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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第十章 最終決戦
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07‐ 感染者の盾

『市民による個別の情報発信を集めて確認しているんだけど』



 アンジェラが思考回線でこの場にいる全員へと話しかけた。思考回線システムを脳内に構築できないカイマナイナとミサキには交換機と呼ばれるヘッドセットが渡されている。音声に変換するだけの受信専用機となり、二人が思考回線上の会話に参加する時には肉声で文字通りに口を挿むことになる。



『ニナの周辺に展開する感染者の盾は自発的に集まった者で構成されているわ。洗脳や憑依に因るものではない……。 とても効率的な手段を採っているわ』



 ニナは自分を‟本来は治癒の力を持つエレメンタリスト”であると名乗っている。この感染拡大を仕掛けている者が誰かは分からないが、自分の能力が及ぶ範囲内に留まっていてくれれば発症の進行を遅らせる事が出来る。そう宣言し、実際に中央広場に集まった者の中から死者を出さずにいる。



‟事件を起こした犯人は、やがて邪魔立てする自分の存在に気づくだろう。その時には自分が前に出て戦うが、武器を持てる者、力のある者は自分で自分の身を守るための戦う準備を整えて広場に集まって欲しい”



‟戦う力のない子供や女性、力の弱い者は広場のより中心近くに集まって欲しい。力を持つ者は外縁を護る様に能力の範囲内に散開して欲しい。共に力を出し合い、助け合い、みんなで生き延びよう”



『この欺瞞情報を広めた結果、ニナは集団を操る事に能力を割く事なく群衆全体をコントロールできる環境を手に入れた事になるわ。こちらは攻撃がニナに近づく程、子供や女性などに犠牲を強いる事になる。攻撃しずらい、嫌な布陣だわ』



 アンジェラの報告を聞いたアイリーの心に塗炭の苦しみが拡がる。将来、再発が予見される事故から犠牲者を出さないための事故原因調査に命を削ってきた自分が、自らの手で人の命を薙ぎ払う様に奪わなければいけない。



 そんな決断や覚悟が簡単に出来る訳がない。想像力を消し去り、自分の行動責任に目を塞いでしまえば、どんな残酷な決断でも可能になる。だが現実に対する分析力と判断力はアイリーが自分に存在価値を見出せる唯一の能力だ。仕方がなかったんだ、の一言で思考を放棄する事は自分を否定する事に他ならない。



「そんな難しい顔をしなさんな、アイリーさん。あんたはエレメンタリストの戦い方をまだ知らない。感染者の盾は俺に任せてくれていい」



『自分が責任もって殺すから、アイリーは気に病むなっていう話ならアイリーには通用しないぜ? 大将?』



「古い言い回しを知ってるなあ、ドロシアさん。俺は軍事を生業とする者だ。民の命の大事を疎かにして軍人は務まらないよ」



『カッコいい事言ってサムアップしてるトコ悪いけど、あたしはクラリッサだよ。ミサキの説得力の無さはそういうトコだぜ?』



 ミサキが良い笑顔で笑った。



「俺の様な朴念仁に美人の見分けは難しいな」



『いい笑顔で語りくれた上にサムアップする朴念仁。ほんと、そういうトコだぜ?』



 クラリッサの混ぜ返しを聞き流しながらエドワードはアイリーへと顔を向けた。気づいたアイリーがエドワードを見る。



『君の推理は傾聴に値するものだったよ、アイリー。だが我々は法と秩序の守護者だ。どんな事情が背景にあるにせよ、彼女の謝罪を無条件に受け入れる事は出来ない。模倣犯が妄想する事すら諦める様な完敗を彼女に与え、世に示さなければ俺たち守護者の存在価値はない。秩序を守護する者の力を示す必要に理解を示してほしい』



 ‟楽しいおしゃべりだけで事態を収められると思っていたの?”というのはかつてニナがアイリーへと放った問いだ。力の衝突を抜きにした話し合いを彼女は望んでいない。そしてアイリーにはニナの望みさえも汲み上げねばならない事情があった。



「これだけの事件に平和的解決は俺も望んでいません。存分な活躍を期待します」



 そう応えてアイリーはエドワードに大きく頷いて見せた。迷彩装備を身に着けているアンジェラとブリトニーの姿が掻き消えた。羽音にも似た無数のプロペラ音が空中へと駆け上ってゆく。クラリッサが司令車から長剣を持ち出してきた。楽しそうな笑顔だ。



 柳葉刀と呼ばれる中国の刀によく似ている。柄の部分とクラリッサの体が長いコードで結ばれている。アイリーの視線に気づいたクラリッサがアイリーにウィンクを返した。武器の説明をする気はないらしい。



「俺には首を刎ねられた恨みがある。個人的にはかなりデカい恨みだと思えるんだがな」



 ミサキの全身から淡く白い光が立ち上り始めた。





引用されたニナの発言は第七章四話・パターソン病院の壊滅で登場します。お時間ある方は併せてお読み頂ければ幸いです。

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