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ベース⚾ガール!!!!  作者: ドラらん
25/56

24th BASE

 六回裏。羽共は先頭の千石が打ち取られた後、五番の乃亜が打席に入る。


(こっちは二点のリードがあると言っても、二回以降は得点できていない。ランナーだってそんなに出せてないし、攻撃の方は決して良い流れとは言えないな。いくら美久瑠でも優勝の懸かった試合の最終回は何が起こるか分からない。少しでも楽になるために一点でも差を広げておかないと)


 チャンスを演出したい乃亜に対する初球、真裕はストレートで彼女の脇腹付近を抉る。乃亜は僅かに腰を後ろに引いて見送る。


「ボール」


 バッテリーとしては死球を与えるわけにはいかないが、こうして厳しく攻めなければ乃亜は抑えられないと見ているようだ。それを強調するかの如く、二球目もインコースのストレートを続ける。


 投球は一球目よりもやや高くなった。しかしボール一個分ほど内に入っており、こちらはストライクと判定される。


(内角の真っ直ぐ二球とは、ここにきて中々強気な攻めをしてくるじゃないか。ちまちま裏を掻くよりも正面からぶつかっていこうって感じかな? このバッテリーならもう一回インコースを続けてきてもおかしくない。やなさんに投げている以上は私にもスライダーを使ってくるかもしれないし、できれば追い込まれるまで打っちゃいたいな)


 乃亜は一度打席を外し、バッティンググラブを付け直す。それから手の感触を確かめるかのように強く素振りを行った。その姿から菜々花は一瞬たりとも目を離さず、彼女が打席に戻ってから次の配球を考える。


(こっちがスライダーを使い始めたから、きっと東地は追い込まれるまでに打ちたいと思ってるはず。今の素振りも次のストライクを確実に捕まえるための準備にも見える。気持ち良くスイングさせるわけにはいかないな)


 菜々花はアウトコースのカーブのサインを出す。これを空振りさせてツーストライク目を奪えば、スライダーで仕留める道筋を立てられる。もしも引っ張り込まれて強い打球を飛ばされても対処できるよう、サードのオレスの守備位置をやや後ろに下げておく。


 サインに頷いた真裕が三球目を投じる。ゆったりと放物線を描いた投球は、菜々花の要求した通りのコースへと向かう。

 対する乃亜はフルスイングで応戦するかに思われた。ところが彼女は予想だにしない行動に出る。


「は?」

「え?」


 その光景に真裕や菜々花はもちろん、羽共ナインすらも驚く。なんと乃亜はセーフティバントを仕掛けたのだ。


「ピッチャー!」


 三塁線に転がったボールを最初に真裕が追う。だが乃亜は少々強めにバントしており、彼女が捕るとなると逆シングル且つ重心が前のめりになるため送球に移るのが遅れる。


「オレスちゃん、頼んだ」


 真裕は仕方無くオレスに処理を任せる。しかしオレスはオレスで定位置よりも後ろに守っていたため、捕球するまでに時間を要した。


 オレスが素手でボールを掴み、走りながら一塁に投げる。俊足ランナーが相手であれば到底間に合わないが、乃亜の走力は並以下。オレスの強肩であればアウトにできる可能性はある。

 ただオレスも切羽詰まったプレーを強いられ、送球が若干乱れた。一塁まで僅かに届かずショートバウンドとなり、嵐は体を伸ばすことができずに捕球する。このコンマ数秒の差が判定を分ける。


「セーフ!」


 一塁塁審が両手を広げる。乃亜の奇襲とも言えるセーフティバントが成功し、貴重なランナーとして出塁する。


(案外際どいタイミングになったな。私の足が遅いのもあるけど、やはりネイマートルの肩の良さは尋常じゃないな。それでも今は塁に出られたことが全てだ。狙いが当たって良かった)


 乃亜は仄かに口元を緩ませ、一塁ベース上でバッティングレガースを外す。彼女は配球やオレスの守備位置を見て自身の強打が警戒されていると察し、そこからセーフティバントを閃いたのだ。またしても亀ヶ崎はしてやられてしまった。


「ちっ……」


 オレスは一塁の判定を聞いた瞬間に眉を顰め、先ほどランナーとしてアウトになったことを含めて不甲斐無い自分への怒りを示す。そのすぐ横では菜々花が右手を腰に当てて下唇を噛んでいる。


(東地のセーフティなんて、味方含めて誰一人考え付かないでしょ……。一旦打席を外した時に思い切り素振りしてたのはカモフラージュのためだったのかもな。私はまんまと騙されてオレスを後ろに下げてしまったってわけか……)


 打席には六番の馬目が入り、バントの構えを見せる。彼女は前の打席でも送りバントを決めているが、その時はノーアウトだった。今回はワンナウトということもあり、一塁側スタンドでは暁が不思議がっている。


「ここでもバント? 成功したとしてもツーアウトになっちゃうけど良いのかな?」

「バントでしょうね。これには色々と狙いがあると思いますよ」


 暁の疑問に丈が回答する。彼には経験者ならではの視点から、羽共ベンチの思惑が読み取れていた。


「東地が二塁に進んで一塁が空けば、おそらくバッテリーは次の吉田を歩かせます。その次の渡は今日の内容を見る限りバットに当たる気配すらありません。負けている立場からするとここは絶対に失点しちゃいけないんで、渡と勝負する選択をせざるを得ないと思います。羽共としてはここで得点できれば最高ですけど、仮に駄目でも七回の攻撃は狭山から始まって上位に上がっていく。打順の巡りが格段に良くなります。その辺りまで頭に入れてのバントでしょうね」

「なるほど……。得点することだけが目的じゃないんですね。参考になります」


 暁は感服した様子で何度も頷く。そして試合は丈の予想した通りの展開で進んだ。


 まずは馬目が送りバントを決め、ツーアウトながらも乃亜を二塁に進める。続く打者は七番の吉田だったが、亀ヶ崎バッテリーは無理に勝負しなかった。一球目と二球目で共にボールになる変化球を見極められると、三球目からは外角のバットの届かないコースへのボール球を続けて四球とする。


「ボール、フォア」


 吉田がバットを置いて一塁へと向かう。ランナーが二人溜まり、打席に美久瑠を迎える。



See you next base……

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