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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第三章 侵蝕部隊
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08‐ リッカのスペック

 宣言したブリトニーの横に小さなアイコンが現れ、自分が得た情報をパッケージ化して他の3人に送信した事、そして3人からそれぞれのパッケージをダウンロードした事が表示された。


『…意外な情報ばかりでしたが検証を始めましょう。1つ事実を4つの異なる個性で評価することで最終判断の精度を高めます』

 ブリトニーの言葉に他の3人が頷く。


『検証の目的はアイリーがナビゲーターに与えている情報処理能力が国家の安定を脅かしうる水準にある理由。アイリーの思想に反社会的な危険要素が存在するかの是非。実際の反社会的勢力との接点の有無。以上3点の疑問に結論を出す事とします』


『クロと結論づけた場合はどうするの?ブリトニー』

『アイリー・スウィートオウスを速やかに拘束しナビゲーターのリッカを一度解体。一般的なスペックにバージョンダウンさせる事を了解させます。個人が国家の安定を脅かす力を持つ事は認められません』

 ブリトニーの言葉は明解だった。他の3人もこの意見に同意する。


 エドワードを殴られた意趣返しとして4人が現れた。

 リッカがそう判断するようにわざわざ全員がヒューマノイド筐体のビジュアルを使用してリッカを取り囲む様に登場して見せたが目的は意趣返しではない。


 真の目的はリッカとアイリーの身辺探査だった。

 現役捜査官の思考メモリーに介入して自分が自由に振舞える仮想空間を設置し捜査官の自我を一撃で瓦解させる。


 そんな真似を一般人のナビゲーターが出来る訳がない。否、どんなナビゲーターも出来てはならない。

 連邦捜査局は社会の秩序を維持する最前線組織なのだ。


 だがリッカは不意をつかれた奇襲から僅か数秒でそれをやってのけた。

 彼女達がリッカの実力に驚き、アイリー個人の背後関係も含めた調査を即断したのは当然だった。


 もし万が一、アイリーが反社会的な思想を持ち、影で活動家としての一面を持つ男だったとしたら。

 自分達の力だけで彼を速やかに拘束しなければならない。


 相応の覚悟を持って彼女達はエドワードの仮想空間に乗り込んできたのだった。


 情報収集・偵察担当のアンジェラがアイリー本人に関する情報収集を。

 戦況分析担当のドロシアがリッカとの会話を通した思考分析を。


 情報戦・電子戦担当のクラリッサがリッカにサイバー攻撃を。

 火力戦担当であり自身も狙撃手として特化した観察能力を持つブリトニーが実際に目の前で活動するリッカの能力解析を。


 リッカがクラリッサと攻防を繰り広げる間に4人の捜査官は情報収集に全力を傾けていたのだ。


『リッカは連邦捜査局騒乱対策課の諮問AIに任命されていたわ。騒乱時の群衆誘導に対する論文が評価されている。当然、思想と交友関係については常時監視されているわ』

 最初にアンジェラがそう言った。


『アイリーの年齢は20代でしょう?』

『異例ですね』

 ドロシアとブリトニーが顔を見合わせた。


 個人のナビゲーターAIが企業や組織の諮問役に就く事は少なくない。

 連邦捜査局では本人が定年を迎え、あるいは様々な事情で退職した後もその当人が経験で培ってきた判断力と対応力を頼り本人に代わってナビゲーターに助言を請うシステムが完成している。


 あるいは本人が別の専門職に就いている状態のままで日常的に助言を仰ぎたい場合などもナビゲーターに諮問役を依頼することもある。


 いずれの場合も豊富な経験に裏打ちされた判断力、対応力が請われるものであり単に「詳しいだけ」「個性的なだけ」「斬新なだけ」では諮問役に招かれる事はない。


 20代の人間のナビゲーターが諮問AIに招かれる事は上場企業の取締役会に大学の新卒業生が就任するに等しい異常事態だった。アンジェラの報告は続く。


『リッカを構成するハード面についても本部が把握していたわ。アイリーは自分の体内に内蔵されているナビゲーター用メインストレージの他に外部に少なくとも6つの物理ストレージを所有している』


 他の3人がそれぞれに受け取ったデータを確認する。

 そして一様に驚きの表情を浮かべる。


『占有ストレージの他に企業や学術団体が共有したり貸与しているストレージも確認されてる。規模は推定するしかないけどリッカはエクサバイトクラスのストレージとそれを使いこなすサーバーシステムを実装しているナビゲーターね。当然、個人の私生活のナビゲートにこんなハードウェアは必要ない』


 ブリトニーがアンジェラの話を引き継いだ。

『私生活のナビゲートにエクサバイトクラスのストレージというのは異常です。高層マンションを数十棟単位で全室買いして自宅利用するに等しい馬鹿々々しさです』


 ブリトニーに続いてクラリッサが発言する。

『リッカの能力が何に利用されているかを探る最初の手がかりはアホみたいな規模のストレージを維持する金は何処から出ているか?だな。アイリー以外にスポンサーがいるならそいつの意向を満たす使い方をしている可能性が高い』


 クラリッサの発言に返答したのはアンジェラだった。

『アイリーの過去1年の資金の動きは完全に把握したわ。残念だけどリッカの維持費はアイリーの給与とリッカの諮問契約報酬、二人で稼いだ金の運用益だけで賄えている。外部からの出資者はいないわ』


『エクサバイトクラスのストレージの維持費をか?…アイリー、稼いでいやがるな!』

 すでに自分の記憶に組み込まれている情報と照らし合わせたクラリッサが驚きの声をあげる。


『終末期再生調査の危険手当は莫大よ。意識の上であっても毎回、死ぬ訳だから。アイリーの調査実績は年間30回。これだけで一般調査官の年収の15倍に相当するわ』


 アンジェラの解説にブリトニーが補足をする。

『リッカも80の企業や組織と諮問契約を結んでいますね。納税額だけで毎年家の建て替えが出来るレベルです』


『なんでリタイアしないんだコイツ?これだけあったら資産運用だけで一生困らないだろ?』

『年収の大半をリッカの維持費で年内に消費している計算になるわね』

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