03- ナビゲーターAI・リッカ
アイリーの意識に様々な“時間のあるうちにやっておいた方がいい雑事”が浮かび上がってくる。
仕事で取得したいろいろな資格の更新手続き、講習会のスケジュール管理、財産管理や人脈維持のためにはやっておいた方がよいという様々な雑事と連絡事項……。
技術が革新されていく中で繰り返される2つの問いがある。
「この技術がなかった時代、社会人はどう仕事をしていたのだろう?」 「これだけ便利になったのに、なんでこんなに忙しい思いを強いられるのだろう?」
2つの問いに対する答えは1つだ。
技術の進歩は人の判断材料を拡げる役割を果たしただけで思考の効率化には寄与していない。そして人は手に入る情報を活用しきれない事を惜しみ、恥じるという特性を持っている。
結果、どの時代でも人は得られる情報量の多さに対応しきれなくなって忙しさに飲み込まれている。どの時代でもその状況に変化はない。
自分一人の手には余る量の情報など、数百年前から氾濫していたのだ。技術革新は氾濫した情報をさらに大量に、雑多に、エンドレスに個人に注ぎ込んできたに過ぎない。
もっと多くの情報を得たい、だが頭の整理がおいつかない。何か良い手はないのか……?
ネットワークシステムに登場したAIががそのジレンマに応えた。
本人に代わり情報を搔き集めて管理し、最少・最適・最速の助言で本人が心地よく即断できる環境を整えて代行も果たす。
本人はさながら社長職の様に決済だけすればよく、経理部と財務部、総務部と業務部が行う仕事は実務を含めたすべてをAIが代行する。
このサービスの実用化が成立した時…… 人類はパラダイムシフトを経験することなく、自分の人生に寄り添いながら記憶と情報処理を請け負う自分専用の人工知能、汎用型ナビゲーターAIの誕生を受け入れた。
そのハードウエアを体内に埋設する事さえおよそ3世代で抵抗感を消滅させた。
アイリーを誰よりも熟知し、彼の記憶を把握・保存し、必要に応じて最適の助言を行う彼専用のナビゲーターAI。
それが今、もっしもっしとワッフルを食べて笑っている少女、リッカだった。