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魔法の木エニシダの香り  作者: 文乃木 れい
慧の目にうつる世界
17/50

働く母は困ってるよね

 杉の子保育園の【一日保育】の日だった。保育園を一般の親子にも開放してくれるという日が月に1回あった。

 あさたちを遊ばせるのが第一ではあるが、署名をしてもらいにいくという目的もあった。

 

 お天気いいし あやさんは自転車で行こうという。

 2、3日前 りょうはおんぶしてあさを前に乗せて自転車の三人乗りをしてたら 夫がちょうど車から見たらしく、「くまの親子みたいやった」と笑った。  私は内心ひどく傷ついた。

 少し前には 四人乗りをしていたこともあった。りょうはおんぶ、慧は後ろ、あさは前に乗せて。実際やっていたときは夢中だったけど、今想像するとなんとも滑稽だし、それよりもひどく危険なことだった。

 

「さ、朝のお仕事終わり!あさちゃん、杉の子保育園に遊びに行くよ。もうすぐ みほちゃんが来るからいっしょに行こうねえ」とスコップで庭を掘り返して遊んでいるあさに声をかけた。りょうを背中からおろす。あーすっとした。

「おべんとう持って?」とあさ。「あのね保育園で給食がでるのよ。今日はなんだろうねえ?あさの好きなものでたらいいね」

しゃべりながら あさたちの飲み物や着替えやらを用意する。なみのおむつも必携。

「あさちゃん、運動靴で行かないの?自転車乗ってて落とさないでよ」あさはいつも長靴をはいている。

すぽっと履けてすぽっと脱げる便利さがいいのだろうか。

「いいの、これで」お気に入りの黄色い長靴。 ま、いいか。

さ、準備完了。 

「りょうちゃん、またおんぶ。自転車乗ってお出かけするよ」


 あやさんとのサイクリングはなかなか気持ちのよいものだった。

このへんはしゃくなげの木がそこここにあって美しい。つつじも花盛りだ。

村の中心を抜けて海の方向に進む。20分以上かかってやっと到着。自転車を降りたらどっと汗が噴出す。

 杉の子保育園は、定員ぎりぎりの58人も入園児がいるにぎやかな保育園だ。

木造のひなぎくとちがって 白い鉄筋の建物がくの字に建っている。

 玄関わきの駐輪場にとめて 庭のほうにまわる。庭の入り口に受付があって、今春ひなぎくから転勤していった大塚先生がいた。

「遠くまでよく来てくれました。慧ちゃんは元気にやってますか?」と声をかけてくれた。

「悪くなりました。」と応えると

「それは喜ばしい」と大塚先生は笑った。そして

「自由にどこででも遊んでください。 お散歩に行かれるなら、今日は海岸まで行って砂浜で遊んで帰ってきます。給食のあと絵本の読み聞かせとお話会をして一日保育は解散になります。」と教えてくれた。

 

 庭には たくさんの親子が集っていた、 同じ社宅の人もいるようだが、みほちゃんとあさは大勢の見知らぬ人々の中で なかなか本領がはっきできずに まごまごうろうろしている。

 あやさんが 彼女たちに付いててくれるので、私は テラスにあがり、良子を背中からおろして 座らせた。私も座ってようやく一息ついた。ひなぎくとそう変わらない広さの庭だ。

 あやさんが「須藤さんのあっちゃんがいて、砂場で一緒に遊びだした」と上にあがってきた。

「ここはコンクリなんだね。テラス。」と言って すのこが敷きつめてある床をしげしげと眺めた。「あっちゃんて、あー、おかあさんが緑台小学校の先生の?!」

「そうそう、須藤さん。うちの近くの。」

「どうしてこんな遠いとこにいれてるの?」

「ご実家の近くなんだって。保育が五時まででしょ、そんなの時間内にお迎えにこれるわけないじゃない。おばあちゃんにお迎え頼んでるんだって」

「どこの保育園も五時までなの?」

「村立はね。でもすみれだけは延長保育が、六時まで可能なんだって。 あと私立のチューリップがやっぱり六時までなら延長できる。」あやさんのしょう君はチューリップ保育園にいってる。

「仕事ってふつう五時までだよね」「じゃあ、五時まで拘束される仕事の人は 保育園入れても意味ないじゃん。」私が言うと

「だから須藤さんも 二歳までは おかあさんに預けてたんですって。でも おかあさんだって畑に出たり 旅行にいったりで毎日面倒みるのは大変だったみたいよ。そのうちあっちゃん自身も年寄りといるのには元気がありあまって、これは保育所に入れなければと須藤さん思ったんですって。保育所でのびのびと体をつかって遊ばせてあげたいって」

「体も大きい元気なお子さんだもんね」私は 砂場のほうをそのあっちゃんをさがしながら眺めた。

「ご実家が近くの人はいいよねえ。そうじゃないひとはどうしてるんだろう」

「チューリップでも 六時までの延長保育でも間に合わなくて、お迎えだけに人を頼んでいる人もいるよ。あとは、ご主人が仕事抜けて迎えに来てまた仕事に戻るとかね。」

「じゃ、家にこどもだけ置いとくわけ?」驚いて聞き返すと、

「三才過ぎるとテレビみてひとりで待ってたりするらしいよ。長い時間ではないでしょうけどね」

せっかく保育園という場があるのに 充分に機能しきれていないことが残念な気がする。


 なにがなんでもひなぎくをつぶそうって考えてる人には、 こどもを持ちながら働くときのもろもろの足かせなど見えないのだろう。たとえ見えてても、じゃあ働くなよって思ってるのかも。

請願の内容を本気で議会でとりあげてほしいけど、 そうだそうだ署名を持ってきたんだっけと思い出した。

あやさんが、お昼御飯のときにでも持って回ろうかというので、とにかく今はこどもたちを遊ばせようか。

 

「お散歩に出かけますが 一日保育にいらした方もぜひ一緒に行きましょう 今日は三歳児でも楽しんでいけるコースです。必ずおかあさんも参加してください」放送も流れた。

「さ、りょうちゃん、海見に行こうね。またおんぶ」

あやさんがおんぶ紐をりょうの足に通して私の背中におんぶさせてくれた。

 

 みほちゃんとあさがうろうろとわたしたちを探しているのが見える。

「みほー。あさちゃーん、こっちだよー。おさんぽいこうねー」

あやさんが大声を出した。

          

「こんなに近かったんだね。海まで。」十分ほど歩いたら着いてしまった。

とは言っても松林が切れて海が見えてきたというだけで、砂漠のような広い砂浜が続くのだ。まずは休憩ということで、松の木の下や思い思いのところで座り、配られたゴマせんべいを食べ、水筒の水を飲んだ。


 そのうち杉の子保育園のこどもたちが、鬼ごっこを始めた。砂を蹴散らして走り回る。

 1日保育のこどもたちはほとんどが3歳までなので、一緒に遊ぶことはできないが、砂の上で走ったりころげまわったりしている。

あさもみほちゃんも、最初、みんなの勢いに押され気味だったが、今はもう砂だらけに。海までというので、波打ち際まで行くのかと思っていたら、いつもこの辺で遊んで帰るらしい。 このあたりの海は波が荒いし、もしもの危険をさけているのだろう。


「ねえ、ゆきさん、美穂ね、未熟児で生まれたじゃない?」

そうだった。早産で、1000グラムそこそこの赤ちゃんだった。

「成長が遅いこと、時々とっても心配になったりする。この先も 検査し続けなくちゃならないこともあってね。しょうを保育園に入れたのも、美穂のことがあったからなんだ。」

そっか、美穂ちゃんは小柄だけど利発だし、なんにも気が付かなかった。たしかに、綾さんは美穂ちゃんを、とてもとても大切に育ててる。女の子が可愛いのだろうなって、深刻なふうには感じなかった。

 余計なことはしゃべらず、じっくりと誠実な綾さんが、私に話す気になったのは、やはり、自分ひとりだけで抱えているには重すぎるのだろう。

「美穂ちゃんに、注意しなくちゃならないことない?」

「それは大丈夫。ありがと。普通にしてね」


「かあしゃーん!」 みほちゃんとあさが、走ってくる。

「まだ かえんない?」

だいじょうぶだよ。ゆっくり遊んどいで。

  小一時間 おすもうをとったり、つなひきをしたり 広い広い砂浜で遊んでから 保育園に帰ってきた。

  

 お昼ごはんの献立は ごはん、親子煮、キャベツの塩もみ、澄まし汁。普段少食のあさが驚くほどよく食べる。 潮風にふかれ あれだけ体を動かしたらなにも言わなくてもちゃんと食べるんだ。

 

 帰り際に 参加していたお母さん方に署名をお願いした。小学校の集まりに持っていって書名集めてくださるという方がいて、大収穫。

 帰りの自転車では 前のかごのあさこが 半分眠ってしまっていて気が気ではなかった。


        




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