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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第二部: 第一章 ダークウェブからの宣戦布告
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04‐ 虐殺の予告

「私が連絡を入れましょう。事故原因調査室長からのコンタクトという方が先方にも緊急性が伝わるでしょう?」



 イノリがそう提案してきたがアイリーはこれを却下した。虐殺のアンチクライスト・ニナとの激戦経験はアイリーに最悪の事態を予測する力を与えていた。



 合衆国の東海岸は現在深夜を迎えている。明日を待って関係各所と連携を取り、通常の移動手段でメキシコの少数民族保護地区まで出向き、相手に警告を与える。その様子を既に潜伏・監視態勢を整えた相手側実力部隊が確認して、そこで初めてアイリーと直接のコンタクトをとる。



 そんなのんびりした話が通る訳がない。恐らくは……



 ペク族の指導者と連絡が取れた。アイリーは今、王邸内にある通信室にいる。白一色の背景の中でアイリーは椅子に座る。無影灯がアイリーを照らしているのをアイリーの正面に座るドロシアが見つめている。



 ドロシアの視覚をそのまま映像として通信に充てるのだ。映像から余計な情報を流出させない為の白一色の背景であり無影灯照明だった。



 ペク族の指導者は老齢の男性だった。やや肥満気味の体を半そでのシャツに収めている。深夜であるにも関わらずアイリーからの連絡に映像を伴った回線ですぐに応じた事、そして指導者の表情が静謐であった事がアイリーの心を痛ませた。自分の想定が当たった事をアイリーは確信した。



「……あんたがアイリー・ザ・ハリストスか。俺のナビゲーターにあんたの顔を見せる事ができてよかった」



「? なに関係ない事を言ってるのさ? ばあか。ハリストスなんて言ったらダメだろ?」



 ペク族の指導者の背後から子供の声が聞こえた。指導者の首から上が特撮映像の様に消失する。両肩が大きく震え、太い首の断面から弱い力でケチャップのチューブを握り続けた様に粘度の高い赤い液体が盛り上がり彼の上半身を濡らしていく。



 前後に大きく体を揺るがせた後、頭部を失った指導者の体は前のめりに倒れ込んで画面から消えた。アンファンテリブルの実力部隊は既に攻略を済ませていたのだ。画面に二人の子供の笑顔が大きく映し出される。メキシコ人の特徴を色濃く残す、純朴で屈託のない愛らしい笑顔を浮かべている10歳前後の子供だった。



 自分からの連絡が相手の死の瞬間を決定づける。この状況をイノリに体験させたくなかった。だからアイリーは自分で連絡を入れたのだ。



「早かったね?」



「遅かったよ!」



「動画を公開してから2時間48分でペク族に連絡を入れて来たよ? 早いよ!」



「指導者は殺されてしまったよ? この地区にある6つの村はアイリーがコンタクトを取ってきたせいで今から5分後に襲撃を受けるんだよ? 1800戸、8000人が死亡する事件だよ? アイリーは間に合わない。遅いよ!!」



 子供たちの声質は高く朗らかで口調は楽し気だった。だがその目は冷たくアイリーの様子を注視し続けている。成熟した知性が子供を演じているだけだと分かる。子供たちの目はアイリーの顔に絶望の色が浮かぶのを確認した。



 だが子供たちは知らない。絶望を感じたアイリーの体には感覚向上という劇的な変化が起こる事を。常人の域を超えた観察力と判断力というアイリー最大の武器が今、発動した事を。



『アイリー。ペク族指導者のナビゲーターAIがリビングセメタリーズに帰還した。コンタクトも取れている。聴取はわたしの方でやっておく。カメラの前のクソガキロボに集中して』



 リッカの声がアイリーの意識の中に届いた。ペク族の指導者が死の直前に見聞きした事はナビゲーターAIを通じて全てアイリーが共有する事となる。アイリーは映像に映る子供たちに問いかけた。



「アンファンテリブル…… 俺に何を求めている?」



 自分達の組織名を言い当てられても子供たちの顔に驚きはなかった。二人で顔を見合わせて嬉しそうに、幸せそうに、声を立てて笑いあう。



「キミの死だよ。アイリー・ザ・ハリストス」



「なら俺を殺しにくればいい。無関係の者を巻き込むな」



「社会的な死だよ。世界中の人から憎まれ、恨まれながらキミはハリストスとして不適格の烙印を押されてこの世界で生きる場所を失くす」



「近隣の村を攻撃するつもりか? 中止して欲しい。取引には応じよう」



 子供たちが顔を見合わせて笑いあった。



「保護区のみすぼらしい村で時代遅れな幸せにしがみついて生きる村人が理由も聞かされないまま恐怖と絶望の中で殺されていく。ギャラリーはそのシーンに期待しているんだよ。中止を取引できる条件なんてないない!!」



「ハリストスとり合えたら!! ギャラリーの皆が楽しめる動画になると思うんだけどなあ? エレメンタリストの力も使えるハリストスは世界中どこにでも一瞬で移動できるんでしょ? 来ないの? 助ける人と見捨てる人の区別があるんだ?」



 見えない手が自分の背骨を握り、へし折ろうとしているかの様な恐怖と不快感がアイリーを襲った。眩暈さえ伴う程の焦りで思考が停止しかける。虐殺の開始予告まで残り時間は3分40秒。



お読みいただきありがとうございます。明日もお昼頃に1話を更新予定です。

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