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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第十章 最終決戦
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04- シン・アラモ市内


『クラリッサ! 話をややこしくしただけじゃん!!』



 リッカが抗議するがアイリーの判断は違った。



『この車を足止めする事を目的としていたシャオホンの意識がエイミー本人へと逸れた。エイミーも傍観の立場を捨ててシャオホンと正対を始めた。このタイミングで俺はニナの潜伏先を目指す。エドワード、案内してくれ』



 横方向に転覆を繰り返しながらも偶然に上下が正しい位置で停止した車がエイミーを残して疾走を始める。エイミーは車の後姿にさえ興味を払わない。片手で抱えていた2本の剣を左右の手に持ち替えてシャオホンに対して構える。鞘に収まったままだ。



 エイミーの唇が小さく動いた。



「一切が色を断ち削る力を示せ、クザン。一切が空を断ち削る力を示せ、バキル」



 エイミーの左右の手にある剣が呟きに呼応して姿を変える。鞘は喪失した。濃藍と呼ばれる黒に近い青の皮鉄に白銀の刃紋を持つ刀と、瑠璃紺の皮鉄に白と灰の綾が浮く刃紋を持つ刀。



‟吾が名を半分しか呼ばぬという事は示す力も半分でという事だな?”

”その通りだ”



‟我が名も半分しか呼ばれなかった。口惜しき事よ”

‟この上で出し惜しみはするなよ”



 二本の刀がそれぞれにエイミーに語り掛ける。思考通信システムを持たないエレメンタリストだが刀の声はエイミーの心に直接響いてきた。それぞれに個性があるらしい。



 相手の準備が整う時間を待つ理由はない。距離を詰めるための時間すら必要としないシャオホンがエイミーの背後に突然現れ背骨を目指して掌底を突き入れてくる。左手に逆手で持たれた刀が予備動作もなくシャオホンの顎下へと真下から突き上げられる。



 掌底突きが届く前にエイミーの体が反転し横薙ぎの一閃がさらにシャオホンを襲うがシャオホンの姿は既に消えている。



 エイミーの背を砕くはずだった衝撃破は空を走り壁の様に空間を塞いでいた柱の残骸を破砕する。エイミーが横薙ぎに払った右手の剣の太刀筋はシャオホンを見失って空を切り数メートル先の瓦礫に削り取った様な傷跡を残した。



 エレメンタリストの力は個人差が大きい。ほとんどの者がその力を有効範囲の拡大に割り当てる。能力向上を果たしたニナが直径15キロの円環を生んだのも範囲拡大を彼女自身が望んだからだ。



 剣を能力発動の媒体とするエイミーと、自分の手足を媒体とするシャオホンは能力の有効範囲をその刃の上のみ、自分の手足の先のみに限定する事で能力の密度を追及した。目指したのは相手の能力を否定・無効化する力。空間移転の物理防御も法則置き換えの防御も突破して自分の力の発動のみを相手の空間に強要する力。



 戦闘特化のエレメンタリストとしても異質な判断であり存在だった。

 


「私がニナについた理由を聞かないの? 治安介入部?」



「興味のない話だ。ニナとは誰かという事さえ興味がない」



「まだ自分にしか興味のないガキのまま? 言われた仕事だけこなして何十年もただ生き永らえている無気力エレメンタリスト。 殺戮バカ。 貴女の笑った顔なんて見たことないけど、生きてて楽しいの? ……エイミー?」



「ずっと喋り続けてもらえれるとありがたい。お前は背が小さすぎてよく見えない。声が聞こえるところを斬っていけば、そのうち当たるだろう。小さすぎる的は当てるのが面倒だが、当たれば真っ二つになる。小さいからな」



 冷笑が行き来する会話と並行して、二人の周辺だけがシュレッダーにかけられた破砕塵の廃棄場所の様に変貌している。



 破城槌サイズの火焔を自在に操り、巨獣の死骸を傀儡の様に操ったエレメンタリストが、その名を聞いただけで膝を屈して恭順の姿勢をとった。雷撃を自在に操るエレメンタリストが最初から抵抗を放棄した。エイミーとシャオホンの戦いはそういうエレメンタリスト同士の激突だった。



「60年越しの遺恨を晴らすからね、エイミー」

「そんな願望を持つ者がいる事自体を、わたしは許さない。ここに留まった理由だ」



 攻防の速度がさらに上がった。



   ・

   ・

   ・


 疾走する車の中でアイリーが見たのは地獄絵図そのものと言える市街の様相だった。



 感染した市民は体の発光の度合いが自分の死へのカウントダウンだと理解している。未感染の者に触れる事で発光が一時的に収まる事も知れ渡った様だ。



 結果、市民が市民を襲う姿で市街地は混乱を極めていた。その中でアイリーは数人でまとまり動こうとしない集団を幾つか目にした。



『他人に死を強制する位なら自分達で死の連鎖を止めようと決めた人たちが集まって互いを励ましあっている。自分の死の瞬間まで他人を励まし続けている。そういう集団だよ、アイリー』



 リッカの声にアイリーの思考が大きく乱される。



『助けようと思ったらダメだよ、アイリー。 アイリーが小規模な集団を助けようとする間に市内は全滅する。感染の拡大速度はそれくらい早くなっている』



「アイリー…… この後、ニナを目の前にして君はどうするつもりだ?」



 車のコンソールパネルを通してエドワードの声が尋ねてきた。



「虐殺行為の動機を消滅させる。その後の彼女の処遇は俺には分からない。二度と虐殺行為をしない確信を得るまで彼女と向き合うつもりだ」



「彼女の暴挙を止めるだけの根拠をキミは持っているのか?」



 アイリーは答えない。人間であるアイリーにはエレメンタリストを罰する力などない。最初からだ。ならば何故、彼はハリストスと呼ばれ渦中へと巻き込まれていったのか。



 最初から横たわっていた疑問だ。そしてアイリーはその疑問に対する答えを手に入れかけていた。リッカがアイリーに代わってエドワードにアイリーの推理を伝える。



 車の目的地が見えてきた。市の中心から僅かに北にずれた場所にある巨大な森林公園。

GPS発信機はそこから信号を発している。

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