14- 致死的高熱と爆風の中で
※ 痛い表現が含まれます
アイリーが爆風の方向に沿う姿勢で体を床に投げ出す。
腹を床につけ、肩で頸動脈を、両腕で後頭部と耳を護るように塞ぐ。
致死的な高熱と爆風、破砕された瓦礫がアイリーの体を襲ってくるだろう。
両足の損傷は仕方がない。熱傷も避けられないだろう。裂傷も覚悟しよう。
脳を損傷から守る。大出血による脳死を避ける。
考えるより、思い出すより先に体がその為に必要な姿勢を取った。
最初にアイリーを直撃するはずだった衝撃波と高熱をクラリッサが身を挺して引き受けた。
クラリッサは声も上げずに吹き飛ばされ、首と四肢とは引き千切られて勝手な方向へと飛んでいく。アイリーはそれを自分の背中ごしに感じた。
固く目を閉じる。脳を守れ。それだけを自分に念じた。
最初に感じたのは背中にゆっくりと乗せられた重み。
柔らかな二つの塊が自分の腰骨、背骨の歪みを伸ばす様な心地よさでアイリーの腹部を圧迫する。今までに経験した事もない感触だった。その正体を想像する事も出来ない。
熱風は?…来ない。
鼓膜を破る爆発音は?…来ない。
風に煽られた炎が高速で吹き抜けてゆく音も破砕の反響音も聞こえる。
だが鼓膜を傷つける様な大きさではない。分厚い防御ガラスを通して伝わってくる様な距離感がある。
『リッカ、何が起きている?』
『防犯カメラは爆発で損失したから映像が取得できない。アイリーが視るものしか今のわたしには視えない。ごめん』
『謝る必要は全くない』
アイリーは背中を押さえつけられたままの姿勢で首をねじって自分の背中を見た。
緩いワンピースの部屋着姿の女性がアイリーの上に背を向けて座っている。
柔らかな感触は女性の尻の感触だったと気づいてアイリーの鼓動が早まった。
非常事態の中でも日常の思考が残っているための場違いな当惑だった。
「まだこっち見ちゃダメよ。顔つくってるところだから」
「カイマナイナ?」
アイリーの背に直接座りこんで、カイマナイナは部屋着のまま顔を作っている。
「香港は夜中の1時よ?あと30分早い呼び出しだったらバスタオル1枚で登場しなきゃいけないところだったわ、私のスイート・パイ」




