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ベース⚾ガール!!!!  作者: ドラらん
16/56

15th BASE

《四回裏、羽田共立学園高校の攻撃は、五番キャッチャー、東地さん》


 四回裏の先頭は乃亜。ここまでは打撃も守備も菜々花が後塵を拝する結果となっている。直前の打席で三振に倒れた悔しさを糧に、まずは一本取り返したい。


(一巡目も東地だけは配球を読んで打ってきてた。好球必打のスタンスは他と一緒なんだろうけど、ただ厳しい球を投げれば良いわけじゃない。逆に狙いを外せれば少々甘いボールでも打ち取れる。私のリード次第だな)


 初球、菜々花はインコースへのツーシームを要求する。真裕の投球は真ん中低めに行ったものの、乃亜が手を出さずストライクとなる。彼女としてはよっぽどの失投が来ない限り打つ気は無かったようだ。


(入りはツーシームからか。キャッチャーとしてはチャンスで打てなかった焦燥感からついつい力で押したくなるところだけど、その辺はきっちり切り替えられてるみたいだね)


 二球目、再び球種はツーシーム。今度は真裕が内角へと投げ込んだ。これも乃亜は打ちにいかない。


「ストライクツー」


 亀ヶ崎バッテリーはあっさりと追い込んだ。ただ乃亜は狙いを外されたというよりは、端からそうするつもりだったかのような見送り方をしている。この不気味さは菜々花も感じていた。


(東地は二球とも全く反応してなかった。狙い球が外れたとしても少しくらいはバットが動いても良いはずだ。何か意図があるのか? とりあえずカウントには余裕があるし、一球外して様子を見るか)


 三球目、バッテリーはストレートをアウトコースに外す。これも乃亜は悠然と見送る。


(ボールとはいえそんなに大きく外れてなかったぞ。追い込まれてるんだから、もう少し反応を見せても良いだろ。真っ直ぐのスピードに付いていけてないわけでもなさそうだし、本当に何を考えてるのか分からない。……だったら次は正攻法で行ってみよう)


 四球目、菜々花はカーブのサインを出し、ミットで地面を叩く。低めに落として空振りを誘うつもりだ。


 しかしその狙いは失敗に終わる。真裕の投球は要求通りに来たものの、乃亜がきっちりと見極めたのだ。ツーボールツーストライクと並行カウントまで持ち直されてしまう。


(これでもバットは動かずか……。ならもう強制的に振らせるしかないな)


 五球目はインコースのストレート。見送れば明らかにストライクだったため、初めて乃亜がスイングする。やや振り遅れ気味に打ち返した。


 打球は一塁側のファールゾーンに上がる。ファーストとセカンドが落下点目指して走るも、両者追い付けずファールとなる。


(ようやくスイングしてきたか。見た感じあんまり前に飛ばす気は無さそうだったな。もう一球どうだ)


 菜々花は六球目もストレートを続ける。今度は外角だったが、乃亜は前の球と同じように反対方向へカットする。ファールになる打球の行く末を見届けた彼女は、飄々とした面持ちで足元を均す。


(ツーボールになったことでストライクを集め出した。スリーボールにはしたくないだろうから自然とそういうリードになるよね。でもそれじゃ、いつまで経っても勝負は付かないよ)


 この打席での乃亜は、真裕の持ち球をスライダー以外全て目にしている。そのためどの球種でもストライクゾーンに収まっていれば簡単に空振りすることはないだろう。バッテリーとしては苦しいと言わざるを得ない。


(イニングを考えるとまだスライダーは使いたくない。それ以外の変化球となると、前の真っ直ぐを活かすにはこの球が最善か)


 七球目、菜々花はインコースにミットを構えた。出したサインはカーブ。乃亜の肩口から曲げて見逃しのストライクを奪おうと考えたのだ。


 マウンドの真裕が投球モーションを起こす。彼女の腕から放たれたカーブは、菜々花の思惑通り乃亜の背中越しから内角のストライクゾーンに向かって変化する。


「おお……」


 乃亜が小さく声を漏らしながらバットを出そうとする。ところが咄嗟にその動きを止めた。スイングを中断して見送ったのだ。


「ボール」

「え?」


 捕球した菜々花が思わず後ろを振り返る。彼女はストライクだと確信を持っていたようだが、球審の判定はボール。ハーフスイングの主張も認められない。


「まじか……」


 菜々花は膝にミットを付いて肩を落とす。一方の乃亜は平静を保ちながら打席を外し、軽く素振りをする。意表を突かれたように見えた彼女だったが、球筋は見切っており、自身でボールと判断した上で見送っていた。


(内から曲げる球を投げさせたかあ。悪くなかったと思うけど、正直私でも似たような選択をしただろうな。だから来るかもって予想はできてたんだよね)


 これでフルカウント。バッテリーとしては手詰まりの中で使った今の一球が見送られ、自信を持って選べる球が無くなってしまう。


(結局フルカウントまで来てしまった。もちろん歩かせるわけにはいかない。緩急やコーナーワークを活用して、ストライクゾーン近辺で勝負していくしかないな)


 八球目、菜々花が出したサインはアウトローへのツーシーム。だが真裕にボールになってはならないという意識が働き、投球は要求よりも高めに行ってしまう。これでは乃亜も簡単にカットできる。


「ふう……」


 打球が菜々花の後方を転がるのを見て、真裕は一度大きく息を吐き出す。乃亜に対しては次が九球目。これだけ勝負が長くなると、一球一球投げる毎に相当なストレスが溜まる。


「頑張れ真裕! ウチが守るよ!」


 ショートから京子が励ましの言葉を送る。真裕は仄かに口角を持ち上げて応えた。いくら球数を要することになっても、アウトさえ取れれば心は晴れる。そのためにも前を向き、菜々花のサインに頷いて投球を行う。


 投じられたのはストレート。乃亜の懐を抉る。これで差し込むことができればフライアウトに仕留められるかもしれない。


 だが差し込む以前に、乃亜はスイングをしてこなかった。自身の胸の前を通過する投球を、彼女は微動だにせず見送る。


「ボール、フォア」


 球審の手は挙がらず。判定を聞いた真裕は下唇を噛み、微かな不快感を滲ませる。二球でツーストライクとしながら乃亜の粘りに屈した。


(真裕は良いところに投げてくれてたのに……。もっと大胆な配球をするべきだったか)


 この四球はリードする菜々花としても痛い。ツーストライクを取った後、乃亜の様子に惑わされてボール球を二つ続けてしまった。ここが勝負の分かれ目となった。


(いきなりツーシームを二球続けてきたってことは、何としても私のことを抑えたかったみたいだね。けど私がどちらも反応してこなかったのは予想外だったかな? そのおかげで勝手にボール二つ増やしてくれたし、そこからは粘っていれば楽だったね)


 意気消沈するバッテリーを後目に、乃亜がバッティンググラブを外しながら小走りで一塁に向かう。羽共は初回以来となる先頭打者が出塁する。



See you next base……


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