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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第一章 終末期再生調査官
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05‐ 不毛な盗撮

 ビルの中に公共交通機関が走っている。ミニチュア山脈と評されるほど巨大な建物であるハッシュバベルならではの光景だ。もちろん世界で唯一の例となっている。

 


 オフィスエリアを中心に商業・観光エリアが広がり、その周辺に住宅街区が存在する。街そのものが一つのビルの中に存在している。



 アイリーはその住宅街区から勤務先へと徒歩で通勤している。所要時間は行きが20分、帰りが7分程度。往復で所要時間が異なるのは出勤時にラッシュが発生するためだ。



 今日のアイリーは色の濃いサングラスをかけている。不用意に自分宛ての映像を見て瞼を腫らせてしまったからだ。アイリーには自分の見た目を気にせざるを得ない事情があった。



 アイリーの視覚の中、彼の隣を歩くリッカが手のひらで空間を撫で上げると複数のアイコンが浮かんできた。



『よく毎朝おなじモノを見て飽きないな』

 アイリーの言葉の裏にはやめて欲しいなあという願望が込められている。



 リッカは横眼でアイリーを見た後に彼の希望を黙殺した。



 視界を遮らない範囲で左側に十六角形のレーダーチャートが現れ、右側に4つの画面が1本の帯になっているスクロールが現れた。



 画面に映るのは他人の視点からみた今現在のアイリーの姿だった。

 リッカが興奮した声を出す。



『今日も6件の新規投稿があったよ! テーマは今日のアイリー! うひひひひ』



 アイリーがため息をついた。朝、勤務先へと向かって歩くだけでその姿が何件も無断で撮影され、投稿される。

 


 “アイリー様、まさかのサングラス出勤! 危険な雰囲気に圧倒されました!!”



 “陰のある大人の雰囲気!! いったいどんな心境の変化が!?”



 “お忍び出勤!? まさかの自宅以外からのご出勤!?”



 リッカが一つ一つを読み上げてその度に笑い声をあげている。



 アイリーの耳にシャッター音が届くことはない。肉眼でみた映像をそのまま投稿できるテクノロジーは一般に普及して久しい。



『……? 優越欲求、顕示欲求、表現欲求、満足度に大きな変化なし。あんまりうれしくない?』



 リッカの問いにアイリーが小さくうなずく。



『学生の頃やハッシュバベルから離れた街で他人から注目された事はない。俺はそんなに魅力的な男じゃない自覚はあるよ』



 視界の隅に表示されているスクロールは今も更新されつづけている。



『この街で俺が注目されているのは勤め先が有名だとか所得が多い方だとか、そういう情報が流れているからだろ』



『つまり努力で獲得したものが評価されているってコトだよね? なに? 親からもらった顔だけでラクして生きたかった? わたしのアイリーはそういう願望持つ人に育った?』



 むう…と唸ってアイリーは黙った。そういう見方もあるか。



 リッカは投稿をピックアップし、その直前の投稿をチェックしはじめた。

 


 アイリーを無断で撮影している投稿者はその直前に身支度を整えた自分の姿、あるいは自宅でくつろぐ自分の姿を晒している。全員が若い女性だった。



 投稿の本当の目的はこれなのだ。



 自分の事が注目されていると気づいたアイリーがさかのぼって投稿を閲覧する事を期待してアイリーに向けた笑顔を投稿しておく。とても消極的なアプローチだ。



 残念ながら自分が映る投稿とその投稿者をみてアプローチに類する行動を起こす積極性をアイリーは持っていなかった。不毛な盗撮と無断投稿は3年以上続いている。



『海洋環境保護課のシャナンと食料農業課のジューリアは毎日投稿してくる人の中でもアイリーの好みの顔じゃない? 胸もおおきいよ? 声かけてみる?』



 リッカさん、なぜ最初の選択肢に胸を持ってくるのか。



 アイリーの溜息を聞いてリッカが満足そうに笑った。



『だって以下略』


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