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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第二部: 第二章 重なる襲撃
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09-  拘束

 装甲輸送車両の上部に腰掛ける姿勢のアレハンドロに対してアンジェラとクラリッサは車体に体を這わせる様な形で接近していた。戦闘状態に入ったエレメンタリストは空間の置き換え能力を使い自分の周囲に絶対の安全圏を設ける事が多い。



 人間の仲間に囲まれた状態でいる彼の場合、空間の置き換えをどの様に展開しているのか。視認する事ができなかった為の行動だった。実際のアレハンドロは空間の置き換え能力を発動していなかった。光も音も素通しさせて物理攻撃だけを遮断するには空間の置き換え能力の他に法則の置き換え能力を併用する必要がある。彼は戦闘に能力を割くエレメンタリストとしてはまだ未熟過ぎたのだ。



 アンジェラがアレハンドロの真後ろに移動し鋼鉄ワイヤーを使って背後から首を締め上げた。そのまま彼を仰向けに引き倒す。装甲車の車体に彼の背が打ち付けられる。その隙間にアンジェラが操る超小型クレイモア地雷“火蜘蛛”が入り込んでいる。



「初めまして、アレックス。体に密着した状態での攻撃に空間の置き換え能力は発動できない、だったわよね?」



 青い衣のエレメンタリスト、カーリム・アジャーニは自分の前後の空間を置き換えた防御圏内で火蜘蛛の爆発を受けて重傷を負った。ニナも耳につけた通信機器を爆破され頭部を吹き飛ばされた事がある。エレメンタリスト達との戦闘経験はアンジェラ達侵蝕部隊の戦術に確実な成果をもたらしていた。



 驚きの為に思わず口を開いたアレハンドロの口内にクラリッサの銃口が突き入れられた。



「再生後にまた会おうぜ、不死のエレメンタリスト」



 アレハンドロの背中で火蜘蛛が爆発し、クラリッサの銃口から大口径の銃弾が脳天へと撃ち込まれた。彼の腹部が二つに千切れて血肉が噴き上がり顔の上半分は地に落とされた西瓜の様に破砕した。



「2… 3… 」



 クラリッサが口頭でカウントを始める。爆発の瞬間からアレハンドロの肉体は修復が始まっている。強力な磁石めがけて砂鉄が集まる様に血肉が再構成されて原型を取り戻し始める。6秒少しでアレハンドロが激痛の叫びをあげた。



「今の爆発で千切れたあんたの体の中に10匹のクレイモア地雷が潜り込んだ。あたしらからの信号が途絶えた時点で爆発する仕組みになっている。空間転移で遠くへ逃げたら体の中から吹き飛ぶからな。じゃあ、また6秒後」



 クラリッサが一方的にそう告げて修復されたアレハンドロの頭部に再び発砲した。



『アイリー。エレメンタリストは拘束した。尋問に移りたい。こっちへ来て』



 夜闇の中からスタリオンに乗ったアイリーがゆっくりと姿を現した。体の自由を奪われながらも意識は失わずにいるカルテルのメンバーが恐怖の表情を隠せないまま、その姿を目で追う。



 ニナに麻酔ではなく麻痺のアクティビティを発動させたのは目撃者を残す為のアイリーの指示だった。カルテルのメンバーは当然に迷彩を発動させているクラリッサとアンジェラを視認する事が出来ない。装甲輸送車両の上でアレハンドロが突然仰向けに倒れ、腹部と頭部が爆発によって吹き飛ばされた。その原因がわからない。原因はわからないがアイリーの登場によりアレハンドロの身に何が起きているのかは理解できた。メンバーがアイリーの姿を目で追う。



 アレハンドロを一方的に制圧し得る圧倒的攻撃力。この男もエレメンタリストだ。



 捕食された後の鼠の死骸を見る様な嫌悪感をむき出した表情。武装した者と対峙するはずだった場だというのにチノパンとジャケットという無防備な服装、深夜の森林地帯の移動に鏡面に仕上げられたオールドルックスタイルの電動二輪車を選択した判断。自分の身の安全を考える人間ならばあり得ないその姿はアイリーがエレメンタリストであるという誤解を与えるのに充分だった。



 実際のアイリーはこの時、何を考えていたか。



『……合衆国陸軍基地の平和祭で見た装甲車は機能美の集大成の様な魅力に溢れていた。ほとんど同じ型なのに俺の目の前にある装甲輸送車には嫌悪感しか抱かない。まるで見知らぬ者から大声で恫喝を受けている様な気持ちになる。俺と、この鉄の塊との間には何の関係もないというだけの当たり前が…… まるで俺自身を否定され存在を拒否されている様な気分にさせられる。この差はなんだ?』



 いつもの様にアイリーの背後から首にまきつく様に腕を絡めるポーズをとったリッカがアイリーの視界に現れる。



『祖国にあれば正義の鉄槌に見えるけれど異国に在れば地獄の門の番犬に見える。アイリーの主観が判断に大きく影響を与えているだけだよ。スペックに差はあるけれどどの国の装甲輸送車両も装甲されている輸送用の車両っていうのに違いはない』



 リッカがアイリーから離れて目の前へと移動した。細身の体をアイリーの目の前に晒し、なぜか挑む様にも慈しむ様にも見える上目遣いでアイリーを見つめる。



『……事実を超えて印象に主観が影響を受ける。これは誰にでも起こることだよ?』



 リッカは何かを言い淀んでいる。そう感じたアイリーだが搭乗する二輪車、スタリオンは装甲輸送車両の真横に到着してしまった。車両の上部では今もアレハンドロが6秒ごとに殺され続けている。最大車高3メートルを超える巨大車両の脇でアイリーは途方にくれた。



 車両上部への上り方がわからない。

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