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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第十章 最終決戦
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11‐ 変身

 一方的な暴力に晒されながらニナの心に湧き上がってきたのは興奮と喜び、愉快という感情だった。自分でも不思議に思う。



 激痛は意識を苛み続けている。全身が凍結しながら沸騰するという感覚は最悪の体験だった。全身を分厚いタオルで巻かれて身動きが取れなくなったところに熱湯を注がれる様な逃れられない痛み、増殖し続ける終わりのない痛みだ。



 だが痛みが恐怖を伴う事はない。自分が死なない体である事をニナは深く理解している。このままでは死んでしまうかもしれない、という恐怖が湧いてこない痛み。



“堪えるだけで耐えきれてしまうものなのか”



 つくづく、自分の身体と心は化物なのだと思い知りながら、その不死身性に興奮を覚えている。もしかしたら今、この時こそが自分が望む能力の最終段階に到達できる時なのかも知れない。その期待に興奮を覚えている。



 ミサキやクラリッサに対する怒りもない。ニナは虐殺の際に人間の弱さに対して喝采を叫び優越を感じた事は一度もない。二人の怒りは正当なものだと感じている。本来の目的ではなかったが自分の為した悪に対して正義が怒りをぶつけてくる事に喜びも覚えている。



“それにしても……”



 ニナはミサキとクラリッサを観察する。二人に対して愉快を感じている。



“挫折を知らずにきた者は窮地を過大評価するものなのね。愚かで愛らしい二人。貴方達は私に反撃の術がない事を絶対の優位と捉えるのね?”



 ニナは遠くから自分を見つめ続けているアイリーの姿に気づいている。自分の命の危険を感じながら、しかも人質を目の前に取られながら、アイリーはニナをプロファイリングし続け、ニナの正体へと辿り着いて見せた。



 アイリーの冷静さにニナは強い共感を覚えている。



“もし、アイリーなら今の私を見て優越ではなく焦りを覚えるでしょうね。アイリーはきっと気が付く。反撃の手段がない状況というのは…… 余計な事を考えずに状況を分析できる貴重な時間を確保できたという事”



“相手が気のすむまで攻撃を続けてくれる事さえ願いながら自分自身に時間を割ける自分のターンだという事。窮地にこそ活路があるという言葉の真実の意味を、アイリーはきっと理解しているわ”



“相手の能力を波長で捉える。同調し、浸食し、変化させる。水界のエレメンタリストと相性の良い力の発動方法……。 これは発想の発見だったわ。そして私ならこう考える。 ……能力を構成で捉えてこれを分解し、合成し、相手への寄生を定着させる事を樹界のエレメンタリストは容易く成し得るのではないか?”



 ニナは自分の体内で暴発を続けているミサキのアクティビティに抵抗する事を止める。ミサキの力を受け止めずに流しながら解く様にその力の成り立ちを見極めようと感覚を集中させる。



 ニナの感覚が理解する。ミサキの力には自分の力を鏡に映した様な相似性がある。これが“波長を合わせている”という事なのだろう。ニナの心に強い好奇心が湧いた。これ程に似通う力ならば……。 ニナは自分の力をミサキの力に沿わせてみた。初めての試みだ。向かい風に頭を下げながら立ち向かっていた歩みを翻して背を押してもらう形で歩みだしてみた感覚。



 ミサキには自分の顔に驚愕を浮かべる暇もなかった。ニナに突き込んでいた腕が緑色の発光を始め、忽ちのうちに全身へと発光が伝播する。



 次の瞬間、ミサキが立っていた場所に顔さえも覆い隠した深碧色の巨大な全身鎧を纏った異形の存在が現れた。水晶柱の様な鋭い先端を持つ装甲は全て深いエメラルド色に発色している。右腕だけが色調を変えてコバルトに近い青。



 現れた異形のフルプレートの者は自分自身の姿に驚いた様子を見せた。両手、肩、女性の特徴を残した胸、腰回りを覆う長い水晶柱の装甲を目で確かめる姿には慌てた様子さえ見える。



「……マッシブねえ? あの男のセンスが強く反映されるのね?」



 遠くから対物狙撃弾が撃ち込まれた。衝突音だけが響き渡るが着弾地点も分からなかった程にフルプレート姿の異形に動きはない。目鼻も隠した鎧に覆われた顔がクラリッサの方を向いた。それだけでクラリッサの上半身が消失する。



「……こんなの想定外だわ。 戦い方も分からない」



 呟いた声はニナのものだった。

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