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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第二部: 第五章 最貧国のエレメンタリスト
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07 ハリストスの条件

 屋外に留まるアイリーにエドワードからオリビアが目覚めたと連絡が入った。彼女の心を落ち着かせながら現在の状況を正確に説明する役はドロシアがあたるという。



『私はテロ事件のサバイバーを安全圏に誘導する事に多くの経験を積んでいます。アイリーさんはオリビアさんの方から訪ねて来るのを待っていて下さい』



 通信画面の中でドロシアがそう言って微笑んだ。筋合い論やアイリーの自責よりもオリビアの心を優先させなければいけない。アイリーはドロシアにオリビアのケアを頼んだ。



『……ここまでの推理で大きなハズレはないと思うよ、アイリー』



 改めてリッカがアイリーの横に座り直す形で現れ、そう告げた。



『この村の襲撃がカイマナイナへのメッセージだとしたら、あの女がこの村にトドメを刺した事はネイルソンの要請に応じた事を意味するよ。アイリーがこの村に来ても来なくても、この村の運命は最初から決まっていた』



『その運命を覆すのが俺の仕事じゃないのか?』



『必要な情報を与えられずに準備万端の罠に嵌められたんだから、この結末にアイリーの落ち度はないよ』



 アイリーは激しく首を振った。落ち度の話ではない。結果としてどれだけの人が犠牲になったかだ。



『アイリー。悔しがるのは後だよ。前・ハリストスの二人が手を組んで虐殺側にまわった。そして計画は相手が主導する形のまま進行している。次の動きを読んでこちらから仕掛けなければ次の虐殺はすぐに開始される』



 リッカの言葉は端的なものだった。自分の落ち度を探している場合ではないのだ。



『……カイマナイナの裏切りを第三資源管理局は把握していないのか?』



『カイマナイナは汚れ役を背負っているだけで裏切っている訳ではない。第三資源管理局は全部を承知しながらアイリーの動きを見ているんだと思うよ』



 アイリーの思考が怒りと混乱で空転しかける。リッカの強い眼差しがアイリーの理性を強制的に引き留めている。



『アンチクライストと呼ばれるエレメンタリストは実在する。その戦闘力を知っている第三資源管理局は今のアイリーでは対抗できないと判断している。だから経験を積ませるために局地での虐殺でアイリーの経験値を積み上げる策をとっている』



『ふざけるな……。 人の命を……』



『アイリーが今、優先して考えなければいけないのは!! 第三資源管理局から見て今のアイリーに不足しているものは何か? っていうことだよ!?』



『なぜ、それを俺に伝えてこない!? 自分で気付けというのか!? 何の関係もない人の命を引き換えにしながら!?』



 アイリーの怒声にリッカの眉がピクリと動いた。新しい発想を得た、という顔だ。アイリーの怒りをぶつけられて動揺するような事はない。



『自分で気付け? ……そんな悠長なことする訳ないよね。 言葉で伝えて解決する話ならとっくに伝えてきているはず…… 』



 アイリーはレストランコート襲撃事件の際にカイマナイナが言った言葉を思い出した。



“知っただけでは何の役にも立たない。あなたが自分の経験を重ねて見つめなければ聞いただけでは何も理解できない”



 リッカはイノリが推理したハリストスの条件を思い出した。アイリーがハリストス候補と目されたと初めて病室で告げられた時の言葉だ。



“権威という主張する力、人知を超えた神性、人間の可能性の具現。この3つの特性を福音として受け取った者がハリストスとなる”



 リッカは推測の回転をあげる。アイリーと共有していないリッカひとりの思考だ。



“アンチクライストが力が強いだけのエレメンタリストなら他のエレメンタリストが複数で封じ込めにかかれば対応はできるはず。人間に成否の鍵を委ねる必要はない……。 でもアイリーはハリストスとして選ばれた……。 エレメンタリストでは対抗できず…… アイリーならば獲得できるもの”



 リッカの瞳が光を失い虹彩は黒い穴が開いた様になった。



“わかんねえわ。想像もつかない”



 結論が出ないまま時間だけが経過したあと、ドロシアがオリビアを連れてアイリーの元へと戻ってきた。

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