延が手を叩きながらホームを踏む。乃亜のタイムリーで、羽共に二点目が入る。



See you next base……


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