表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第二部: 第九章 ドロシアとラウラ
275/377

02- 弱点

 節もない金属製の触手がドロシアに襲い掛かる。成人女性の上腕程度の太さだが同じサイズの鉄骨が高速で振り下ろされたとなればドロシアのヒューマノイドボディを破壊するには充分な威力を持っているだろう。先端は鎌の様に鋭利な形状をとっている。



 襲い掛かる触手の速度はカイマナイナが反応すら出来ないものだった。それが4本。異なる方向から一斉に襲い掛かってくる。だがドロシアはその全てを寸前に躱してみせた。



「護りきる? 総力戦ではなくお前が単体で私に立ち向かうというのか?」



 ラウラが平坦な口調でそう問いかけてきた。ドロシアがわざと口に出した言葉はアイリーに向けたものではなくラウラに聞かせるためのものだった。



 ラウラはアイリーを殺害するためではなく、この場に足止めする為に現れたのだと言った。そして嬲り尽くして再起不能なまでにアイリーを傷つけるとも宣言した。



 アイリーに敵対するエレメンタリスト達は何故かアイリーの殺害を目的としていない。あくまでもハリストスとして活動する意志を挫く事を目的としている様に見受けられる。ならばラウラはアイリーを護ると宣言したドロシアを一方的に破壊する事を最初に優先してくるはずだ。



 自分の護衛が一体ずつ破壊され、無防備な状態で加虐に晒される。アイリーにとってこれほどの恐怖はないだろう。アイリーをここに足止めするという目的にも合致する。



『普段は全殺しの殲滅作戦しか指揮していないでしょうに、不慣れな作戦を押し付けられて気の毒な事ね』



 自分の予測が当たったと確信したドロシアがラウラに微笑を浮かべて見せた。人質にしろ、容疑者にしろ、作戦のたびに誰か生きている人間を連れて帰る事を絶対条件と課せられるドロシア達侵蝕部隊と大火力で戦場を制圧する事を専門とするラウラとでは根本的なスキルが違う。



『ここは私の庭よ、ラウラ』



 ドロシアを捉えきれなかった触手が虚しく大地を打ち据える。その衝突の振動がドロシアの足元に伝わる。アイリーの元にも伝わっただろう。それ程の威力を伴った打撃だった。



 触手が打ち据えた地面が銀色の金属に変質している。触手が砕け散った破片ではない。衝撃が伝わった範囲がラウラの身体と同質の金属に置き換えられたのだ。



『触れた物を金属化させるアクティビティ?』



 ならば防御は意味を為さない。攻撃しても半人半蟲の姿となったラウラの体を補強する結果となる。

ブリトニーが二度目に狙撃した箇所は修復された上に強化までされている。



『羨ましくなるほどの無敵素材です』



 誰に伝えるでもなくそう言ってドロシアは横殴りに襲い掛かってきた触手の1本を蹴り返す形で避けた。小さく体を丸めて空中で一回転して横に逃げて着地する。編み上げブーツの靴底がラウラの体と同質の金属に置き換わってしまう。



 リッカから高速通信が入った。



『アイリーもラウラの弱点を見つけたよ、ドロシア!! 答え合わせしない?』



『アイリーさんが!? この数十秒で弱点を見出したのですか?』



 ドロシアの分析能力は破格の動作周波数を実装することで実現している。アンジェラとクラリッサに護られているとは言え生身の体のままで半人半蟲姿の殺戮兵器と対峙し恐怖しているはずのアイリーが未知の敵に対して弱点を探り出したという事が信じられなかった。



『今のラウラが元々の姿よりも高い攻撃力を持っているとしたら最初にヒューマノイド姿で現れたのは不自然。神の杖の爆撃を受けた後に体が巨大化するっていうのも不自然。アイリーは不自然に気付くのが早いんだよ。 ……ラウラは自分の体に触れた物質やエネルギーを金属に変換するアクティビティを備えている』



 爆撃を受けた時の破壊エネルギーを金属に変換させて自分の体を再構築させた。それが半人半蟲の姿の正体。アイリーはそう仮説を立てたのだという。ドロシアの仮説も同じだった。リッカの言葉は続く。



『エネルギーを物質に変換できる能力があるのにラウラの体は最初の爆撃で半壊した。ドロシアを狙った触手が地面を撃った時に衝撃がアイリーの足元にまで伝わった。これって不自然じゃない?』



『……不自然だ、というだけでそこまで見抜いたアイリーさんを尊敬します、リッカさん。私はブリトニーさんの二度目の狙撃をアンジェラさんの高速度カメラで解析して初めて気づいたんですよ!? ……ラウラが衝突エネルギーを物質に変換するには600分の1秒というタイムラグを必要としています』



『ミサキは全身を金属に変換された。でもラウラに同化していない。地面に現れた金属も同じ。ラウラ本体から離れて生成された金属はそのままではラウラと同化しない』



 ドロシアもその事に気づいていた。だが続けてリッカが伝えてきた情報はドロシアもまだ予想していない事だった。



『半人半蟲っていう姿をアイリーはアホだと感じているよ。10本足を採用するメリットがない。モデルは多分、タランチュラ。なら前脚4本は立ち上がって打撃に使うはず。ぶん殴り合いをわざわざ戦車の戦闘スタイルに選択する理由はない。たぶん、タランチュラの姿はラウラのイメージが偶発的に作ったもの。でもラウラは蜘蛛っぽい動きをしないで触手攻撃にこだわっている』



『全身の動きをまだ制御しきれていない、という事ですか?』



『タランチュラの体は精密に設計された機械で構成されているわけじゃないと思う。たぶん、自在に変形する金属にラウラが電気信号を与えて動かしている。マリオネットと同じ。最先端技術を持たない後発の一般企業ジェネリックらしいドン臭さだよねえ』



 触れるもの全てを金属に変え自分の身にかかるエネルギー負荷も金属へと変えてしまう半人半蟲の戦闘兵器。現代科学では実現の可能性さえ探った事もない異質の存在に対してアイリーが見て取ったのは物質変換へのタイムラグと運動能力の限界だった。



『毎秒600発を越える速度でラウラのCPUに集弾させる事ができれば制動機能を破壊する事ができるんじゃない?』



 リッカの提案はまさしくラウラの弱点を突いたものだった。ドロシアが笑う。



『さすがに今の手持ちの装備の中にそんな攻撃ができるものはありません。でもリッカさん、任せて下さい。そこまで欠点が明らかになっているのなら私ひとりで対処できます』



更新頻度ガタ落ちですが実生活に忙殺されております。休日が欲しい。続き書きたい。世帯主のジレンマです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ