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魔法の木エニシダの香り  作者: 文乃木 れい
保育園がつぶされる⁉
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仕事を持つ女性のために


 それでね、署名活動ほんとにやることになっちゃうみたい。


「そんな方法しかないんやろか」

洋はまずはテレビをつけ テーブルに座り 新聞を手にとって私にも一応返事をした。

昼のうちにみそでくるんでおいた牛肉をさっと焼いて、ひじきと豚汁を並べ 私も一緒に テーブルに座る。さっきこどもたちとごはんはすませてしまっていた。

「そうだよねえ、なんかよくわからないけど」


 なんだかあれよあれよという間に署名活動することになってた。私はこのことを深く考えて決めただろうか。

 村のものである保育所を村がやめるというのにわたしたちはそれをとやかく言う権利はあるのだろうか。


「ねえ、税金でやってる保育園なんだから私たちにも意見をいう権利あるよねえ。」

「そりゃそうや。」と夫。

  

「でも、赤字ならそれを解決するのに反対するのも変かなあ。」

「どうなんやろなあ。」新聞とテレビから目を離さず、箸を持つ夫。


「どれくらいの赤字なのかなあ?どれくらいの予算がうくのかしらねえ?

でもさあ、必要な施設なんじゃないの?保育所って。」 

「そやなあ。」


「採算があわなくても だからってつぶしていいっていう性質のものじゃないよねえ?」

「そう考えない人もいる。」

まるで他人事のような相槌しかうたない夫にちょっと腹がたってきた。


「だって、住んでる人たちの幸福を優先に考えるのが公僕のつとめでしょ?ましてやこどもを預かってるんだよ!」思わず強い口調になると

「こうぼくに怒ってくれ。わしに怒らんでも おーこわっ。」とちゃかされた。

 

夫が食べ終わったので お茶をいれ 私は テーブルをかたづけて 洗い物を始めた。 


 黙ってしまった私の様子に さすがに 新聞をたたみ、

「それで、署名はいつまで集めるんや、議会はいつやったかなあ」と聞いた。

そんなことわからない。私ってなんにも知らない。署名を集めることしか具体的に思い浮かばない。

「あー、そうよねえ。、いつまでにどこに出すんだろ。よくわからない。」


「これからの流れを把握しといたほうがいいな。」とようやく彼にしてはまじめなことを言った。

「そうか、そうだよね、」


「りょうがいるのやし、副会長だからってあんまりがんばりすぎるなよ」

「うん、無理はしない。それに新田さんとか協力してくれるし。」


「さて、ちょっと仕事してくる。」と言って夫はテレビを消して立ちあがった。

「いっつも仕事あるね。」という私に よく聞きとれなかったが なんだかぶつぶつ言いながら ひきあげていった。

仕事部屋はこの台所をはさんでこどもたちの寝ている和室とは反対側にある。

  

 洋の座ってた椅子にふーっと腰かけた。

もし私が夫と同じように仕事をしていたらどうなってるんだろう。

とてもがんばれないかも。署名運動なんてめんどくさいことやってられないかも。

 日々働くことで精一杯の人達が、政治や行政のことで疑問を持ってもそれを解決していこうと考え続けていくことは非常に難しい。結局は泣き寝入りしてしまうことがほとんどだろう。

 仕事持って子ども持って、その上困難な戦いをしていくのは並大抵ではない。

  

 幸い私の仕事は時間にしばられない。タウンペーパーにちょこっと記事を載せるだけの仕事。仕事のうちには入らない。フルタイムの仕事を持ち子供を保育所に預けざるをえないおあかさんたちのために、今回がんばってみようと思う。


 今度のことはこどもたちのため、できるだけのことをする。こどもたちみんな大人を信じきって毎日保育所で過ごしているのに、その場が明日からありませんよなんてとても言えない。


 電話の音で時計を見たら10時、だれかな?

「ごめんなさい、遅くに。今いい?」高田さんだった。

「あーこちらからお電話さしあげなくてはいけなかったのに、ごめんなさい。今日のことね。」

「どうなったかなと思って。」

私はざっと今日の話しをした。


「それでね昼間に仕事がない私たちが中心になるしかないかなっと思って、あなたとふたりで議員めぐりの計画立てますっていっちゃったのよ。よかった?」

「構わないわよ。私水曜と金曜は午前中は空いてるから。」


「じゃ、明日、高田さんがうちに来てくれる?名簿見ながら検討したいし。」

かんたくんが保育所にいってしまえば 田中さんはフリーだ。


署名活動の事は 明日考えよう。


雨の音がしているのに そのとき初めて気が付いた。




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