04‐ 痛み
アイリーは視界の隅に起動させた自分のメンタルパラメーターを確認した。
自分でも予想していた通り、大きなストレスを感じていると数値に出ている。
じっとしていると腹部、胃の下あたりに引き攣る様な痛みを覚えた。
傷口が回復に向かっているのだろう。
自分の体で大きな怪我をした事がないアイリーにとって、事件が終わっても消えずに続く痛みは未知のものだった。
持ち合わせた知識とは別次元で大きな不安がアイリーの心に湧いてくる。
『リッカさん? 傷口痛いんですけど俺、大丈夫ですか?』
『痛いうちに入らないでしょ? これ??』
『痛いよ。なんだかいつ収まるか分からない感じだし…… いっそ麻酔を打ってもらった方がいいんじゃないかな? せめて鎮痛剤は飲むべきだよね?』
アイリーが収まっている大きなデスクの向こう側にはエッグチェアが置かれている。
監視カメラには映る事がないアイリーの視覚の中だけで認識できるエッグチェア。
巨大な穴の中にすっぽりと収まる様に背中をまるめ、体育座りをしながら頬杖をついてアイリーを見つめていたリッカが呆れた様子を見せながら掌から顔を離した。
『傷口はふさがっているから、日常生活と歩き回る程度の運動をしないと内臓膜が癒着を起こして予後に悪いよ。痛くても普通に過ごさないとだめだよ?』
『ムリムリ。ムリです。痛いよリッカさん? お医者さまに言ったら治るかな?』
『アイリー…』
終末期再生調査中の痛みに対してならば体が千切れようが焼かれようが潰されようが理性を失わないアイリーが接着された傷口が姿勢の変化に応じてひっぱられる痛みにこんな大騒ぎをするとは予想していなかったのだろう。リッカが絶句している。
『仕事しよ?就業時間中なんだから?』
「あいたたた…… 痛いなあ…… 痛いなあ」
アイリーが首を垂れて弱音を吐く。
声に出して弱音を吐く。
リッカがアイリーのメンタルパラメーターを確認する。
退屈しきっていて、説明できない不安を持て余していて、現在の状況に強い不満を感じていて、要するに……
『ヒマなのね?仕事しなよアイリー』
リッカの言葉にアイリーが溜息をつく。




