17‐ テレサの見解
必然性はないはずだから本人が余程気に入ったのだろう。テレサは今日も少女とも呼べない年ごろに見えるフィギュアロイドの姿でアイリーの前に現れた。
病室に入るなり案内も受けずに来客用の大きなソファに腰を下ろす。
「面会に応じてくれた事に感謝します、テレサ」
アイリーの挨拶に邪心のない笑顔を見せた後、思考通信でテレサの返答が届いた。
舌足らずで耳が甘みを感じると錯覚させる様な幼い声と違いドライな音質の低い声。
テレサ本来の声だ。
『レストランフロアの事件を記録映像で確認したわ。テロリストによる爆弾テロと報道されているけれどその直前にエレメンタリストが関与しているとしか思えない現象が起きていた。何があったの?』
『テロリストによる爆弾テロって報道されているんですか?』
リッカが情報を確認する。
アイリー個人への襲撃は伏せられ、事件は自爆による無差別テロと断定されて報道がなされていた。何らかの意図が働いた結果だろう。
誰による、誰のための意図か。アイリーの心に小さな疑念が湧いた。
『端的に言います。エレメンタリストに襲撃を受けました。俺に襲われる心当たりはない。そして俺は襲撃者にハリストスと呼ばれました。その意味が分からない』
テレサからの返答はなかった。フィギュアロイドは無邪気な笑顔を見せたままでいる。
『私への面会要請はその事を私に伝えるため? なぜ私に伝えようと思ったの?』
『映像には映っていないと思いますが爆発の直後に治安介入部のカイマナイナというエレメンタリストが俺を助けてくれました。彼女は稼働150年以上の上位AIに知り合いはいるかと俺に訊いてきた。俺は自分に何が起こっているのを知らされていません』
『リッカちゃん、アイリーが体験した記憶を私に見せて』
アイリーの許可を得た後でリッカがテレサに青い衣の男と遭遇した時の記憶と今日の事件の記憶を転送した。
長い沈黙の後、アイリーの頭の中にテレサの落ち着いた低い声が届く。
『貴方は現代のハリストスとなるのね…… アイリー』




