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ベース⚾ガール!!!!  作者: ドラらん
12/56

11th BASE

 三回表、亀ヶ崎は先頭の菜々花が出塁。直後の送りバントでワンナウトランナー二塁とし、真裕に打順が回る。


《九番ピッチャー、柳瀬さん》


 真裕はピッチャーであるが、バッティングセンスも非常に高い。この場面でもランナーを還す一打が十分に期待できる。


(こんなに早く三点も取られたんだ。一点くらい自分のバットで返さないと)


 一球目、美久瑠が投じたのはインコースのストレート。真裕は自らの太腿付近を抉る投球にも怯まず、鋭いスイングで打ち返す。


「サード!」


 打球が瞬く間に三遊間を破っていく。二塁ランナーの菜々花はそれを確認してから走り出したため、三塁で止まる。


「ナイスバッティング!」


 エースのクリーンヒットにベンチのチームメイトも湧く。得点こそならなかったものの、これでワンナウトランナー一、三塁。チャンスを広げて打順を一番に返す。


「タイム」


 ここでキャッチャーの乃亜が一度美久瑠の元へと向かう。菜々花にも真裕にも捉えられたヒットを許し、配球を考え直す必要がありそうだ。


「流石は亀ヶ崎。もう美久瑠の真っ直ぐに対応してきてる」

「だね。もうちょっと行けるかと思ったんだけどなあ。まあ決勝に進んだわけだし、これくらいやって当然か」


 美久瑠が薄らと笑みを交えて言う。ピンチを迎えているが、その表情からはまだ余裕が感じられる。


「今のところほとんど真っ直ぐしか見せてないのもあるだろうけどね。ただこれ以上打たれて調子付かせるわけにはいかない。ちょうど二巡目に入っていくし、相手の様子も伺いながら組み立てを練っていこう」

「おっけー」


 バッテリーが話を終え、試合再開となる。打席に入るのは一番の京子。第一打席ではストレートのみの僅か四球で打ち取られたので、その雪辱を期す。


(今のタイムを機に配球も変わってくるかな? でもウチは真っ直ぐで抑えられてるし、まずはそれを狙っていくぞ!)


 初球、クロスファイヤーのストレートが京子の脇腹から真ん中低め付近へと入ってくる。京子は真裕や菜々花のようにファーストストライクから手を出していく。


「ファール」


 速いゴロが一塁線の横を抜けていく。しかし惜しくもファールとなり、走り出していた二人のランナー、そして京子が残念そうに引き返す。


(ちょっとバットを出すのが早かったか。けど当たりは悪くなかったし、次も真っ直ぐを狙っていこう)


 二球目。一球目の速球と一転して緩いカーブが来る。外角へと大きく外れるように変化し、京子は反応を示すことなく見送る。


(やっとウチにも変化球を投げてきたか。けどこれくらいなら真っ直ぐ狙いの状態でも見極められる。追い込まれてもバットに当てることはできるだろうだし、そんなに怖がらなくて良さそうだ)


 引き続きストレートに的を絞る京子に対し、美久瑠は三球目もカーブを続ける。ただし前の球と比べてスピードがあり、高めから低めへと縦に落ちるような曲がり方をする。一旦は打ちにいきかけた京子だったが、ボールと判断してバットを止めた。


「ストライクツー」

「おお、まじか……」


 しかしアウトロー一杯に入っていたようだ。京子は口を窄めながらも、納得せざるを得ないと何度か頷く。


(これは仕方無いな。追い込まれた以上、無理にヒットを打とうとすればさっきみたいに打ち取られる。厳しい球をカットしつつ、最低限ランナーがホームに還れるバッティングをするんだ)


 四球目、外角低めにストレートが来る。ストライクかボールかの判別が難しいコースだったこともあり、京子はバットに当ててファールで逃れる。


 続く五球目は緩いカーブ。自らから遠のいていく変化に京子は体勢を崩されながらも、食らい付いてファールにする。


 ワンボールツーストライクから二球ファールが続いた。羽共バッテリーはストレートと二種類のカーブしか見せていない。ここはそれだけで乗り切ると言わんばかりに、六球目はインコース低めのストレートを選択する。


 京子は窮屈なスイングを強いられながらもバットに当てる。だがファールにすることができず、打球は一二塁間に弱々しく転がる。


「セカン!」


 ダブルプレーシフトを敷いていた羽共はセカンドの吉原が前に出てきて打球を処理する。彼女は二塁に目を向けたものの、ショートの馬目が一塁への送球を指示していたためそれに従う。


「アウト」

「くっ……」


 京子はセカンドゴロに倒れ、悔しそうに一塁を駆け抜ける。しかし三塁ランナーの菜々花は生還することができた。亀ヶ崎が一点を返す。


「よしよし。まずは一点だ。ナイス陽田!」


 三点を取られて沈み気味だった一塁側スタンドにも活気が戻る。そういった意味でもこの一点の価値は大きい。


《二番センター、西江さん》


 尚も真裕が二塁に進み、亀ヶ崎の得点機は続く。ゆりのバットでもう一点奪えるか。


「ゆり、自分らしく積極的に行けよ!」

「多少芯を外されてもバットを振り切ればヒットになるぞ!」


 ベンチのチームメイトからの声に頷き、ゆりが打席に入る。その初球は外角のストレートだ。


「ボール」


 抜け球のように大きく外れた。時にとんでもないボール球を打ってヒットを放つこともあるゆりだが、これには手を出さない。


 二球目。緩いカーブが低めにワンバウンドする。乃亜が体に当てて一塁側へと弾いたものの、ランナーの真裕は動かない。


 今日初めて美久瑠はボールが二つ先行する。ゆりにとっては非常に有利なカウントとなる。


(こういう時に尽く狙いを外されるから、心を読まれるって言うのかな? ……いやいや、そういうことは考えないんだった。私はとにかく真っ直ぐ一本に絞ってスイングする。振り回し過ぎないようにだけ注意しよう)


 雑念を払い除け、ゆりは次の投球を待つ。三球目、彼女の狙っていたストレートが真ん中高めに来る。


「ボールスリー」


 ところがこれまたバットの届かないコースだった。ゆりは手を出しかけたものの、咄嗟にバットを止めて見極める。


(あれ? こんなに荒れるピッチャーだったっけ? ピンチで力が入ってるのかな)


 ゆりが不思議に感じながら迎える四球目、美久瑠の投じたストレートがインローに来る。しかし低過ぎたようで、球審の手は挙がらなかった。


「ボール、フォア」

「おお、ラッキー」


 結局ストライクは一球も入らず。よもやとも言えるストレートの四球でゆりが一塁に歩く。ランナーが二人溜まり、亀ヶ崎で最も期待のできる打者に回る。



See you next base……

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