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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第十章 最終決戦
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18‐ カイマナイナの決断

「治安介入部の私を仲間外れにしていつまで盛り上がるつもり?」



 冷淡を極めた様な声音を出して尋ねたものの、カイマナイナにこの流れを阻害する心算はなかった。ただ苦笑するしかない。



 現時点で知られても構わないと思っていた事のほとんどをアイリーはカイマナイナに訊ねる事なく推理し、行動を起こし、勝手に正解に辿りついてしまっている。



 アンチクライストとは人類に対して無尽無差別の虐殺に出たエレメンタリスト個人の事を指す隠語であり、対抗する作戦名もまたアンチクライスト作戦と命名されている。



 その実力行使部隊をハリストスと呼び、その中心人物個人も同様にハリストスと呼ぶ。ハリストスに求められる資質は人類の無力さに絶望しない者。高次AI群と自分達エレメンタリストとの協調と連携を取れる者。



 アイリー達の推理は的を外すことなく事実に辿りつき、さらにアイリーはカイマナイナ達の説得を受けるまでもなくハリストスを自認までしてしまった。



 言い換えが許されるのならば、過去にこんなにも浮かれたハリストスは一人もいなかった。カイマナイナは回想し、苦笑する。



 第一資源管理局の中枢にいる高次AI、テレサが“ハリストス候補となり得る男がいる”と第三資源管理局に伝えてきたのが約1週間前。



 興味を持ったカイマナイナが“接触することなく監視体制を取れれば上出来”という程度の心づもりを別件の依頼と抱き合わせて、ハッシュバベルの裏手にある公園を訪れたのが同じ日。



 アイリー本人がノコノコと近づいてきた事だけは本当の偶然だった。



 それから僅かに1週間でアイリーはハッシュバベル全局の追認を得たチームを作り、連邦捜査局でも最強に名を連ねる侵蝕部隊と連携を取り、純粋な軍事国家である東フィリピン海洋自治国の支援を取り付け、虐殺役を買って出たニナさえ味方につけかけている。



 カイマナイナが挫折を抱えていたニナを見いだし、秘匿されていたアンチクライストの存在を明かし、ハリストスを見いだす為の避けられぬ手段として無辜の民の虐殺を説得するまでに10年に近い歳月を要したのに比べてこの話の早さはなんだ。苦笑するしかない。



「仲間外れではない。貴女が危惧する本当のアンチクライストについて俺が対等に話を聞くための準備だ。貴女もこの場に至るまでに相当の準備を重ねたはずだ」



 カイマナイナの思考を遮る様にアイリーが声を掛けてきた。アイリーとの過去の会話がカイマナイナの記憶に蘇る。



 絶体絶命の危機に陥りながらも死を恐れずに生還を果たす為には何が必要か? カイマナイナの問いにアイリーは「思いつく限り、持てる限りの全てだ」と答えた。アイリーもまた最初から自分の本質を語っていたのだ、とカイマナイナは気づく。



 カイマナイナはアイリーの顔を正視する。理不尽な悲劇を断固として拒否し、他人の生命と尊厳を護るために敢えて自分から死地へと赴く事にも躊躇わない。ただの英雄願望ではない、生還を果たす実力が自分には備わっている事を確信している表情。



 ふ。とカイマナイナが笑い声を漏らした。初めてアイリーに対して“味方についてみたい”と思えた事に気づいたのだ。



「素手の格闘戦ならドロシアにも勝てない人間の身で、地のエレメンタリストと樹のエレメンタリストの能力を体に宿し、ハッシュバベルの情報力と軍事国家の軍事力を自由にする力も掌握しようというのね? 欲張りなハリストス」



 アイリーが困惑した表情を浮かべる。



「列挙はしないで欲しい…… 自分でもその…… マジすか?って言いたくなる」



 ホログラフにその姿を投影させながら会話に参加しているテレサがフィギュアロイドの姿のまま腕を組んで含み笑いを漏らした。



「良いニュースがあるわよ、アイリー。 アンチクライスト作戦が再始動した事を各国政府が認め、こぞって義援金を申し出ているわ。ヨソの国より多く出すから、自分の国を優先して守って欲しいという願いを込めた投資よ。一元的な受け入れはハッシュバベルで行うから金額を確認してみなさい」



『世界1位、2位の国家予算の合計額くらいになってる。純金1000億キロ分位の値段』



 リッカの報告を聞き、一瞬で顔が土気色になったアイリーを見て、カイマナイナは不思議にも決心がついた様だった。自己防衛の心理がそうさせていた腕組みを解いて両手を柔らかく自分の腰にあててアイリーに伝える。



「手間のかからないハリストスね、アイリー・スウィートオウス。良いわ、本当のアンチクライストについて、今伝えられるところまで伝えましょう」

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