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ベース⚾ガール!!!!  作者: ドラらん
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22/56

21st BASE

 六回表。攻撃前の円陣で紗愛蘭が前に立つ。


「これはあくまで私の感じたことでしかないんだけど、羽共バッテリーはここまでのプレーのほとんどを計算の上でやってるかもしれない。ボール球や暴投、もしかしたら四球の出し方やヒットの打たれ方に至るまで」


 紗愛蘭の言葉に皆が首を傾げる。当然と言えば当然だろう。


「それって要は、態とヒットを打たれたりフォアボールを出したりしてるかもしれないってこと?」

「うん。そういうこと」


 飛んできた質問に紗愛蘭は躊躇い無く頷く。これには多くの選手が困惑したものの、一人だけすんなりと受け入れる者がいた。菜々花である。


「私も紗愛蘭の言ってること分かるかも。打てなかった言い訳はあんまりしたくないけど、何だかこっちにとって凄く間の悪いタイミングで甘い球が来たり、投げミスと思った球が際どいコースに来てるんだよね」


 菜々花は二打席目、フルカウントから高く浮いたカーブを空振りして三振を喫している。その時は失投が偶然ストライクゾーン一杯に入ったと思っていたが、今の紗愛蘭の話を聞いて違うのではないか思ったのだ。


「な、菜々花まで……。そんなこと本当にできるの? 仮にできたとして、暴投するとかフォアボール出すとか、自分たちにとってデメリットしかないじゃん」


 誰かの投げ掛けた疑問に他の者たちが同調する。如何に紗愛蘭や菜々花が言ったことでも、すぐには信じることができない。


「できるかどうかで言えばできると思う。適度にボールを荒らしてるから私たちも気付いていないけど、実は渡さんは相当コントロールが良いんじゃないかな。それこそ持っている球種の全てをどのコースにも自在に投げられるくらいに。心が読めるってだけじゃここまで抑え続けられないとは思ってたんだけど、これなら合点が行くんだ」


 紗愛蘭は沈着に自身の推論を話す。絶対ではないが、概ね合っているだろうという自信はあった。


「じゃあどうして態々危険を冒すのかってことについてだけど、私もはっきりしたことは分からない。ただ向こうには一試合を通してのゲームプランがあって、その中で幾つかフォアボールを出すことも必要だと思ってるんじゃないかな。実際に私たちは目に見える情報を頼りにして、誰しもが渡さんはあまりコントロールが良くないと思ってプレーしてきた。その結果ここまで一点しか取れていない。だから今のところ相手の思惑に沿って試合が進んでるのはほぼ間違いないと思う」

「……た、確かに」

「けどそんなことって……」


 紗愛蘭の説明に皆、納得せざるを得ない。チャンスを作って亀ヶ崎が押しているように感じていたが、実はその展開すらも羽共バッテリーのプラン通りだったかもしれない。そう思うと選手たちは言葉を失うしかなかった。しかしこの雰囲気を再び盛り立てるのも主将の務めだ。


「でも落ち込む必要は無いよ。試合が終わる前に気付けたんだから。まだ攻撃が残ってるんだし、そこで取り返せば良い。ここからは相手が私たちをどうさせたいと思ってるのかを想像して、それに対応しながらプレーしないといけない。だけどそれって、私たちがこれまで培ってきたことじゃない」


 相手の思考を紐解き、自分たちも常に頭を働かせながらプレーする。これは亀ヶ崎ナインが信条として実践してきたことである。その集大成となる夏大の決勝で、羽共バッテリーを相手にするはまさに運命とも言える。


「……紗愛蘭ちゃんの言う通りだよ。相手が色々と考えてくるなら、こっちはそれを上回れば良いんだ。私たちはそのためにここまで頑張ってきたんだから」


 真裕も紗愛蘭に賛同し、皆に訴え掛ける。これに京子や菜々花が続く。


「そうだ。もう向こうが心を読める噂なんて気にしなくて良い。ウチらはウチらの野球をするべきだって分かったんだ。それって確実に良いことじゃん!」

「もうとやかく考えたって仕方無いもんね。ここからは私たちの野球を思う存分見せつけてやろう!」


 亀ヶ崎ナインが徐々に活気を取り戻す。残す攻撃は二イニング。羽共バッテリーの牙城を崩すことはできるか。


《六回表、亀ヶ崎高校の攻撃は、四番サード、オレスさん》


 六回表は四番のオレスから始まる。彼女は先頭打者のため円陣には参加できていないが、ここまで美久瑠からは二安打を放っている。今日一番期待できる打者と言って良い。


(こっちのベンチは何やら盛り上がってたみたいね。良い攻略法でも見つかったの? ま、私はそんなのあろうが無かろうが打つけど)


 オレスは二安打の勢いそのままに初球から打っていく。外角高めのストレートを弾き返し、一二塁間を真っ二つに割いた。あっさりと三安打目を記録した彼女は、一塁を少し回ったところでストップする。


「よし、ナイスバッティング!」

「ちゃんオレ良いぞ!」


 盛り上がる一塁側ベンチ。だがオレス本人は前の二打席でも感じた違和感を拭えず、どうも釈然としない表情を見せている。


(この打席も一球目から甘い球が来た。これが私以外にもそうなら、流石にもっと点を取れてるはず。じゃあ私だけにお粗末な投球をしてくる意味は何?)


 オレスは自身への配球に関し、羽共バッテリーが何かしらの意図を持っていることは察している。その意図とは何なのか。


 一つのヒントとして、全ての打席の直前で紗愛蘭が凡退し、ランナーがいなくなっていることが挙げられる。つまりもしも紗愛蘭がランナーを残してオレスに繋げていれば、彼女の安打で得点できていたかもしれないのだ。


 これは紗愛蘭も分かっていた。もちろんランナーがいればピッチングも変わってくるため、オレスがヒットを打てていたかは分からない。それでも紗愛蘭自身としては責任を感じてしまう。


(オレスがこれだけ打ってるのに、私と言ったら……。いや、もしかしたらこれも羽共バッテリーの狙いかもしれない。悪い方向に考えるのは止めよう)


 紗愛蘭は強く首を振り、後ろ向きになりそうな自らを奮起させる。それから試合に目を向け、次打者の嵐に声援を送る。


「嵐続け! 向こうはゲッツー狙ってくるだろうけど、まずは自分のバッティングを心掛けるんだ!」


 前の打席ではバントを命じられた嵐だったが、この打席はヒッティングの指示が出る。同点に追い付くためにはもう一人のランナーが必要となるため、自らも出塁して後続に回したい。



See you next base……

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