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転生

どろりと暖かさを感じる。

何かを壊しているようなーー何かに囚われているような。

声が出せない。何かがつっかえているのかガラガラとしたうなり声。

まぶたはくっついたまま動かず、匂いも感じない。

身体中を覆う粘液が何なのか。

密閉されているはずなのにーー息が出来る。

外に出たい。

この不快な息苦しさから解放されたい。

大地はガムシャラに身体を動かした。すると壁がある。前にも後ろにも。背中を預けて自身の脚力を柔然に活用したらビシャリと何かを蹴破った。

「ぁぁあああああぁああああ。」

女の叫び声ーーまだ若い。おそらく小学生くらい。

幼さの残る声だがそれに反して悲鳴は切実だった。

声の主を探して首を動かすーーが首はなかなか動かない。固定されたようにガッチリと固まっている。

仕方ないので体ごと大きく反転した。

見つけたーー腹に穴が空いた十才ほどの痩せ細った少女だ。

顔をグシャグシャにしままこちらを見ている。

大地は可哀想だと思った。

腹に穴が空いたまま転がっている様はひどく痛々しい。

何か治療してやらないと。応急処置をしないとこの死に至るかも。


ふと辺りを見渡す。ここは砂漠のようだ。

一面に何もない。まっさらに広がる砂浜。

病院は見当たらないが、遠くに湖があった。

とりあえず喉が渇いてるかもしれない。背中に乗せて少女をあそこまで連れて行こうと思い手を伸ばす。

パチンとーー。

その手を少女は弾き飛ばした。

怯えた目付きで。

初対面の人間に対して警戒心を抱くのも当たり前か。

しょうがない。自分が取りに行ってやろう。砂漠なのだから遊牧民が忘れた樽やコップなんかがあればここまで運んでこれる。

そう結論づけて大地はオアシス目掛けて走った。

目の前で大怪我をしている少女がいるのだ。なりふり構っていられない。狭い視野、緑の腕、極端に悪い視力。そんなことあたまから外れていた。

そしてオアシスまで辿り着くと誰かが残した樽が置かれていて穴も空いてる様子はない。他にも板、錆びた棒、車輪などがある。どうやら以前ここに来た者が馬車の荷台部分を交換して壊れかけのものをここに置いていったらしい。

まあまずは水を入れよう。ーー。

「がグァディじゃぁ」

よく分からない音が喉から漏れる。声帯がおかしい、そしてなによりーー。

水面に映り込んでいたのは醜悪な緑の小人。

長い爪。醜く折れた鼻。眼球は赤と黄色。尖った歯の隙間からはよだれがこれでもかというぐらいに垂れている。

身体には無数のブツブツがあり、一生涯風呂に入らなかったホームレスでもこんな肌荒れはしないだろう。

自分が人間でないことを理解せざるを得ない。

気が動転している。

そもそも大地は美空と一緒に山頂にいなかったか?

どうして砂漠にいるのか。

どうして身体が変化しているのか。

ああーーそうだ。自分は美空を庇うようにして山から転がり落ち、その最中でおそらく死んだ。

そして生まれ変わったのだ。こんな醜悪な種族に。それ以外に考えられない。体中の不快感が現実であることを強く主張していた。

ーーであるならば、親は。

自分が誰の腹から生まれたのか。

コタエは明白だった。

自分があの少女ーーまだ成人すらしていない少女の腹の中を裂いて、出てきたのだ。



とにかく、樽に水を貯めると少女のもとに戻った。

動くことができない少女は熱々の砂上でまだ息をしていた。

「いやぁぁ!!」

少女はうめく。

なんと言っているのだろう。言語が分からないがその所作から意図が掴める。

まだ大地のことが、この醜悪な化け物のことが、怖いのだ。

確かに逆の立場で考えて、自分の腹から出てきた化け物が何か詰まった樽を持ってきたら不気味極まるし動けるのなら、逃げ切れるのなら大地でも逃げる。

中身が水とわかると彼女は水中に顔を突っ込むように飲んだ。

よっぽどのどが渇いていたのかーーばしゃり。水面から顔を出すとそのまま寝てしまった。

とりあえず移動しないと。

今の自分の身長は100センチにも全く届かない。そもそも少女から生まれたのだから大地の方が小さいのは自明である。寝ている彼女を見捨てる選択はもちろんない。

もう一度オアシスに戻り腐食まみれの板、車輪、棒をかつてあったであろう形に組みなおすと荷車ができた。接合用のくぼみや釘が曲がっているので堅牢なものはできなかったが「母親」一人乗せるくらいのことはできるだろう。


ーー目いっぱいの水も樽に詰めて、砂漠から抜け出すべく歩き出す。








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