14‐ 疑問
およそアイリー自身も見たことがないほど大量のアイコンがリッカの周囲に展開した。
殺到する大型獣に強襲ドローンの炸裂蜂が対抗する。
爆発の衝撃で虎の体は後方に弾き飛ばされるが既に痛みを感じない存在になっているために脅えも見せずにすぐに立ち上がってくる。
「戻れ」
青い衣の男が低く命じた。
虎に対する命令だったのだろう。虎達が数歩後ずさり男に近づいた。
虎の全身に微かな炎が立ち上り熔解した金属の様な、燃焼するコールタールの様な液化した何かが虎の傷口を修復する。
虎が再び咆哮を上げる。
夜の闇から狙撃班の銃弾が殺到するがいずれも男と虎の眼前で消失し反対側の何もない空間から現れて地面を空しく穿つ。
『状況が理解できない。簡潔な説明をしてもらえませんか?』
アイリーの問いにドロシアが答える。
『戦況分析担当のドロシアと言います。眼前のエレメンタリストは自分を中心として円柱形に前後左右の空間を置き換えています。中心にいる男に物理攻撃は届きません』
『対応策は? 』
『物理攻撃は無効です。現在は撤退のタイミングを計っているところです』
『この状況から撤退できる可能性はあるんですか? 』
アイリーの問いに答えたのはドロシアではなくエドワードだった。
『最善を尽くす、としか言えない。申し訳なく思っているミスター・スウィートオウス』
アイリーは大きく息を吸ってゆっくりと吐きだした。
リッカ、と心で唱える。
『ここにいるよ』
『青い服の男は自分の前面の空間と背後の空間を繋げているそうだ』
『うん』
『なぜ俺たちは男の姿を見て声を聞く事が出来るんだ? 光が物体に当たり反射する事で俺たちは視覚情報を得る事ができる。本当なら男の背後の風景しか見えないはずじゃないか? こちらから男が立つ空間に干渉できないのに会話は出来る、音の波動は行き来ができるというのも矛盾がある』
『光の反射や音の伝播のところはふわっと矛盾に目をつむらないと男も自分の周囲を見る事ができなくて不便だからじゃない? 』
リッカの返答はふざけたものに聞こえるが空間を置き換えるという能力自体が物理法則を束で無視している。
『都合のいい話だな』
リッカがアイリーの思考を読み取る。
リッカの表情に歓喜としか捕えようのないものが浮かぶ。
『なるほどね。アイリーが思いついたことをイメージしてみて。説明はいらないから』
アイリーは脈絡もないアイデアを脳裏に浮かべてみる。
アイリーの考えを読み取ったリッカが満面の笑顔になった。
『死ぬ気ゼロだよねえ』
『死ぬのはいつもの事だ。ちゃんと帰宅することを目的にしている』




