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魔法の木エニシダの香り  作者: 文乃木 れい
保育園がつぶされる⁉
3/50

父母会

  ひなぎく保育園がなくなってしまういう内容があっという間に知れわたったためだろう、父母会は全員出席で始まった。

 

 会長の木田さんはふたりのお子さんを この保育園に預けている。まりちゃんはけいと同じ年長で大きいらいおん組、下のはる君は2歳児のあひる組だ。

 

 木田さんは夫と同じ職場だけど 子供の送り迎えはだいたいおとうさんの木田さんがしている。きっとものすごく忙しい合間に保育園に来る時間を作ってるに違いないのに いつも穏やかでにこにこしている。

 

 家事をこなせてまめな人だから奥さんが仕事ができるのか、奥さんが仕事を持ってると夫はみんなこうなるのか、私は木田さんに会うといつもそんなことを考えてしまう。

 

 そんな木田さんが いつになく 厳しい顔で次のようなことを話した。

 

 このままの状況では、来年度からひなぎく保育園はなくなってしまう。

村の福祉審議会で統廃合問題を検討中。審議会での答申はまだでていないけど、ひなぎくをつぶす方向での審議会のようです。もし統廃合という答申が議会に出されたら、来年度からひなぎくはなくなってしまいます。ですから今後の父母の会の方針を急いで打ち出したい。どうしたらよいでしょう、みなさん、どうお考えですか?ぼくは存続を願うわけですが。ね、どうしましょう


 ひなぎくがつぶされてしまうといううわさは確かに何回かきいたことがある。しかしそんなことがあるわけがないとたかをくくっていた。だって、村がやっているのだし、実際子供たちがいるのだから。こどもたちが生活している場をばっさりと切り捨てるだろうか。そんなの普通では考えられないではないか。重苦しい空気が流れた。


 最初に口を開いたのはえみちゃんのおとうさん、小寺さんだ。夫と同じ研究所で、おくさんはお医者さんだ。


 「村ではどういう理由でひなぎくを無くすっていってるの?」みんなそれが知りたい。

「定員割れでしょうね。ただひなぎくの人数は、ずっと30人前後で低いながらも安定していてそうめちゃめちゃ少ないわけじゃない。全体で考えれば、村立の保育園四つの定員があわせて240人、今現状は200人強います。もし仮にこのひなぎく保育園の30人を他の三つの保育園に10人ずつ振り分けたらそれで3つの保育園がほぼ定員に達し、その後の受け入れに余裕がなくなります。だから今くらいの余裕があってもいいんじゃないかと。」


 「そうですよね、親が急に病気になったりなどの緊急の場合の備えとしても 村の保育園は定員に余裕をもたすべきよね。」

かんたのおかあさん、高田さんが言うと


「そこなんです。もしひなぎくをつぶしたとして、これから定員に余裕がない状態でよいのかと。」

「村はそこのところどう考えてるんだろうねえ。」と小寺さん。すると 


 「保育園が必要だなんて 思っちゃいないのよ。だって、こどもを入園させることがどんなに大変だったか、みなさん嫌な思いしたでしょ?」と高田さんが話し出した。

 

「保育園に入園させてもらう時、どこで働いているか、収入はいくらかとかうるさく言ってそれも半年ごとに更新の書類を書かせて、簡単には入園させてはもらえない。役場に日参していやな思いをしましたよ。それなのに、あげくのはては廃園?まだ園児がいるのに?ひどすぎませんか?。」彼女の声はふるえていた。


「なんだかんだうるさくいってようやく入園を許可したのだから、せめて在園する園児がみんな卒園するまで責任を持つべきでしょう。違いますか」


 高田さんのかんたくんはけいよりひとつ下、あと一年を残して保育所が無くなってしまうなんてそれは納得できないだろう。

みんなもそれはないよ、こどもがかわいそうでしょ と


 それぞれが思い思いにしゃべりはじめたので木田会長が声をあげた。

 

「財政が苦しいという理由にしてもですよ、すぐにきりすててしまうっていう方向に行くっていうのが淋しいですよね。それにこの村の台所が厳しいとは思えないですしね。ちっぽけな保育園でもそれを無くしてしまうということはとてもだいそれたことで、もっと慎重に考えてほしいということは伝えたいと思うんですよ。どう思われますか?」

 

「どういうやり方で訴えるかだよね。」と小寺さん。

 

「直接役場に行ってひなぎくをなくさないでほしいと訴えににいったらどうですか。こんな理不尽な話受け入れられませんて。」と言ったのは高田さん。かんたのおかあさんだ。


 「そうですよ。最初から理不尽だったわ。役場で入園の申し込みをした時、ひなぎく希望してんのにすみれに行ってくださいって言われたんですよ。ここが一番近いところなのになぜなんですか? って強く言って ようやく入れてもらえたのと」と発言したのは ようこちゃんのおかあさん、お肉やの中山さんだ。

すると、うちも同じだった という話がつぎつぎに出て

 

 「うーん。ひなぎくの入所人数が少ないのは作為的かもしれないということですよねえ。」と木田さんはため息をついた。「やはりだいぶ前から廃止の方向だったのかも。」

 

「まずは、その福祉審議会でどのような話しがされてるのかを知ること大事だよねえ。」と小寺さん。

「なぜ審議会にかけられたのか、審議会のメンバーは誰なのか」


「いろいろ知りたいことがありますよね。役場の福祉課に行けば教えてくれるでしょうかねえ。ニ、三日うちにいってきますよ。」会長とはいえ木田さんに全部まかせては、お忙しいのに申し訳ない。何かできることありますか?と私が聞くと、木田会長は、「議員さんや、審議会のメンバーがわかったらみんなで手分けして、お願いにいったらどうでしょうねえ。」

 

 「議員さんのところにいって効果あるのかなあ、わたしたちが行ったって。」と、お肉やの中山さん。「店があるから忙しいしねえ」と言ったので、

「行ける人が行きましょう。 村長にも話をしにいきましょう。」と思わず私は

「この際 後悔しないように なんでも手をうちましょう」と声をあげた。 

 

すると、同じ年長組のこうじ君のおかあさんの小沢さんが、「でも仕事ない人はいいけど、私ら昼間仕事で忙しい。」とちょっと硬い声だった。中央通りの中華料理屋さんだ。

 「何にもできないよ、昼間仕事で忙しいからこども預けてんだから」と私のほうを向いた。

「あ、‥‥。」私は勤めているわけではない。フリーライター。保育園の何人かのおかあさんが私に違和感を抱いているのは知っている。


 すると木田さん、「いっちょ、署名でも集めますか?大急ぎで」 そう言った。

「あー、署名活動ねえ それいいかもしれないなあ」と小寺さんがうなづき、

「私ら人数少ないから、できるだけ多くの村の人に聞いてもらって、協力してもらうのがいい。」 

 しかしあとのおとうさんやおかあさんたちは、戸惑い気味だ。


「だけど、署名活動って、誰でも好きにやっていいもんなの?」

 

「それは調べてみますよ。 たぶん署名は自由にやれるんじゃないかと思うんですが、請願する時に紹介議員がいるんじゃないかなあ。」


「どうやってするのかねえ、駅前とかに立つのかねえ?」小沢さんが心配そうに聞いたら、会長が「できる範囲でということであまり無理をしないようにしましょう。」と答えた。


 「そりゃわたしらが行動してもしれてるけど、村の人たちがバックにいてくれてれば心強いよね。近所とか親しい人たちがどんな考えなのか聞いてみたいし。」

 

それまで黙っていたおかあさんたちも声をだし始めた。


「店ひまなときに、Tストアの前に立ってみようかなあかんぼ抱いて。近所だし」中華料理屋屋の小沢さんがそう言った頃にはみんなの心がちょっとなごんできていた。


「こどもたちのためにできるだけのことしなきゃ。議員さんたちのとこにお願いにいくのも平行してやりたい。どうしてここがつぶされるのかはっきりしたことがわかるかもしれない。」と高田さんがいうと


「そうですね、そっちもがんばってみましょう。とりあえず署名を集めてみるというのは進めていいですかね。ご意見ないですか。それでは署名はGO!ということで。署名活動とはどのようなものなのか、どういう手続きを踏めばいいのか調べてご連絡します。それで問題なかったらすぐに活動を始めましょう!」と木田会長は持っていた書類をぽん!とたたいた。


 私は最初から気になっていたことを白石園長に尋ねた。


 「先生方は運動には加われないんでしょうか?」

いままでひとことも発言しなかった園長は話し始めた。

 

 「今日はみなさま、お忙しいところありがとうございます。 突然こういうことが降ってわいてきて、わたしたちは非常にとまどっています。このひなぎくだけではなく、全村の保母たちが衝撃をうけています。 子ども達の保育環境が今より悪くなるということは目に見えてますので、もちろん統廃合は反対です。それに私たち保母の立場からも、ひとつ保育所がなくなるということは、わたしたちの働く現場が一つ減ってしまうということですので、それはもうどうにか存続できないかというのが本心でございます。  ですが、ご承知のようにわたしたちも村の職員ですので、表立って反対の運動は難しいところなのです。」


「福祉課から、もうお話は聞いているんですよねえ?」と高田さん。


「前回の園長会議の時に課長から伺っています。主にその後の移動のことの話になりました。」


 「もうそこまで話しがいってたんですか?」思わず私が口をはさむと、

 「そういうわけではなくて、やはり現場で働いていたいと皆思ってるものですから、つい椅子がひとつなくなればどうなるのかという不安がそんな方向の話になった訳で、もちろん、福祉課のほうでもそこまでの具体案はまだのようでした。」

 

 高田さんはまだ不服そうだ。「なぜ、統廃合の話しの時にもっと強く反対の意志表示をなさらなかったのですか?」

 「もちろん、したんですよ。先ほど申しましたとおり、この保育園がなくなることはこどもたちにとってものすごくもったいないことだって、どうして統廃合なのか? と。」


みんながくいいるように所長の顔をみていた。

 

「予算の関係です。というお返事しかいただけませんでした。」

 財政が苦しいわけではないだろうに、どうしてだろ。


園長の顔からふっと目をそらすと、まっくらな園庭に桜がほの白く浮かんでいた。



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