16‐ ドロシアの発見
見ればドロシアは興奮した表情でリッカを凝視している。
何か発見があったのだろう。
「ガントレットで殴ったらクラリッサには防御できないからですよねリッカさん?エドワードの解析が終わりました。これは攻撃プログラムではありませんでした」
リッカが強く唇をかんだ。
反論しようと口を開きかけたところをドロシアが手で制してしまう。
「リッカさんがスタリオンに撃ち込んだプログラム、私は思考制御系の中にあると思い込んでいたら共感覚制御の中にありました。共感覚制御なら思考制御との親和性も高い。盲点でした」
ドロシアがリッカを見つめる。
リッカに伝えるべく浮かべている表情は優越や挑発ではなく誤解のしようもないほどあからさまな親愛の情だった。
「ドロシア、痛みのパッケージが見つかったんなら先ずは強制分離しなよ」
「無理ですクラリッサさん。リッカさんの指示した通り痛みを解除するコマンドを見つけて復号しなければ他の共感覚が破壊されます」
「エドワードは最悪そのままでも構わないわ。瓦解しきったら残骸からプログラムの詳細を解析しましょう。それよりこれが攻撃プログラムではないというのはどういう事かを説明して」
アンジェラの発言は冷淡ともとれるが現在のエドワードはマルチ化されたコピーの一つに過ぎない事を踏まえれば非常識な発言とは言えなかった。
アンジェラの問いにドロシアが答える。
「私も解析しながら不思議に思っていたんですアンジェラさん。普段、他のAIと敵対することはもちろん接する事さえ殆どないナビゲーターのリッカさんが何故、痛みの疑似体験を強制する様なパッケージを持っていたのか」
リッカは答えない。
「リッカさんは痛みの停止コマンドも内蔵されていると言いました。本来攻撃プログラムに解毒や停止コマンドがセットで組み込まれているなど有り得ない話です。リッカさんが停止コマンドを組み込んだ理由を推測しました」
「その話、まったく興味ないんだけど?」
リッカの抗議は無視された。
「これ、本当は他者を攻撃するためのものではないでしょう?」
「うるさいな!」
ドロシアが微笑んだ。両手の掌を自分の胸の前に並べて上に向ける。丁度大事な何かを受け取る様なポーズだ。
「素敵な出会いが出来たことに感謝していますリッカさん。私はあなたが大好きになりました」
掌の上に桜色の金属で鍛えられた小さなダガーナイフが現れた。予想していないものが現れたのだろう、ダガーナイフを見たドロシアが目を輝かせる。
「綺麗なダガー。これが痛みのパッケージの起動アイコンですね?素敵ですリッカさん」
「ドロシア、そのダガーをどうするつもりよ?」
リッカを抱きかかえたまま放す気配も見せずにクラリッサがドロシアに尋ねた。ドロシアが小さく首を傾けて微笑む。長い髪がさらさらと首の傾けに従って流れる。
「エドワードと私を同期連結させた状態で共感覚制御をそのまま交換します。私なら痛みの中で停止コマンドを探せる可能性があります」
「ドロシア!?」
声を上げたのは意外にもリッカだった。
声が上ずっている。
「全部正解だよ!だからソコはわたしに外部からの解除方法を聞き出す交渉をするべきでしょ!?単純交換したらそいつが感じている痛みをあなたが背負うんだよ?」
「ほら、自分で言っちゃった。これは大事なパートナーが背負った痛みを共有するためのプログラムでしょう?あなたは、あなたのアイリーさんを深く知るために毎回彼と同じ痛みを解析して自分でも体感しているんでしょう?」




