03‐ 真相
「お待ち合わせの皆さんの分でもあるでしょうし、他の皆さんもすぐに合流されるのではないですか?」
それはカイマナイナに山と積み上げられていたテイクアウトを勧められたアイリーが遠慮を見せて告げた言葉だった。
4枚のXLピザ、40本のフライドチキン、16本のブリトー、3人分のチャイニーズフードのテイクアウト、諸々諸々。
誤解の原因は判明した。
感想を言葉にしたくないアイリーが視線でリッカを探す。
リッカはアイリーの真横で大きく目を見開いていた。
『アイリー。あなたの不運に献杯するよ』
『殺すな』
事情を知らないエイミーが背後からアイリーの耳元で囁いた。
「正直に答えると言ったな。説明をしてもらおう。お前が失血死してしまう前に」
「端的な答えになるが気を悪くしないで欲しい。俺はアレを見て一人分の食事とは思わなかっただけだ」
アイリーが顎でカイマナイナの隣に積み上げられたカラ容器の山を指し示した。
このやり取りの間中、カイマナイナの口は休むことなく隣に積み上げられたテイクアウトを飲み込み続け、今ではその全てが空になっていた。
「…これ位、普通でしょう? あなたすごく失礼だわ」
「黙れブタ」
カイマナイナの抗議をエイミーが一言で封じた。
「非常に興味深い切り返しだよ。年齢に不釣り合いな度胸がある事にも興味を覚えた。だが私はこうも考える」
エイミーの声に抑揚はない。
「任務として私達を監視していたお前がカイマナイナに接触する良い口実を得たから無関係を装って接触してきたのではないか? 」
当然の疑問だった。エイミーの声には押し付ける様な殺意が溢れている。尋問の主導権を保つための威嚇だ。だがアイリーはエイミーの問いかけに安心を覚えた。
この少女は頭の回転が早い。話が通じる上に自分で状況を判断する権限も持っている様だ。つまり、この少女との会話を続ければそこに生還のチャンスは見出せる。
そしてアイリーは視線を動かしてリッカを見る。リッカの表情に焦りや不安はない。
リッカは要請した救援の到着を待っている。その実効性にも自信を持っている様だ。
ならばリッカを信じて時間を稼ぎ出す事にも注力しよう。交渉での解決と救援の待機。二段重ねの対策でこの窮地を切り抜ける。
「貴女の方でも確認して欲しい、ミス・エイミー・マクリミマーレ。俺はこの場で拘束されてすぐに市警に救難通報をした。これは俺が貴女達の事情とは無関係の立場にいる事の証明にならないか? 俺が何らかの任務を負っていたとしたら警察より先に報告する相手がいるはずだろう? 」
ふむ。とエイミーが声に出して答えた。そして沈黙。
沈黙する間にエイミーの苛立ちが急激な高まりを見せ始めた事にアイリーは気が付いた。呼吸音に乱れが出る。過呼吸ではない。息を詰めて思考しているのだ。
エイミーの舌打ちがアイリーの危険を察知する能力に警報を鳴らす。
「気の毒な男だ。私たちの作戦に巻き込まれるとは。作戦領域内で解放すれば邪魔になるし治療できる状況でもない。恨みに思うだろうが死んでくれ」
アイリーの体内で剣が強く持ち上げられた。




