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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第二部: 第一章 ダークウェブからの宣戦布告
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10‐ アイリーの困惑

 ドロシアが通信を続ける画面の中で二人の子供たちは笑顔を浮かべたままだった。彼らがいる村にアイリーは現れていない。この村での村民虐殺は止める者もいないまま進行している。



「撤退命令が出たよ。他の村ではアイリーが反撃に出たんだね? ボクたちの村にも来ればよかったのに」



「アンファンテリブル。俺達と交戦した全ての村でお前たちの部隊は全滅した。二度と俺達に関わるな」



 子供たちと交渉を続けていたアイリーが強い口調でそう言った。アイリー本人ではない。ドロシアが仮想現実映像として合成しているアイリーだ。話す内容はリッカが担当している。



「負けたヤツの言うセリフじゃないよ、アイリー」



「犯罪者の言うセリフじゃないよ、アイリー」



 子供たちが笑いながら交互にそう言った。アイリーの表情は変わらない。子供たちがカメラに手を振りながら言った。



「ボク達は依頼を受けて麻薬カルテルが隠していた原料栽培地を攻撃しただけだよ。麻薬カルテルの味方になってボク達を迎撃したのはハリストスの方だ。メキシコ政府はきっと、カンカンだよ」



「依頼があればボク達はどこにでも現れるよ。報復戦でまた会おうね、ハリストス! 人間同士の紛争に、合法対非合法の紛争に、エレメンタリストの力を持ち込んだハリストス」



 朗らかな笑い声が室内に響く中、こどもの一人が銃をカメラに向けて発砲し、そこで通信は途絶えた。



 戦闘が終わった密林の中でドロシアとアンファンテリブルとの交信を視聴していたアイリーが愕然と立ちすくむ。遠くの上空からヘリの音が聞こえてきた。視界の中にドロシアからの通信窓が開く。



「すぐに撤退して下さい、アイリーさん!! メキシコ警察が出動してきています!!」




   ・ 

   ・ 

   ・ 



 空間転移能力を持つエレメンタリストにとって撤退は何の束縛もない場所で体の向きを変える程度の行動でしかない。アイリーとエドワード達はニナの能力で速やかに東フィリピン海洋自治国の王邸へと帰還した。


 

 室内ではなく王邸敷地内の庭園へと転移したのは行動を共にしていたクラリッサとブリトニー、そしてエドワードの3人がそれぞれ二輪車に乗車していた為だった。転移後もアイリーの護衛のために光学迷彩の発動を解除しないクラリッサとブリトニーの姿を見つける事は出来ない。



「……メキシコ政府の依頼による麻薬栽培エリアの掃討作戦だった?」



 アイリーが呆然と呟く。無抵抗の村民を虐殺から護ろうと思った。標的となったのは紛争地に暮らす少数民族だと聞いていた。他国の国家権力を妨害するつもりなどもちろんなかった。



 他国の警察の急襲を妨害した。指名手配を受けるのだろうか。逮捕拘束され他国の法律で裁かれるのだろうか。合衆国の弁護士に他国の法廷に立つ資格はあるのだろうか。メキシコで弁護士を探すのだろうか。



『落ち着きなよアイリー? 誰もそんなコト言ってないでしょう!?』



 アイリーの真横にリッカが現れた。細身の全身をアイリーの視線に晒しながら細い両腕を組んで首を傾げてアイリーを見つめている。リッカは苦笑している。



『ガキどもが本当の事を言っているのかの確認が先!! それからその言葉もきちんと思い出しなよアイリー!! 依頼を受けて麻薬原料の栽培地を襲撃した。カルテルはガキどもと敵対関係にある。政府はカンカン。報復戦がある。いい? ガキどもは政府の依頼で動いたなんて一言も言ってないよ?』



 リッカの言葉がアイリーの思考を正常に整えてゆく。仮にアンファンテリブルの子供たちが言っている事が真実だとしたら、そこにアイリーを巻き込む理由がない。そして子供たちも明言していたがアンファンテリブルという組織自体はアイリーを狙う理由を持っていない。依頼に応じているだけだ。



『ドロシア。俺は刑法に疎い。刑事事件が絡む国際問題の取り扱いについても経験がない。俺の状況について意見が欲しい』



 アイリーの視界の中にドロシアからの通信窓が開いた。



『端的に言えば何の問題も発生しません。アイリーさんは行動を起こす前にメキシコ政府に警告と救助活動の事前通告を発しています。メキシコ政府が実際に掃討作戦を展開していたのならばアイリーさんにその旨の返答があったはずですが作戦に関する情報提供はありませんでした。そして3つの村で発動したのは全てエレメント・アクティビティです。エレメンタリストの行動結果に対する免責が優先されます』



『えっと…… 逮捕されない?』



 問い返しがあまりにも気弱に聞こえたのだろう。通信窓の中でドロシアが噴き出した。



『大丈夫ですよ、アイリーさん。今、イノリさんがそちらに向かっています』



 大きなため息を漏らしてアイリーは芝生の上にうずくまってしまった。リッカが腕組みしたままでアイリーを見下ろしている。



『アイリー? なんか…… いうことない?』



『ありがとうリッカ。すごくほっとしました』



 リッカが両目を楕円のラインに閉じて大きな笑顔を作った。目尻に長い睫毛が束となって強い印象をつくる。得意げに反り返ってアイリーに宣言した。



『もっと感謝しても構わないよ?』



本日、もう1話更新します。休日嬉しい。

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