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魔法の木エニシダの香り  作者: 文乃木 れい
慧の目にうつる世界
20/50

さっちゃんがひなぎくに入る

 翌日、土曜日に、綾さんの家に寄ってから、一緒にお隣の美和さんのお宅に伺った。月曜日から、さっちゃんのひなぎくの送迎を、やってあげようと思ったのだ。


「いや、うちのことですので、なんとかします。」ご主人がかたくなに言い張るので、そばで美和さんのおかあさんが困惑気味だ。

「でも おかあさまも明日お帰りになるのですよねえ」山形で学校の先生をしているということだ。

  

「私は母がこどもたちの面倒をみてくれましたけどねえ、でもご近所にもずいぶんお世話になりましたよ。健三さん、お願いしたらどうですか? あなたも忙しいでしょうに、出張の時はどうするの?」

ご主人は

「月曜から家政婦協会に頼みます。役場で連絡先を聞いてきました。」

「でも、保育園の送迎は朝早いし なかなか難しいのでは。うちは慧を連れていくついでですし、さっちゃん、わたしたちだと安心だと思うんですよ。」


「いえ、みなさんもそれぞれ都合があるでしょう。それにすぐに元気になると思います。みなさんだって、お子さん育てて忙しいでしょうけど、普通に生活できるじゃないですか、どうして美和だけが、と思います。」

美和さんのおかあさんは何か言いかけたけど、やめて、ため息をついた。


「今 すべてをお考えになることは大変でしょうが、お困りになった時は、どうぞ、お隣の綾さんとふたりでなんとかお手伝いしますので、おっしゃってください。ふたりなら融通ききますから、本当に遠慮なさらないで さっちゃんたちのこと中心に、考えてあげてください。」


他人としゃべりたくないという迷惑そうなご主人に、伝えるだけ伝えて出てきた。

美和さんのおかあさんが、急いで履物をつっかけて追いかけてきた。

 隣の綾さんの庭に一緒に入ると、

「せっかく、ご親切におっしゃってくださったのに、申し訳ありません。健三さんも固い人で。さっき新田さんも、できるだけこどもたちの面倒をみてくださると言いにきてくださったんですよ。その時に健三さんが、基本的には家政婦さんをお願いするということを言って、私もそれがいいとは思っていました。

でもきっといろいろなことが起きてくると思います。 お宅たちのようなご近所で本当に心強いです。わたしも仕事があって助けにならないですが、もうすぐ夏休みですので、なんとか休暇をまとめて取れるようにします。それまでどうかよろしくお願いいたします。」と深々と頭を下げられた。


月曜日は晴天だった。梅雨の晴れ間、雨で洗われた木々が、ビーズを散らしたようにきらきらと輝く。

 家中にぶらさがっていた洗濯物も一掃できる。

 署名用紙を取りに散歩を兼ねて、ひなぎくまでバギーを押しながら歩く。朝子はみずたまりがあるとどんどん入っていく。途中にコンビニが新しく開店した。物珍しくて入ってみる。 スーパーに比べるとなんでも高い。こんなの誰が買うのかなと思う。


 ひなぎくには、ひよこ組みしか残っていなかった。みんな散歩にでかけたらしい。

「たっくんのおばあちゃんの家でね じゃがいもほりさせてもらってね、帰ってきたらじゃがいもふかして食べるんですよ。」

それでか、園庭には七輪が三つおこしてある。

「おかあさんもどうですか?池田さんのさっちゃんが登園してきました。いまのところ泣きはしないけど、心細そうだし、おかあさんがいたら安心するでしょうから」

 園庭の砂場にいるさっちゃんを見つけて 朝子が走っていった。


 こどもたちとの夜は忙しい。6時に夕食。その後、テレビをひとつ見せて、それからお風呂。慧が体を洗い終わったころにあさこたちと一緒に入っていく。ぎゅうぎゅうづめだ。 慧の頭を抱えて洗ってあげてから先に慧を出す。ひとりでパジャマを着て寝る準備ができるようになって、だいぶ楽になった。

 そのあと、朝子と涼子を洗って、自分はそこそこにあがる。

 それから、三人順番に頭をひざに乗せて歯磨きタイム。

このときが唯一、一人ひとりの子とのスキンシップ。ゆっくりと文字通り向き合うことのできる貴重なひとときだ。もっとも、こどもは、歯ブラシが口に入ってるから私の言いたい放題の一方通行かな? 良子は最初は嫌がっていたこともあったが、このごろでは、自分の番が終わっても、私のひざにいるおにいちゃんやおねちゃんのことをぐいぐい押して、自分がひざに乗ろうとする。

みんなで大笑いしてしまうそんな時、私はすべてのものに感謝したくなる。

  

 こどもたちは 私に読んでもらう絵本を選んで、布団に入ってくる。

 良子もいっぱしに選んでもってくるのだ。それから 三冊読んであげるのが一仕事。最後のけいの本に行くまでにこっちが寝てしまいそうになる。

 「ひゃー。慧ちゃん、この本好きだねえ!」長い絵本を最後まで読む間、意識が飛んでいってしまうことは、なんどもある。それでも なんとか最後まで読んであげなければ、とばしたりすると、「かあさん、違うよ。」ちゃんとチェックが入る。

 今日も一日無事に終わり、こどもたちは、私のところに帰ってきた。

 これから帰宅する夫のために さて、もう一仕事、と 

私はおふとんから起き上がる。



「このお味噌汁のじゃがいも、慧の掘ったのだって。」洋に言うと

「じゃがいもって今頃とれるのかあ?」という洋。

わたしたちも保育園で勉強させてもらってるよね。とわたしは苦笑い。

池田さんのさっちゃんの話を報告する。

研究所の住宅なので、夫たちも知り合いということが多い。


「池田さんの部屋も忙しいだろうなあ。

でもさっちゃんひとり増えて ひなぎくには追い風やな。池田さんには気の毒だけど。」とぼそっと言った洋の言葉。

確かに。ひなぎく園に入ってくる子が多くなれば 簡単にはつぶせなくなるかもしれない。





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