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超能力者は転生しても無敵です! 1 ~所謂超能力者の所謂異世界奮闘記~  作者: Nayutess
超能力者は転生しても無敵です! 1 ~所謂超能力者の所謂異世界奮闘記~
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序章

 ~所謂超能力者の所謂異世界奮闘記~の序章です

 気が付いたら真っ白な空間にいた。辺り一面真っ白で自分の影さえ見つからない、そんな一見神秘的な空間。


 俺はさっきまで膝に乗っかっていた弁当箱の重みを惜しむように胡坐を掻いたまま辺りを見渡す。

 白、白、白。ただ白だけが延々と続く景色に軽く眩暈さえ覚えた。これは現実なんだろうか?

 ついさっきまで俺は学校の屋上にいたはずだ。いつもと変わらない毎日。退屈な授業、周囲には俺のことを見下す猿ばかり、何も変わらない、楽しくない毎日……だった、さっきまで。

 いつものように、クズどもから逃げるように屋上で昼食をとっていた俺のもとに、そいつは現れた。〝女神〟と名乗ったそいつは、光っていて、宙に浮いていて、おかしな服装をしていて。でも、俺にとってそんなことはどうでもよかった。俺の前に突如現れた非日常。それだけで俺には十分だった。

 そいつは俺に異世界を救って欲しいと言ってきた。最近よく聞く『異世界転生』。この俺が主人公になることができる。なんの才能も技能も超能力も無いこの俺が。高鳴る心臓、逸る心。俺は二つ返事でOKしていた。その瞬間目の前が光に包まれて……。

 そしてここにいたと言うわけだ。

 もう一度周りを見渡す。ここはもう異世界なのか?

 いずれにしても、こんなところで座っていてもしょうがない。俺は重い腰を上げて、辺りを探索しようと立ち上がった……ところで女神が現れた。時間的には大したことない―五分ほどか。それでも、こいつは俺を待たせやがった。この世界を救う最強の勇者を!


「おい、女神!ふざけんな!いつまで俺を待たせやがるんだ!俺様は世界を救うんだぞ!?もっと丁重に扱え!糞がっ!殺すぞ?」


 吐き捨てるように怒鳴りつけ、立ち上がる。そんな俺に対し女神は不敵な笑みを張り付けたままこっちへ近づいてくる。


尾宅おやけ 茂夫しげおさんですね?まずは異世界を救って欲しいという私の召喚に応じてくださってありがとうございます。一応確認ですが、一度こちらの世界に来てしまうと再び元の世界に戻れない可能性もあります。現世への心残りは?」


 俺の恫喝には一切動じず、飄々とした態度を崩さない。そんな女神に少し気圧されながらも逆に一歩前に出る。


「知るか!あんなクズども!俺のことを、デブだの、陰キャだの、キモオタだのと一片の理解さえも示そうとしない!クソババアは勉強勉強うるせぇし、クソオヤジはすぐぶん殴ってくる!だがこの世界では俺は救世主だ!誰も俺を否定できない!最高だろ!?」


 俺と女神の距離が縮んでいく。そして彼我の距離がほぼ無くなった。


「それではあなたを私の管理する異世界に転生させます。私の世界は『エデン』。あなた方が想像する、所謂ところの異世界です。剣と魔法と魔物たちが跋扈する世界。あなたの目的はその世界で魔王と呼ばれる魔物を退治すること。エデンに秩序と安寧をもたらしてください」


 女神が上目遣いでこちらを見てくる。断る理由など無い。


「おぅふ」

「それでは、あなたをエデンへ送ります。どこへ送ろうか……あそこがいいですね」


 俺の体がだんだん淡くぼやけだす。


「あなたをガフラン領西エルトニアの森に送ります。ちょうどそこでモンスターに襲撃されている一行がいるので、肩慣らしにでも助けてあげてください」


 俺の体はもうほとんど透明だ。自分でもなんとなくここを離れていくのがわかる。


「用があったらいつでも呼んでください。すぐに念話で応じます」


 だんだん意識も薄くなってきた。これから始まる冒険に心が躍る。ちらと女神の方を見たら嬉しそうな顔をしていたような気がしたけど、次の瞬間にはもう俺は鬱蒼と茂る森の中にいた。

 最初に気づいたのは、まず鼻だった。緑の木々草花の良い香り。次に耳、木々のざわめき、鳥たちの鳴き声。それから肌。マイナスイオンに満ちた清涼な空気。最後に目。目の前に悠然と広がる自然を前に、俺は冒険の前兆を感じた。


「でゅふふふふ!ついに、俺が、輝ける世界に、来たんだぞー!」


 目にかかる汗を拭いながら、俺は高笑いを上げる。


「でゅふふふ……ふぅ。さて、ここいらのどこかにモンスターに襲われている一行とやらがいるはずなんだが……」


 よく耳をすましてみる。すると、少し離れたところから戦闘音が聞こえた。激しい剣撃音と馬の嘶き、それから……女子の息づかい!

 俺はその瞬間、音のする方へ駆け出していた。


「ヘッヘッヒィ、フゥフゥヘェ……あ゛ぁ゛、待っててね、マイプリンセス……」


 走り出すと突き出た腹が支えて思うように走れない。更に、運動不足で錆び付いた足は、小さな段差や細い木の根に引っ掛かって、何度も転びそうになる。

 そんなこんなで二分ほど走ると、先の開けた、見晴らしのいい丘に出た。

 果たしてそこには、一台の馬車とそれに群がる体長二メートルほどの豚っ鼻の-おそらくオークだろう-怪物たち、それから、そんな怪物たちの中にあって一歩も怖じ気づくことなく凛と咲く花のような……


「マイ!リトル!プリンセスーー!!」


 俺は、おそらく馬車の主人であろう、気位の高そうな美少女へ駆け寄っていく。俺の勇猛な足音、果敢な鼓舞に少女はこちらへ目を向けた。


「げ、なんだあのキモデブ。あれも新種のモンスターか?こっちはオークだけで手一杯だってのに……」


 少女が何か言っていたが聞こえなかったふりをする。


「待たせたね!ふぅ、ふぅ、ふぅ……はぁ、はぁ、ひぃひぃ。俺は、勇者オヤケ……!はひぃ、へぇへぇ……俺が…来たからには…もう…大丈夫だよ……!」


 呼吸を整えながら少女にキメ顔を送る。

 見ると、少女の顔は血の気が失せたように真っ青だった。無理もない。これだけの魔物に襲われることなど無かったのだろう。

 俺は安心させるために、笑顔で彼女の手を握る。


「安心して。この俺が来たからには、二度と君に怖い思いはさせないから!」

「う、うわぁ!気持ち悪い!触るな!何かベトベトしてるし……気持ち悪い表情(かお)をするな!私を助けてくれるなら、頼むからあっち行ってろ!」


 そう言うと少女は、慌てて俺の手を振り払う。もう、照れ屋さんなんだから。


「ここは俺に任せて、君は下がってて!」


 俺はかっこよく少女の前に立ち、オークどもに居直った。

 しかし少女は納得した様子を見せず、戸惑っている様だった。


「え、いや、しかし、お前に奴らが倒せるのか?見たところ丸腰だし……一応私は訓練を積む身。自分が逃げる時間を稼ぐくらいなら容易なのだが……」

「いいから、下がってて!将来の俺の嫁に傷ついてほしくないんだ!」

「そうか、わかった。嫁の部分には承諾しかねるが、任せろというのなら任せよう。そしてあわよくば、相打ってしまえ」


 それだけ言うと少女はスタコラと俺に背を向け、馬車の裏へ引っ込んでしまった。素直な可愛い娘だなぁ。


「GRRRRR……」


 惚ける俺の耳に汚ならしい雑音が聞こえてくる。俺は、はぁ、と一つため息をつくと、オークの方へ振り返った。


「やれやれ、汚い豚どもだ。この俺の至福の時を邪魔しようだなんて。その行い、万死に値する!ハァァァ……!」


 俺は両手に魔力を溜め込んでいく。本来ならそこまでする必要も無いが、簡単に終わらせても意味がない。奴らには苦しんでもらおう。そして、俺の引き立て役になってもらおう!


「ハァァァ!喰らえ!≪血濡れの猛犬(ブラッドハウンド)≫!!」


 俺の手のひらから紅い多頭の狂獣が躍り出て、奴らをズタズタに引き裂いた!

 ……かのように思えた。しかし、現実には何も出ていない。赤も狂獣もなく、オークは相変わらず憎たらしい顔面をこちらへ向けている。

 おかしい。イメージが足りなかったのか?それともそもそも技が決まっているとか?


「っ!……魔法がダメなら、直接攻撃だっ!」


 俺は上げていた両手を一気に振り下ろし、オークどもに突進する。


「ウオオオォォォォオオオ……!……あっ!」


 しかし、今まで走ったことの無いような長距離をノンストップで走ってきた疲労だろうか。俺の足は言うことを聞かず、敵の目の前で無様にも転んでしまう。

 おかしい!どうなってるんだ!?まるで強くなっている気がしない!……ステータスだ!ステータスはどうなってるんだ!?

 俺は慌てて、ステータス!、と唱えるが何も出てこない。一体どうなってやがる。女神の奴騙したのか!?


「騙した、とは心外ですねー」


 突然、頭のなかで声がした。これは……念話!


「おい、女神、どうなってやがる!魔法も使えないし、身体能力も低いまま、ステータスも見られねぇ!どうなってんだ!?俺のチートは何だ!?」


 叫ぶようにして叩きつけた俺の言葉に、女神は一つ、はぁ、と息をついて、


「チート?そんなものあるわけ無いでしょう?」

「……は?」

「魔法?身体能力補正?はぁぁあ。そんなもの約束してませんよ」

「え、でも、世界を救う……」

「えぇ、言いましたとも。『エデンに秩序と安寧をもたらしてください』とはね。力をあげるなんて、言ってマセーン」

「そ、そんな……」


 身体中から血の気が失せていくのが分かる。


「そんな、じゃあ、ここで死ぬ……?」

「えぇ、あなたがここで勝てなければ、間違いなく死ぬでしょうねー。瞬殺ですよ」

「そんな……そんなの嫌だ!帰してくれ!俺をもとの世界に……」

「ダメでーす。言ったでしょう?『再び元の世界に戻れない可能性もあります』って。帰しませんよー」


 嘘だ。嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!これは夢だ!これは何かの間違いだ!夢から覚めたら、また下らない日常が始まって、ババアやジジイはうるさくて、学校の奴らはうざいし、苦しくてつまらない世界で!そんな日常がまた始まる、そうに決まってる!

 のそり、と頭上で何かが動く音がして、がしり、と俺の頭が万力に絞められたように掴まれ、ぶらり、と俺の両足が地を離れた。


「これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ……」


 頭の奥の方でミシミシと嫌な音が聞こえ出す。だんだん意識も薄らいできた。


「これは夢で、悪い夢で、目が覚めたらまたいつもの日常に---」

「あ、ちなみに、オレ、女神じゃなくて、どっちかっていうと実は悪魔だったんでー。そこら辺ヨロシクー」

「あ、あ------」


 グシャリ、と何かが潰れるような音が聞こえた。ドロリ、と頭の奥の方が熱くなっていく。しばらくその感覚を楽しんでいたけど、すぐに、プツリ、と意識は俺から離れていった。


     ✕×✕×✕×✕×✕×✕×✕×✕×✕×✕×✕×✕×✕


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 愉快で愉快で笑いが止まらない。さっきの奴は本当に傑作だった。

 オレが知るなかで最も退屈で凡庸な異世界から、最も社会的地位が低く、現状に不満を抱いていそうな人間。まぁ要は、最もこの話に乗ってきそうなクズを選んできたわけだが。

 よくもまぁ、あんなんで世界を救えると思ったもんだ。まさか鏡で自分を見たことが無かったのか?まぁ、そもそも、常識という鏡で自分をを見てなかったけどな。


「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 さっきから笑いが止まらない。誰だっけ、オタク?だっけ、の働きはなかなかだった。


「アハハハハ!よかったなぁ!お前はオレを-悪戯の神であるこの俺を楽しませたんだぜ!大義であったな。ギャハハハハハー!」


 楽しい楽しい楽しい!


「さて、下の、何だっけ、マーイリトルプゥリィンセスゥ!ギャハハハハハハー!はーあ、はどうなったかな……」


 オレはゆっくりと下界を覗き見……て動きが止まる。

 あれ?知らないやつがいる。さっきまでは見当たらなかったのに急に現れてるし、明らかにこっちの世界のものじゃない服着てるし。

 あいつ、明らかに転生者だよな?召喚した覚えはないけど、うっかりヲタクについてきちゃったのかな?

 まぁ、いいや。うっかり異世界転生しちゃった、なーんて、きっとあいつの頭の中は悲壮感でいっぱいだろうな。それはそれで悪くない。


「またオレのことを楽しませてくれるのかな?」

 それまではもう一度あいつの最期でも思い出して、

「ウェへヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!グヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


 あーあ、たぁのしぃなぁ!

 だけど……


「アハハハハ……んあ?」


 だけど、そこで異変に気付いた。

 一番最初に目についたのは、さっきの奴の足元に転がるオークの死体。なのにあいつは一歩も動いた形跡がない!おかしぃ!どうやって!?なんの力も無ぇガキが!?

 謎が謎を呼ぶ、オレにとって稀代のミステリー。だがそんなことは、奴の次の一言で、全てどうでもよくなった。


「これが噂の異世界転生……大したことないな」

 ブッッチィィ―――!!と血管が切れる音が聞こえたような気がした。

「てめぇ!誰だてめぇはよぉ!呼んだ覚えなんかねぇぞ!?」


 奴に向けて特大の念波を送る。それが奴に届いたとき、奴はこっちを見た……ように感じた。実際は時空を超えたはるか遠くにいる俺の位置なんか分かるはずがない。それなのに、そう錯覚させるような、強い気配……。

 オレは一瞬奴の瞳に恐怖を覚えた。


「俺の名前は石動 遊羅(いするぎ ゆら)。地上最強の超能力者だ」

 ご読了感謝感激の極みでございます。


 もしこの作品を気に入っていただけましたら、ブックマーク、お気に入り等付けて頂けると嬉しいです。

 それが僕の創作意欲、頑張るエネルギーになります。


 次話から遊羅の冒険は始まります!

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