なんでそんな恰好なんですか
小学生のとき、クラスで背が一番高かった。
小さいころなんてスポーツが出来れば少し頭が悪くても友達が出来た、クラスの中心人物にさえなれた。
背が高いという長所でそれを掴むのは楽だった。
きっといつかスポーツ選手になるのだと思っていた。
中学生のとき現実を知った。
自分の持っていたものなど天才や努力の前ではなんの役にも立たないと知った。
背が高いだけでなにも他に持っていなかった本物の才能や紳士に取り込む人間に勝てないと分かった。
自分はスポーツ選手になれないと気付かされた。
卒業のときには身長は平均より少し高い程度になっていた。
高校生のとき無駄に日々を消化した。
部活には入らなかった、負けるのが怖いから、勝てるわけがないから。
勉強はした、自分でも誇れるほどには成績もよかった、模試を受ければそれなりの結果が出た。
これならマシな大人になれると思った。
背は平均より二センチ高いらしい。
大学生にはなれなかった。
プレッシャーに負けた。
親や教師の期待が重く何も出来なかった。
いや、これも言い訳だ、負けるのが怖かった、勝てるかわからないから。逃げたのだ。
浪人なんて成功するのかわからないことをしていたくない。
逃げたい。
そういえば、自分の背は男性平均らしい。
最初は上手くいっていたのに気づけば底辺に落ちているみたいだ。
いや今ここから落ちることが出来たならどれだけ楽だろうか。
家の近くの県をまたぐ大きな橋の上で川と海の混ざるところを探して憂鬱になる。
この橋から落ちれば楽になれるだろうか、そんな考えがグルグルと立ち眩みのように瞼を重くする。
最近は肌寒くなってきた、時間は夜で今日は雨も降っている、きっとあの薄汚い水に落ちたら凍死もあり得るかもしれない。
そう思い確かめるように吐いた息はまだ白く色づかない。
さっき吐いた分大きく息を吸う。
それなら今自殺をしても死ぬ確率は低いだろうと言い訳を考えて来た方向へと体を戻す。
結局足を運んでも死ぬ覚悟は出来ない。
こうやって無駄な時間を過ごす。こんなことなら勉強をしとけばよかったと泣く自分を想像してまた嫌になりさっきとは違う息が出る。
雨のせいか、それとも川の上だからだろうか目に湿気が溜まっている。
雨だから今日は歩き辛い、橋を下る坂道がやけに滑るように感じる。
音だけ視聴する朝の天気予報で台風に近い天候と言っていたのを思い出す。
あぁ、だから傘をさしているのに雨水がこんなに靴にあたるのか。
橋を降りたすぐの交差点が赤になるのを確認して目線を足に下げる。今すぐにでもこの雨水を吸った靴下を脱ぎ捨てたい。
いいことは何もなかった、本当にいったい何のために橋に行ったのだろう。
ジッと地面が何かとこすれる音がした。
トラックのライトが自分にかかっている、タイヤの音だと理解するのに時間をかけることはなかった。
問題はそこじゃない、カーブしているトラックのライトがまっすぐ(・・・・)自分に向いているのはなぜだろう。
体は動かなかった。人生で初めての経験だったし最期の経験だろう、体が対処しないのはしょうがないことだ。心臓が大きく跳ね脂汗が全身に沸くのも当然。
あぁ。もう遅い、目の前にトラックがいる。
雨でタイヤがスリップして速度を落とさないままこちらに直進してきた。変な言い方だが違和感のないよくある事故だろう。
うん、だからそれも問題じゃないのだ。
タイヤがこすれる音でも、トラックのライトがこちらに向いていることでも、なんならトラックが自分にぶつかることでもない。
なぜハンドルを握っている女性はコスプレをしているのだろう。
そのコスプレは何だ、女神か、それとも天使か。
最期に目を覆ったのはライトの白い光だった。
違う、訂正しなければ。
最期、いや、今見ているのはさっきのコスプレのトラック運転手が自分の目のまえで土下座している姿だ。
書くぞぉ
やるぞぉ




