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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第十章 最終決戦
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17- ミサキの提案

 アイリーはニナの背後でミサキが身体を起こした事に気づいた。気を失っていたと見えたのはほんの数十秒の話だった様だ。ミサキの顔には混乱の色もない。状況の把握は済んでいる様に見えた。



「俺も話に混ぜてくれ、アイリーさん。被害者の数は俺の国の方が多い。襲撃者を罰する権利は俺にもある」



 ニナがミサキを振り返り見た。その顔には同意と憐憫の両方が浮かんでいる。ミサキの言い分も分かる。だが力のない者の訴えを聞くつもりはない。そんなところだろう。



「襲撃者。俺は話を断片的にしか知らない。あんたは60年を片田舎で土をいじって過ごして来たんだろう? 今、資産はどれ位ある? エレメンタリストが国から受け取る資産は莫大だ。 使い切ってなければかなりの金額になるだろう?」



 ニナの顔から興味の色が失せた。



「財産の管理人と契約をしているからすぐには分からないわ。莫大という返答でいいのなら、莫大でしょうね」



 ミサキが頷く。大雑把な性格をエドワードチームに軽んじられる事も多かったが彼は軍事国家で方面軍規模の兵力を預かる総司令の顔も持っている。彼の要望はニナとアイリーを同時に驚倒させた。



「アイリーさん、あんたが襲撃者を自分の体に封じるという話、実現可能ならば俺も賛成する。だが襲撃者。あんた、その前に自分の財産の全てを公的にアイリーさんに譲渡しろ。その上で東フィリピン海洋自治国の新しい統治者としてアイリーさんを指名するんだ」



 間の抜けた話だが交戦中の敵同士であるにも関わらず、アイリーとニナは顔を見合わせてしまった。



「アイリーさん。ハッシュバベルとは別組織にいる俺はよく知っている。ハッシュバベルはモノの考え方が大局的すぎる。ハリストスを実行力として使う時もあんたの意志なんて考えないだろう」



 ミサキが続けた話はアイリーとニナの興味を強く引いた。



「あんたは最小でも一国と対等に渡り合える力を持っておくべきだ。東フィリピン海洋自治国は特殊な国だ。軍事を天職にしたヤツが集まって作り上げた、歴史も伝統文化もまだ持っていない国だ。俺たちが民族的な恨みを無関係のエレメンタリストに持つ事はない。だが怒りは残る。傷も大きい」



 アイリーの心に痛みが走る。市庁舎前で呆然と座り込んで見た風景が蘇る。



「俺たちの思想は独特だと思う。今回の虐殺がアンチクライストという存在との戦争の一端ならば、俺たちの力を使ってくれと願う。それで俺たちは怒りを生きる力に変える事が出来る」



「話は理解できる…… だが俺は政治家じゃない。力が必要な時は遠慮なく借りたいと思う。俺が統治者になる必要はない」



「力を貸してくれなんて他人行儀な事じゃダメなんだよ、アイリーさん。俺たちの国を傷つけたエレメンタリストを封じた人間が新しい王になった。王が直接、俺たちに命を捧げろと命じた。それで初めて俺たちは納得して家族を置いて銃を取る選択ができる」



『ニナは自分の財産を自分が壊した街の復興に使う事ができる』



『リッカ……』



『国王のナビゲーター…… うおおお…… なってみてぇ』



「傾聴に値する提案だわ。総司令。実務は貴方が補佐をするのでしょう?」



 ニナの言葉にアイリーはさらに困惑を深める。ほんの一瞬だが、この場にいるこいつら、揃って俺の敵か?とさえ思えてしまう。



 ニナがアイリーに向き直った。笑顔こそないものの敵意も攻撃欲求もない表情だ。



「私に向かってハリストスの責を俺が負う、と言ったわよね? アイリー? 人類を守護する中心に立つと決めた貴方が小国の王の座に怖気を振るうのは滑稽よ?」



「滑稽かどうかは関係ない…… 俺に理解できる話をしてくれ」



「理解しているでしょう?」



『人命救助を最優先させる部隊、ないとアイリー苦しくなると思うよ? エドワード達は協調路線だけど主従関係じゃないし? ハッシュバベルは虐殺そのものを計画に組み込むヤツがいるみたいだし?』



『リッカさん……』



 考えがまとまらないアイリーに冷え切った声が掛けられた。背後にいるカイマナイナの声だった。



「ねえ? 治安介入部の私を仲間外れにしていつまで盛り上がるつもり?」

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