02‐ 物質の置き換え・法則の置き換え
床に蹲った姿勢で造形された精巧な石像。
衣服の裾は木綿生地の薄さまで再現されている。
自らの体の異変に驚愕した瞬間の表情が精巧に再現されている。
その横に両膝をついたまま倒れる事も出来ずにいる石像がある。
「…こいつら、まだ自分に掛けられた石化も解除できないのか」
エイミーの呟きに二人を案内する男が頷いた。
「最初の方は石化してからもう7年になります。意識はありますので解除の法則をご自身で発見できればすぐに元に戻れるのですが」
男の説明に興味を示さずにエイミーとカイマナイナは石像の横を通り抜けた。
その全身に薄く細い雷光が煌めきを放っているのは石化に抵抗しているからだ。
二人は何の仕掛けもない部屋を横切る様に次の扉に辿りついた。
「この扉の向こうはサードステージ“法則の置き換え”が発動しております」
扉が開く。また先客がいた。
何の調度もない部屋の床に描かれた円陣の上で横倒しになり痙攣している。
後から入室してきたエイミーとカイマナイナへ助けを求める余力すらない様に見えた。
「先月頃から気になっていたが…一人減ったな。解除に成功したのか?」
エイミーの問いかけに男が首を横に振った。
「2ヶ月前となりますがこの部屋で天寿を全うされました」
「この部屋…本当に何か発動しているのか?」
男が笑顔になる。
「何もお感じにならないのはマクリミラーレ様の力が強大だからです。この部屋では全ての液体が27度で沸騰する様に法則が置き換えられております」
「体が熱傷を負う事はないが血液に酸素が溶け込む余地もなくなるな」
「その通りでございます」
「そして再生能力が仇となって完全脱水を迎える事も出来ない」
「その通りでございます」
「貴女、今日はよく喋るわねえ。私に言いたい事あるなら直接言っていいのよ?」
エイミーの背後からカイマナイナが声を掛けてきた。
「本当は興味もない話を並べていたら局長のところに着いてしまうわよ?」
エイミーが立ち止まった。
怒りの感情が声を掛けたカイマナイナにも伝わってくる。
「…カイマナイナ。なぜあの男を助けた?」
「…えええ?」
カイマナイナが困った表情に笑いを滲ませて首を傾げた。
「それ、怒るところ?」
エイミーが振り返りカイマナイナの顔を直視した。
「二人きりの時に愚か者を装うな。エレメンタリスト同士の情報は早い。今日の話が知れ渡ったら新しいアンチクライスト覚醒の引き金になりかねない。知っていてわざと助けたのか?」
カイマナイナは笑顔のままで首を傾げている。
表情に変化はなくても中身の人間が入れ替わるとその違いは明確に現れてくる。
叱られる事を警戒しながら話を核心から逸らせようとする笑顔。
それが肉食動物に生餌を与えて捕食の様子を楽しむ嗜虐者の笑顔へと変わった。




