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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第二部: 第二章 重なる襲撃
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08‐ 魔焔のエレメンタリスト

 メキシコ軍に配備されている装甲輸送車両は首をすくめた亀の甲羅の様な外観をしていた。自律走行能力を持っているため運転席というものは存在しない。四本の脚部に独立したキャタピラを装備しており脚部を動物の足の様に稼働させる事で倒木など悪路の無効化を実現している。



 その車両の前方上部に無防備に腰を下ろす少年がいた。黒のレザーパンツにショートブーツ。同じ黒革のレザージャケットは襟の部分に赤とオレンジ色のフェイクファーが大量に縫い付けられている。



 短くアップされた前髪と晒された額が太く濃い眉を強調している整った顔立ちのメキシコ人だ。耳に小さな通信機器をつけている。通信機器をタップして声を出すと装甲輸送車両のスピーカーから少年の声が流された。



「不運な人質諸君。運よく今夜を生き延びる事が出来たならば俺の名を語り継げ。俺の名は焦熱劫火魔焔のエレメンタリスト、アレハンドロ・ボルゲッティ。人類を憎み、人類を支配する宿命を背負うエレメンタリスト」



 そう名乗る少年、アレハンドロの目の前に集められた村人は成人以上の男女ばかりだ。年若い少年少女、そして子供は既に隔離され輸送車両の中に“商品”として収納されてしまっている。アレハンドロの宣言を聞かされた村民の間に恐怖とは別に嫌悪の表情が浮かんだ。



 まるで子供の戯言だ。厳しい環境の中でそれぞれの感情や利害を乗り越えながら肩を寄せ合い生活を守る大人なら容易く理解できる。この少年はまだ呪いに等しいほどの憎悪を浴びた事もなければ慈悲を請う事すら諦めてしまうほどの辛い宿命を背負わされたこともない。



 他人から浴びせられる憎悪、逃げ場もなく押し付けられる宿命を知らず自分の抱えるストレスに憎悪や宿命などと名前を付けるのは人生経験の浅い子供の証だ。



 アレハンドロが腰かけた姿勢のままで右手を高く挙げた。包帯の様に細い幅の黒い布がその手を覆っている。要所を革のバンドで留めているのは何かを封印していると主張しているかのようだ。



「俺の力を見せてやろう。悪魔に愛され魔界の力を託された呪われた存在である俺の力…… 人体発火」



 一つところに集められた村人のうち10人が同時に前触れもなく炎に包まれた。包まれた、というのは現象の順序が違うかも知れない。傷ひとつなかった皮膚に突然熱による収縮が生まれ、皮膚が裂け、体内から強い炎が噴き出したのだ。



 周囲にいた者が悲鳴を上げて犠牲者から遠ざかろうとする。成人の体一つ分の火柱というのは相当の熱量となる。最も近くにいた者が放熱による火傷を負い苦痛の悲鳴をあげた。



「……見るがいい。そして語り継げ。俺は魔力の及ぶ範囲内にいる人間すべてを内から燃やし尽くす事ができる。お前たちに逃げ場はなく体の内からの発火を防ぐ手立てもない。絶望せよ。手を祈りの形に組み俺にひれ伏せ」



 全ての村人がアレハンドロの命令に従った。



『……たしかにエレメンタリストだけどさ…… 馬鹿だよな? こいつ?』



『焦熱劫火魔焔のエレメンタリストって…… ねえ? 頭痛の痛みが痛いですって人みたいね』



 会話を交わしているのはクラリッサとアンジェラだった。光学迷彩を発動させた二人は今、アレハンドロの真後ろに立っている。アイリーは既に広場から800メートルほど離れた集落の外れに転移していた。背後からの強襲作戦は既に始まっていたのだ。



『襲撃者の概要は把握できました。カルテルの名はテパズドーリ・カルテル。合衆国との国境エリアを拠点とした重武装を持つカルテルです。5年前にエレメンタリストが幹部として参加。急激に勢力を伸ばしています』



 ドロシアから通信が入る。アレハンドロに関する情報も容易く入手できた様だ。



『彼は第三資源管理局が出生を把握しているエレメンタリストでした。名前はアレハンドロ・ボルゲッティ。炎界のエレメンタリスト。年齢は18歳です』



 アンジェラとクラリッサが同時に嘆息する。



『18歳…… 一番話が通じない年齢だわ。頭が悪いのも当然ね』



『第三資源管理局が出生を把握しているんなら金には困ってないはずだろ? なんだってカルテルなんかに入ってんだ?』



『暴力嗜好と征服妄想が強いのだと思います。アイリーさんに対する要求も“自分達カルテルの傘下に入れ”です』



 ドロシアの返答に苦笑が混じる。アンジェラも含み笑いを漏らした。



『貧しい海域の小さな漁業組合が太平洋連合艦隊に手下になれと要求をつきつけてきた様なものね。彼らはハリストスについて何を知っているのかしら?』



 アンジェラとドロシアの会話にクラリッサが割り込んだ。



『現場に展開している武装アンドロイドは全てハッキングが完了した。判断能力が消失している無用の置物状態だ。旧式とはいえメキシコ軍の通信管制はザルだぜ? 貧乏国家ってのはこんなもんかね? 』



 クラリッサ達の視界の中にリッカの通信窓が開いた。リッカはこれ以上ないという笑顔を見せている。



『ニナが麻痺のアクティビティを発動したよ。半径15キロ以内の人間は自分で動く事が出来なくなっている。カルテル側の人間も無力化されたと判断していいよ』



 ドロシアが大きく頷いた。



『状況を展開します。アンジェラ、クラリッサ。アレハンドロを拘束して下さい』




日々に忙殺され更新頻度が落ちてきていますが書きたいエピソードは溜まりまくっています。

飽きずにお待ち頂けます様お願いいたします。

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