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ベース⚾ガール!!!!  作者: ドラらん
24/56

23rd BASE

 六回表、ワンナウトランナー二、三塁のチャンスを作った亀ヶ崎だったが、菜々花の打席の最中に三塁ランナーのオレスが乃亜からの送球でアウトとなってしまう。


 亀ヶ崎ベンチは言葉を失う。帰ってきたオレスに、紗愛蘭や真裕すらも声を掛けることができない。各打者が羽共バッテリーに対抗する兆しを見せていた中、今度は走者が標的とされ、まんまと彼女たちの毒牙に掛かってしまった。イニングもイニングだけに、チームには絶望感が漂う。


「切り替えろ! まだ得点圏にランナーいるぞ! まずは一点返せ!」


 ベンチと同じようにスタンドも静まり返っていたが、丈が沈黙を破って声を上げる。彼の言う通り、ツーアウトながらまだランナーは二塁に残っている。これを菜々花が還せば流れを揺り戻すことができる。


(正直このアウトは痛過ぎる……。だけど私がここで打って一点差にできれば展開も変わってくる。幸いカウントはこっちに分があるし、次の球でストライクを取ろうとしてくるはずだ。思い切って狙うぞ)


 四球目がボールだったため、カウントはスリーボールワンストライクと変わっている。有利な状況を活かして攻勢に転じたい菜々花に対し、美久瑠が五球目を投じる。


 投球は真ん中やや内寄りに来た。打者としては逃す手は無く、菜々花はフルスイングで応戦する。


 だが相手は羽共バッテリー。何の理由も無く漫然と甘い球を投げてくるわけがない。それは菜々花も認識していたはずだが、直前にオレスが刺された衝撃で失念していた。


(……駄目だ。これは罠だ!)


 咄嗟に思い出した菜々花だが、もうバットは止まらない。鈍く重たい音が響き、打球が前に転がる。


「サード!」


 平凡なゴロが原延の真正面に飛ぶ。バウンドを合わせて危なげなく捕球した彼女は、数歩ステップを踏んでから一塁に送球する。


「アウト。チェンジ」


 サードゴロに倒れ、菜々花は力無く一塁を駆け抜ける。打てると思ってバットを打ったはずなのに、結果的には打たされている。これまでと変わらない打ち取られ方をしてしまった。


(投球は確かに真ん中だった。けど芯を外された。少し考えれば簡単に真っ直ぐなんて投げてこないって分かったはずなのに……)


 菜々花は俯き加減でヘルメットを脱ぎ、険しい表情で汗を拭う。彼女の打った球はチェンジアップ。手元のブレーキにタイミングを崩された。それでも打席に入る前のような警戒心があれば、ファールや空振りで逃れることができたかもしれない。


 ワンナウトランナー二、三塁のチャンスも無得点。亀ヶ崎はこの回もホームが遥か遠く、二点ビハインドのまま残す攻撃は一回だけとなる。


「まだ終わってないよ! 次の攻撃で逆転すれば良いんだ!」


 苦しい状況に追い込まれ、心が折れ掛ける選手も少なくない。それでも紗愛蘭が手を叩いて鼓舞し、皆を守備へと向かわせる。試合が続く限り希望を捨ててはならない。


 一方の三塁側ベンチでは、亀ヶ崎ナインの分まで活力を吸い取ったかのように羽共ナインが盛り上がっている。


「よっし、この回も乗り切った! 美久瑠も乃亜も最高だよ!」

「あと一回抑えれば優勝だ! このまま勝ち切ろう!」


 度重なるピンチも凌ぎ、悲願の全国制覇はあと一歩のところまで迫ってきている。その原動力とも言える美久瑠は円陣に参加した後にベンチの奥で腰掛け、束の間の休息を取る。


「美久瑠、あと一イニング頼んだよ。私たちも精一杯守るからね」「はい、よろしくお願いします」


 美久瑠は声を掛けてきたチームメイトに仄かな笑みを見せる。表情からは余裕が伺えるものの、頬は赤く、額の汗も序盤とは比べ物にならないくらいに増している。自身の思い描いた展開で試合が進んでいると言っても、毎回のようにランナーを背負い、それなりに力を込めた投球を続けていれば精神的にも身体的にも負担は掛かる。日本一の懸かる一戦ともあって普段よりも消耗は激しいはずだ。あと一イニング、何とか疲労を表に出ないようにして投げ切りたい。


(体がちょっとだけ重いな……。完投なんて何度もやってきたし、何てことは無いはず。まあ決勝で相手も亀ヶ崎だから、自分でも知らないところでプレッシャーが掛かってるのかも。けど残るはあと一イニングなんだ。行けるだろ)


 美久瑠は自分に発破を掛け、最終回の投球に向け水分補給を行う。試合前も述べたように彼女は準決勝までほとんどで先発を務めており、七イニングを投げ切ることもあった。本来なら体力的に問題は無い。


《六回裏、羽田共立学園高校の攻撃は、四番ライト、千石さん》


 七回表の攻防も注目だが、その前に六回裏がある。羽共がここで追加点を挙げようものなら試合を決定付けてしまうかもしれない。マウンドに上がった真裕はひとまず自軍の攻撃のことは忘れ、ピッチングに注力する。


(取られた点は無くならない。潰したチャンスだって戻ってこない。私のやるべきことはとにかく点を与えないことだ。この回を最後のマウンドになんてしてたまるか)


 初球、真裕は千石の胸元にストレートを投げ込む。バットを出した千石だが、振り遅れて空振りを喫する。


「ナイスボール! どんどんストライクを取っていこう!」


 ライトから紗愛蘭が声を飛ばして盛り立てる。真裕が力投している姿を見せればチームの奮起に繋がり、戦意の灯火を再び点火させられる。攻撃で上手くいっていないなら、守備から粘り強く流れを作っていくしかない。


 真裕がテンポ良く二球目を投じる。アウトコースのカーブに対し、千石は腰砕けのスイングで打ち返す。


「ショート!」

「オーライ」


 当たり損ないのゴロが二遊間へと転がる。ショートの京子が難無く処理し、まずはワンナウト目を取る。


《五番キャッチャー、東地さん》


 続いて五番の乃亜が打席に入る。先ほどは三塁ランナーを牽制で刺すファィンプレーでチームを救った。打撃面でも初回にタイムリー、四回にチャンスを演出する四球を選ぶなど、随所に活躍を見せている。亀ヶ崎としては既にやられたい放題と言っても過言ではないかもしれないが、この打席で一矢報いて自分たちに弾みを付けたい。



See you next base……

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