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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第二部: 第七章 首都侵攻
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03‐ 掃討アンドロイド

 アイリーの護衛を侵蝕部隊の面々に委ねたミサキは先陣を切る形で市内の大通りへと歩み出していた。



 青色の全身鎧を着こんでいるがもちろん金属製の多数のパーツを重ねて着るタイプのものではない。彼の能力で具現化させたものでミサキ本人は真冬期の防寒着ほどの重さも感じていない。全身鎧の形をとったのは第一に身元を隠す為だった。世界に彼の素顔を晒す必要はない。



 大通りの中央部まで進んで歩みを止めた。周囲を見渡す。



 乗用車ならば片側に5台ずつ、両車線で10台分もあろうかという大きな通り。自動車専用高速道ではない。歩行者も出歩く市街地の中央通りだ。道の両端にはそれぞれ巨大SCの進出跡地かと思えるほどの駐車場が並んでいる。道路から駐車場を突き切って初めて2階建ての建物が点在しはじめる。



 交通量に応じて設計された道幅ではない。有り余る土地を少なすぎる人口で頭割りした結果、道以外に作るものがなかったのだ。アフリカ大陸の貧困国では珍しくない風景だとも言えた。



 道筋に沿う形で立ち止まったミサキの前方と背後に掃討アンドロイドが配置されている。乗合の大型バスを3台横に連結させた様な巨大さだ。上部に主砲一門。左右にガトリング銃とグレネード銃が一門づつ、それぞれ180度近い旋回角をもって装備されている。ミサイルも2機が腹部に装備されている。



 市街地の物理的機能停止に特化した破壊の権化だ。立ち尽くす姿勢をとる甲冑の内側でミサキが含んだ笑い声をもらした。笑い声を聞き取った者はいない。寂しげな笑い声だった。



 仮に。とミサキは考える。



 仮にハッシュバベル中央区で。あるいは東京で。インドのムンバイで。新香港で。都市侵攻作戦が行われたとしてもこの掃討アンドロイドに出番はない。ビルが林立する密集型都市内では図体が大きすぎて進行できる場所が限定されすぎるのだ。



 個人主義の発展とともに進んだ主要都市の混血化は民族浄化の聖戦を自然消滅させてしまっている。先進国間での争い事は主力を人命の争奪戦から経済戦争やサイバー戦争へと移行している。



 今時…… とミサキは実感する。



 今時、武力衝突が生じる余地が残るのは戦後の市場規模という金のなる木も持たず、政府の根幹を揺るがすほどの機密情報も持たない貧困国だけだ。



「いつの間にか戦争屋は貧乏人相手の商売になっちまってたんだなあ。アンファンテリブル」



 ミサキがもう一度含み笑いを漏らした。掃討アンドロイドを一目見れば分かる。特許の切れた技術を組み合わせて、先進国が同盟国以外には売らない最新機種に対抗できる性能を苦心して苦心して作り出した時代遅れの兵器。それがアンファンテリブルが、そして東フィリピン海洋自治国が主力と位置付けている兵器群だった。



 アイリーはそれを「ベンチャー企業のアイデア商品」「ジェネリック・アーミー」と嘲笑った。ネイルソンを挑発するためだとは承知している。アイリーは合衆国の最新鋭を実装した侵蝕部隊しか知らないという事も分かっている。



 それでも本国で戦闘準備を進めながら会談を聞いていたミサキはアイリーの言葉に胸を押さえてしまう程の痛みを覚えた。アイリーの言葉は痛烈な侮辱としてミサキの心にも深い傷を与えていたのだ。



「……うちの大将は合衆国生まれのボンボンなんだ。大目に見てくれ、大統領閣下」



 通信網にも乗せないミサキのつぶやきに呼応したものではないが、掃討アンドロイドの掃射が始まった。ミサキ一人に対して数千発の弾雨が前後から襲い掛かる。もちろん、掃討アンドロイドは流れ弾を被弾しても損傷する様な装甲ではない。



 だが人体ならばどうか。仮に金属の鎧を纏っていたとしても30mmの高速弾を数先発も受けたなら鎧ごと破裂した水風船の様に千切れた破片を血だまりの中に残すだけとなる。



 直立するミサキの身体に触れる寸前で全ての弾丸は一瞬強く発光し、僅かに白い煙をあげて消滅した。エレメント・アクティビティの初歩、空間転移を利用した防御壁ではない。物質の固体化から液化・気化・プラズマ化までを強制できる水界のエレメンタリストの能力だ。ミサキの身体には微風ほどの感触も与える事なく砲弾は無為に消滅してゆく。



 グレネード銃から発射された弾がミサキの身体に届く直前で地面に落ち、そこで爆発した。高温燃焼に特化した油脂がアルミニウム塩の爆発炎上で発火し爆炎となってミサキに襲い掛かる。高熱と爆風、急激な酸素の欠乏と大量の一酸化炭素の生成。



 ミサキの身体が致死的な爆炎の中で消失した。



 次の瞬間に現れたのは目の前にいた掃討アンドロイドの最上部。目視したその場所へと転移したのだ。タワーシールドを高く掲げ、足元へと打ち下ろす。ミサキの体から雷撃が迸り破壊の権化であったはずの掃討アンドロイドは一瞬の光を放った後に掻き消えてしまった。



 ミサキが自分の後方にいた掃討アンドロイドへ手をかざす。その掌から一条の雷撃が放たれる。



「……ああ! 3機目からは破壊せずに捕獲転送するか。燃料切れまで放置してから教育しなおせばうちの戦力になるわな」



 左掌を右の拳でぽんと打ちながらミサキがそう呟いた。その身体の周辺に幾つもの光が浮かび上がる。機関銃による攻撃に気付いたミサキが頭を左右に振る。



 コンバットスーツを着こんだ子供兵達が自分の周囲に展開している。本来ならば掃討アンドロイドを護衛するために展開していた歩兵部隊だ。



「よく出来たヒューマノイド達だ。よい服を着て身体はウェットスキンで覆われている。繊細な可動を実現するために人間と同等数以上の関節も実装している」



 それぞれに展開する歩兵達の頭上、何もない空間に稲光を称えた小さな孔が開いた。続いて起こったのは数十の落雷音。街全体に振動がいきわたる程の大音響が炸裂する。



「ただの雷撃が致命傷になる。脆弱なもんだ」

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